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いま必要なのは「地方創生仕分け」なのだと痛感した話

すっかりバタバタしてしまって告知が後回しになってしまったのだけど、来週(クリスマス前後)に僕が責任編集をした『2020年代のまちづくり: 震災復興から地方創生へ、オリンピックからアフターコロナへ』が発売になる。

これは復興ビジネスの功罪、オリンピックの空転、ウォーカブルシティへの取り組み、地方のリノベーションブーム、東京の「駅ビル化」、「新しい生活様式」の是非……震災以降の「まちづくり」の論点を詰め込んで(見る人が見たらわかるめちゃくちゃ豪華なメンツで)語り倒した」本だ。

先週土曜日の渋谷ヒカリエの年忘れイベントで先行販売したので、もう読んだ人も数十人いると思うのだけれど、今日はこのムックを編集して考えたことのうちのひとつ……というか、さすがにエピソードの性質上、載せられなかった「個人的な体験」とその感想を書こうと思う。

例によって結論を先に書いてしまうと、僕が改めて痛感したのは東京と地方の噛み合わなさ、みたいなものだ。はっきり言ってしまえば僕は地方の「意識高い地方創生」の類は一度全部その具体的な成果を計測して「仕分け」したほうがいいと思っている。そう、今必要なのは「地方創生仕分け」だ……これが僕の結論だ。これから書くのは、僕がそう考えるようになったきっかけのひとつのエピソードだ。

この本に限らず、僕は街づくりや地方創生の取材をすることが多いのだけれど、これは何年か前にある「地方創生」の成功例として有名な自治体の視察に行ったときの話だ。そこは林業を軸にした町おこしで注目されていて、東京からやってきたクリエイターがどっしりとスタジオを構えて制作している家具の類は高い評価を受けている。僕も販売店兼スタジオを見学させてもらったけれど、どれも素晴らしいものだった。その日泊まったオーべルージュの建物と食事も負けないくらい素晴らしく、基本的には素敵な体験だったのだけど疑問を感じることも多かった。

まず、この街は林業ベンチャーでイノベーション、みたいな謳い文句をよく使っているのだけれどその実態は(僕の見た限りは)かなり……だった。せいぜい樹木の位置把握にIT技術を導入しているくらいで、これをイノベーションと呼ぶならおじいちゃんがスマートフォンでLINEを覚えて孫に写真を送れるようになったことも「イノベーション」と呼べるだろう。そして地方創生あるあるだと思うのだがこの林業ベンチャーの資金源は、自治体を経由した間接的な税金であり、正直言って東京で鳴かず飛ばずだったベンチャー起業家が地方の補助金ビジネスで数年食っていける方法を見つけた、以上の感想を抱くのは難しかった。

そして更に驚いたのがその地方の意識の高い地方創生系NPOだか一般社団法人だかの「研究員」の青年が、この山村で「ウォーカブルシティ」の研究をしていたことだ。

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僕はもはやFacebookやTwitterは意見を表明する場所としては相応しくないと考えています。日々考えていることを、半分だけ閉じたこうした場所で発信していけたらと思っています。

宇野常寛がこっそりはじめたひとりマガジン。社会時評と文化批評、あと個人的に日々のことを綴ったエッセイを書いていきます。いま書いている本の草…

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