和歌山紀北の葬送習俗(31)最終号:死と迷信
▼まず、このページでは一部、死体に関する描写があります。読み手に心的外傷を与える可能性があるので、特に死体をまだ見たことのない子どもや極端に苦手な方は読まないようにして下さい。学問的な文脈から述べるにすぎないものですが、一切の責任は問いかねます。
▼さて、半年がかりの大企画『和歌山紀北の葬送習俗』シリーズも今回がファイナルです(じつは少し似たような短期企画を進行準備中ですが・・・)。最終回は、死や葬送習俗と深い結びつきのある「迷信」を取り上げることにしました。
▼迷信に類似する専門用語として「俗信」があります。学術的には、「俗信」とは科学性や合理性を伴わないのに、それが現実の社会生活上の利益に影響する知識や信念のことをいい、それが現実の社会生活に著しく影響を及ぼすものを「迷信」といいます。実質的には俗信も迷信も同じようなものですので、ここでは「迷信」に統一します。
▼迷信にはさまざまなものがありますが、その多くは「AをすればBという結果を招く」という因果の形式で表現されます。
▼A(原因)の部分には、日頃の行い、自然(動植物)に対する認知や行動(見る、聞く、手を出す、使う、etc.)が入り、B(結果)の部分には病気、死、災害(風水害、地震、火災など)などが入ります。なお、Bの部分には凶兆を示す事柄だけでなく、吉兆を示す事柄が入ることもあります。
▼興味深いのは、多くの迷信において、上記Bの部分に、個人ではなく家における死や災厄が入ることです。「死人が出る」「死人がある」という表現も、どこに出て、どこにあるのかという点で解釈すれば、個人ではなく家単位を前提として作られた迷信であるといえます(飛田 1996)。
▼また、一部の迷信は、人権上の問題(女性差別、障がい児・者差別、昔でいう部落差別など)を引き起こしやすい危うさを持っています。
▼古典的な迷信には、穢れ観念、男性優位社会、そして不安が強く関与しています。穢れ観念とは、死体や血、疾病、葬送などに対する忌避的な価値観のこと、男性優位社会とは、女性に対する過剰な規制(女性はあれをしてはならない、これをしてはならない)や出産する女性を忌み嫌う傾向(月経や出産で出血するため穢れの対象とされていた)のこと、そして不安とは、人はわからないものや未来に対して不安を抱くという性質のことです。
▼現代人がそのような迷信を見たとしても、それらが非科学的・非合理的であることは明白です。しかし、人権上の問題を招きうる迷信を興味本位に取り上げるわけにはいかないので、その類のものは意図的に除外しています。何卒ご理解下さい。
▼なお、登場する市町村名とその位置は『和歌山紀北の葬送習俗(3)死亡前の習俗』を参照して下さい。ほとんどの事例は全国各地にみられることから、掲出している市町村名にあまり意味はありません。
1.身体・身体症状を凶兆や死と関連づけた迷信
(1)「身体」を凶兆や死と関連づけた事例:
・手の親指と薬指との間に筋が入った者は親と早く死に別れる(和歌山県紀南地方:明治年間)
・歯のたくさんすいている人は親の死に目に会えない(和歌山県旧那賀郡田中村:昭和10年代)
(2)「身体症状」や「疾病」を凶兆や死と関連づけた事例:
・妊娠したまま埋葬してはならない(奈良県旧宇智郡:大正年間)
・耳鳴りがひどいときは身近に死人がある(大阪府河内長野市石見川・千代田:年代不詳)
・同年齢の人が死ぬと耳鳴りがする(奈良県吉野郡旧大塔村:昭和30年代)
・同年齢の人が死ぬとミミガネが鳴ってしようがない(奈良県吉野郡野迫川村:昭和40年代)
・しゃっくりを百回すると死ぬ(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・便所で倒れると3年目に死ぬ(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・肺病神はその病人が死ぬとその家の水甕の中に隠れる。それで病人が死ぬと炊事場の水甕を野原に持ち出して破壊する(奈良県旧宇陀郡:昭和初年代)
2.夢や幻・架空の現象を凶兆や死と関連づけた迷信
(1)「夢」を凶兆や死と関連づけた事例:
・田植えをしている夢を見ると誰かが死ぬ(大阪府河内長野市滝畑:年代不詳)
・田植えをしている夢を見ると親類に死人が出る(奈良県旧宇陀郡:昭和初年代)
・山桃が赤々とたわわになっている夢を見ると誰かが死ぬ(大阪府河内長野市滝畑:年代不詳)
・歯の抜けた夢を見れば両親が死ぬ(和歌山県紀南地方:明治年間)
・上歯が一本抜けた夢を見れば身内の年上の者が、下歯が一本抜けた夢を見れば身内の年下の者が死ぬ(奈良県吉野郡旧賀名生村:昭和30年代)
・上歯が抜けた夢を見ると直系尊属が、下歯が抜けた夢を見ると直系卑属が死ぬ(奈良県吉野郡旧西吉野村:昭和30年代)
・前歯が抜けた夢は他人に、奥歯が抜けた夢は親に死に別れる(奈良県吉野郡旧賀名生村:昭和30年代)
(2)「人魂」を凶兆や死と関連づけた事例:
▼人魂と火の玉の区別が不明瞭ですが、両者を同一のものと解釈してもあまり問題はないと考えられます。
・人魂が飛ぶと人が死ぬ(奈良県吉野郡旧西吉野村:昭和30年代)
・人が死ぬと火の玉が飛ぶ(和歌山県旧那賀郡岩出町:昭和40年代)
・人が死ぬ前は魂が火となって飛び去る(和歌山県伊都郡:大正初年代)
・人が死亡する直前に人魂が飛ぶ(和歌山県伊都郡かつらぎ町天野:年代不詳,和歌山県旧那賀郡田中村:昭和10年代)
・人魂が出る家には死人が出る(和歌山県紀南地方:明治年間)
・火の玉が病人の家の近くを飛ぶとその病人は死ぬ(和歌山県橋本市:昭和40年代)
・人魂が飛んでいって落ちた家から死人が出る(大阪府河内長野市太井・寺元:年代不詳)
・人魂が峠を越さずに村の上で消えたら村の誰かが死ぬ(奈良県吉野郡旧大塔村篠原:昭和50年代)
・火の玉を受けた人は死に、受けてもらった人は生きる(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・人が死ぬと人魂が飛ぶが、女性は死んでも飛ばない(奈良県吉野郡野迫川村:昭和40年代)
・人魂が落ちた所には蛆がわく(和歌山県伊都郡かつらぎ町天野:年代不詳)
・人魂を見ると長生きをする(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・人魂が地上に落ちれば無数の黄金虫となる(和歌山県伊都郡:大正初年代)
・火の玉は青黄色で上下に揺れながら家すれすれの低い所を生まれた上に向かって飛んでいく(和歌山県旧那賀郡岩出町:昭和40年代)
・火の玉は身内の人には見えない(和歌山県旧那賀郡岩出町:昭和40年代)
3.動植物を凶兆や死と関連づけた迷信
▼動物は、カラス(の鳴き声)が一般的です。植物については、柿が現世とあの世を結ぶ境界の木とされているほか(常光 2006)、飛田はシャクナゲ、ホウセンカ、ホオズキ、ツツジ、フジが病気や死、凶兆と関係する迷信に、サクラは絶滅と関係する迷信にそれぞれ使われやすいと指摘しています(飛田 1997)。
(1)鳥類の事例:
・カラスが鳴くと死人がある(奈良県吉野郡旧大塔村:昭和30年代)
・カラスが非常に鳴くと死人がある(和歌山県橋本市:昭和40年代,和歌山県紀南地方:明治年間)
・カラスの鳴きが悪いと人が死ぬ(大阪府河内長野市:年代不詳,大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代,和歌山県伊都郡かつらぎ町平:昭和50年代,和歌山県旧那賀郡岩出町:昭和40年代,和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代,奈良県吉野郡旧賀名生村、奈良県吉野郡旧西吉野村:昭和30年代)
・死人が出る前にはカラスの鳴きが悪い(奈良県吉野郡旧大塔村篠原:昭和50年代)
・カラスが悲しそうに鳴けば人が死ぬ(和歌山県旧那賀郡田中村:昭和10年代)
・カラスの啼聲が変調を帯びると近くで死人がある(奈良県宇陀郡:昭和初年代)
・死人の出る家の人にはカラスの鳴き声が聞こえない(大阪府河内長野市島ノ谷・石仏:年代不詳)
・「カァー、カァー」と鳴くカラスは死にカラス、「カァカァ」と鳴くカラスは産(うぶ)カラス(大阪府河内長野市滝畑:年代不詳)
・死にカラスと喜びカラスがあり、後者は子が生まれることを知らせる(奈良県吉野郡旧大塔村:昭和30年代)
・カラスが鳴くのは魂が飛ぶのを見るからである(和歌山県旧那賀郡岩出町:昭和40年代)
・雌鶏が鳴くと不吉な事がある(奈良県吉野郡旧西吉野村:昭和30年代,和歌山県橋本市:昭和40年代)
・鶏が宵鳴をすると不吉な事がある(奈良県宇陀郡:昭和初年代,奈良県吉野郡旧賀名生村:昭和30年代)
・燕が家宅の中に巣喰うと不慮の災厄に遭う(奈良県宇陀郡:昭和初年代)
(2)犬と猫の事例:
・犬が長鳴きすると人が死ぬ(大阪府河内長野市:年代不詳,大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・猫は化けるので盥で伏せておく(奈良県五條市下島野:昭和30年代)
・死人の上を猫が飛び越すと死人が立ちあがる(奈良県宇智郡:大正年間,和歌山県旧那賀郡田中村:昭和10年代)
・死人の上を猫が飛び越すと死体が踊り出す(奈良県吉野郡旧賀名生村:昭和30年代)
・死人の枕元へ猫が来ると死人が生き返る(奈良県吉野郡野迫川村弓手原:昭和40年代,和歌山県紀南地方:明治年間)
・死体の傍に猫がいると死体が動き出す(奈良県吉野郡旧西吉野村:昭和30年代)
・臨終の場に猫がいると息を引き取りにくい(奈良県吉野郡旧賀名生村:昭和30年代)
・猫を飼っている家は葬式が済むまで箱か籠に入れて出さない(和歌山県日高郡旧龍神村山路:昭和50年代)
(3)その他の動物の事例:
・ねずみがいなくなると不幸が起こる(和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代)
・道を行くときイタチが前途を横切るとその人の身辺に凶事がある(奈良県宇陀郡:昭和初年代)
(4)植物の事例:
・柳の木は焚くと死臭があるといって薪にしない(奈良県宇陀郡:昭和初年代)
・茄子の木を薪とすると禍が起こる(和歌山県紀南地方:明治年間)
・フタトコ茄子(2箇所に茄子を植えること)をすると人が死ぬ(奈良県宇智郡:大正年間,奈良県吉野郡旧賀名生村:昭和30年代,和歌山県伊都郡:大正初年代)
・フタトコ茄子は不吉である(奈良県吉野郡旧西吉野村:昭和30年代)
・屋敷に枇杷を植えると凶事がある(和歌山県伊都郡:大正初年代)
・枇杷の木を屋敷内へ植えると人の血を吸う(和歌山県紀南地方:明治年間)
・柿の木から落ちると3年目に死ぬ(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・女性は柿の種を持って嫁入りし、死ぬ時にそれを火葬の薪にしたという(奈良県吉野郡:年代不詳)
・柿の結実の夢を見ると葬式の報せがある(奈良県宇陀郡:昭和初年代)
・柚の木は植えた当人が代を譲るか死後でないと結実しないといって家の近くに植えることを忌む(奈良県宇陀郡:昭和初年代)
・ソテツに実がなるとその家に禍が起こる(和歌山県紀南地方:明治年間)
・梅干しにカビが生えたらそこの家の人が死ぬ(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・3月にごぼうを植えたら誰かが死ぬ(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・4月にごぼうを植えると葬式ごぼうになる(奈良県吉野郡旧賀名生村:昭和30年代)
・フタトコごぼうは不吉である(奈良県吉野郡旧西吉野村:昭和30年代)
・本家の南に山椒を植えると凶事がある(和歌山県伊都郡:大正初年代)
・苗代に畦豆(あぜまめ)を植えると凶事がある(和歌山県伊都郡:大正初年代)
・苗代田に白豆を植えると葬式の門出の豆になる(奈良県吉野郡旧賀名生村:昭和30年代)
・稲種を苗代に蒔いてから四十九日目を苗厄といって田植えはもちろん苗を手にしない(奈良県宇陀郡:昭和初年代)
・藁の節が抜けると親類に死人が出る(和歌山県紀南地方:明治年間)
・ウドンゲの花が咲くと不幸が起こる(和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代)
・南瓜がなりすぎるのは不吉である(奈良県吉野郡旧西吉野村:昭和30年代)
4.子どもや女性と死をめぐる迷信
(1)子どもをめぐる事例:
・生後百日までに死んだ子供は後々まで祀るな。祀らなかったら早く生まれ変わる(奈良県吉野郡旧賀名生村:昭和30年代,和歌山県橋本市:昭和40年代)
・親が子どもの遺体に涙を落とすと早く生まれ変わらない(奈良県吉野郡旧賀名生村:昭和30年代,和歌山県橋本市:昭和40年代)
・双児の一方が死ぬと必ずもう一方も死ぬ(和歌山県紀南地方:明治年間)
・死者の掌に字を書いておくと生まれ変わりの子どもの掌にその文字が現れる(奈良県宇智郡:大正年間)
・子どもが死んだときに母が墓所で乳を絞れば乳が止まる(和歌山県紀南地方:明治年間)
(2)女性をめぐる事例:
・その年のはじめに女の死人があれば、その年は死人が多い(和歌山県旧那賀郡粉河町:昭和30年代)
5.葬儀等に関する迷信
(1)遺体の安置に関連する事例:
・北枕で寝るな(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代,和歌山県紀南地方:明治年間)
・薬鍋の口は北に向けるな(和歌山県紀南地方:明治年間)
・足袋を履いたまま寝れば親の死に目に遭えない(和歌山県紀南地方:明治年間)
・屏風を逆さに立てるものではない(和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代)
・死人の枕元に刃物を置かなければ魔がつく(和歌山県旧那賀郡田中村:昭和10年代)
(2)枕飯に関連する事例:
・一膳飯を食うな(大阪府河内長野市小山田・高向:年代不詳,和歌山県橋本市:昭和40年代,和歌山県伊都郡かつらぎ町平・大久保:昭和50年代,和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代)
・他家に呼ばれた際に一杯飯を食うな(和歌山県日高郡:昭和40年代)
・普段は三合飯を炊くな(奈良県吉野郡野迫川村:昭和40年代)
・汁は三杯食うものでない(和歌山県紀南地方:明治年間)
・飯をよそうときは一回でするものではない(和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代)
・飯に箸を立てるな(大阪府河内長野市小山田・高向:年代不詳)
・飯に箸を一本立てるな(和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代)
・一本箸で食べるな(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・箸で食物を挟み合いすれば死ぬ(和歌山県旧那賀郡田中村:昭和10年代)
・茶碗を叩くと餓鬼が寄ってくる(和歌山県伊都郡:大正初年代)
・飯を食う時に茶碗を叩くと餓鬼が来る(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
(3)湯灌に関連する事例:
・4時を過ぎて爪を切れば親の死に目に遭えない(和歌山県紀南地方:明治年間)
・夜に爪を切るものではない(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・夜爪を切ると親の死に目に会えない(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代,和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代)
・手足の爪を同時に切るものではない(奈良県五條市大津:昭和30年代,和歌山県伊都郡かつらぎ町平・大久保:昭和50年代)
・湯を沸かすときは必ず蓋をせよ(奈良県吉野郡旧賀名生村:昭和30年代,和歌山県橋本市:昭和40年代)
・墓参りに持参するやかんは蓋をするな(和歌山県橋本市:昭和40年代)
・硬直した死体に心経を唱えると柔らかくなる(奈良県吉野郡賀名生村:昭和30年代)
・湯灌の水を飲めば病気に伝染らぬ(和歌山県:年代不詳)
(4)死装束に関連する事例:
・逆さ着物はよくない(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・一枚の着物を多勢で縫ってはならない(奈良県吉野郡野迫川村弓手原:昭和40年代)
・死んだ人の片袖を柱に掛けておくと幽霊が出る(和歌山県紀南地方:明治年間)
・紐や帯を切ると短命になる(和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代)
・着物の衿を外して紐にしてはならない(和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代)
(5)葬儀の日程に関連する事例:
・三隣亡の日に葬式を出すと7人死ぬ(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・三隣亡の日に家を建てると不幸になる(和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代)
・三隣亡に建物をすると皆倒れる(奈良県宇陀郡:昭和初年代)
・友引の日に葬式を出すと重なる(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・友引の日の葬式を出すと友を呼ぶので時間を遅くする(和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代)
・卯の日に葬式を出すと重なる(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・卯の日に葬式をすれば葬式が3つ重なる(和歌山県紀南地方:明治年間)
・卯の日の葬式は遅くなる(奈良県宇陀郡:昭和初年代)
・卯の日には餅をつくことを避ける(奈良県宇陀郡:昭和初年代)
(6)棺に関連する事例:
・長生きした人が死んで棺に入る時、その棺に入れてもらうと長生きする(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・生前自分の棺を作っておくと長生きする(和歌山県伊都郡かつらぎ町天野:昭和50年代)
・棺の中に家族の病名を書いた紙を入れておくと病気を持って行ってくれる(和歌山県旧那賀郡貴志川町甘露寺:昭和50年代)
(7)棺担ぎに関連する事例:
・共同作業で左右互い違いの担ぎ方をすると「葬歛(そうれん)肩」といって忌む(和歌山県橋本市:年代不詳)
・履物を家の中から履き下ろすな(奈良県吉野郡野迫川村:昭和40年代,和歌山県旧那賀郡貴志川町北山:昭和50年代,和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代)
・人の周りを3回廻るものではない(和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代)
・家族の者が出掛けるときは座敷を掃くな(和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代)
・縁側で藁細工をするのを忌む(奈良県吉野郡野迫川村:昭和40年代)
(8)葬送(野辺送り)に関連する事例:
・葬式を送った者が、帰途他の道を通らなければきっと凶事がある(和歌山県紀南地方:明治年間)
・葬式の行き帰りは同じ道を通るな(和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代)
・会葬者が途中他の家に寄り道すればその家より死人が出る(和歌山県旧那賀郡田中村:昭和10年代)
・葬列が途切れると縁起が悪い(和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代)
・葬列が中途で途切れると次の葬式が近い(奈良県吉野郡旧賀名生村:昭和30年代)
・葬列で早く歩くと次の葬式が近い(奈良県吉野郡旧賀名生村:昭和30年代)
(9)墓地に関連する事例:
・墓でこけたら死ぬ(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・墓場で転ぶと3年の間に死ぬ(和歌山県伊都郡:大正初年代)
・墓参りの路で転ぶと猫になるといって甚だしく忌む(奈良県宇陀郡:昭和初年代)
・サンマイを通って倒れたら必ず死ぬ(和歌山県旧那賀郡田中村:昭和10年代)
・墓石が倒れたらその家の人が死ぬ(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・墓には一人で行ってはならない(大阪府河内長野市鳩原:年代不詳)
・大墓の阿弥陀堂が南側に扉が開くと北のほうで死者が出る。北側に扉が開くと南のほうで死者が出る(大阪府河内長野市滝畑:年代不詳)
(10)厄払い行為・死穢隔離に関連する事例:
・空の盥に足を片方入れると2年目に死ぬ(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・空臼をつくと葬式が出る(大阪府河内長野市小山田・高向:年代不詳)
・扇子の要を解いたり空臼を挽いたりするな(奈良県吉野郡野迫川村今井:昭和40年代)
・死んですぐに親族が神社境内に入ると必ず怪我をする(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
(11)三日干しに関連する事例:
・洗濯物の二日干しはよくない(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・洗濯物を北向きに干すものではない(奈良県吉野郡野迫川村今井:昭和40年代,和歌山県旧那賀郡粉河町野上:平成初年代,和歌山県海草郡旧野上町:昭和60年代,和歌山県紀南地方:明治年間)
・着物を夜干しをするものではない(和歌山県粉河町野上:平成初年代)
(12)成仏・追善儀礼に関連する事例:
・四十九日の餅を食べると癌になる(奈良県吉野郡旧西吉野村賀名生:昭和40年代)
・小餅49個をこっそり盗んで食べると持病が治る(大阪府河内長野市流谷:年代不詳)
・盆の仏迎えの時に後ろを向くと仏は帰ってこない(奈良県宇智郡:大正年間)
・盆の終わりに川に行くと死者がつく(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・彼岸の中日に墓へ参ると墓が燃えている(和歌山県伊都郡:大正初年代)
・餅や団子は数を数えながらを丸めるな(奈良県吉野郡野迫川村北股:昭和40年代)
・仏前に供えた物を食べれば、字を書くときに手が震える(和歌山県紀南地方:明治年間)
・お供物が黒くなると死人が続く(奈良県吉野郡旧大塔村:昭和30年代)
・お供物を食べると仏は淋しがらない(奈良県吉野郡旧大塔村:昭和30年代)
(13)その他の事例:
・お百度石を一度回ったら百度回らないと死ぬ(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年)
・巫女を寄すれば死人と面談が出来る(和歌山県旧那賀郡田中村:昭和10年代)
・人を焼く煙で尻をあぶると痔が治る(奈良県:年代不詳)
6.その他
▼いわゆる「三年坂伝説」は、京都清水寺三年坂(産寧坂)をはじめ全国各地に存在します(吉村・中河 2008)。
・和歌山城南の三年坂通りの途中で転ぶと3年目に死ぬ(和歌山県和歌山市:昭和年間(伝説の発祥は元和年間))
・3人で一緒に写真を撮ると真ん中の人が死ぬ(大阪府南河内郡旧川上村:昭和20年代)
・3人で米をつくと真ん中の者は3年早く死ぬ(大阪府南河内郡川上村:昭和20年)
・急死したとき、臼や壺に頭を入れて死人の名前を呼ぶと蘇生する(奈良県宇智郡:大正年間)
・火を2人で吹くとそのうちの1人が死ぬ(和歌山県伊都郡:大正初年代)
・他人の家を表より裏に抜けたら悪い(和歌山県旧那賀郡田中村:昭和10年代)
・寒の間に雷鳴すれば上つ方(=貴族)に祟り事がある(奈良県宇陀郡:昭和初年代)
・節分の晩の煎り豆を保存してその年の初雷鳴の時に食えば震死の厄を免れる(奈良県宇陀郡:昭和初年代)
・味噌の味が変わると不吉である(奈良県吉野郡旧大塔村:昭和30年代)
・死人が出る前には味噌の味が変わる(奈良県吉野郡旧大塔村篠原:昭和50年代)
・「四月死にミソ」といい、4月に味噌搗きをするのを嫌う(奈良県吉野郡旧大塔村:昭和30年代)
・味噌や漬物の味が酢くなると自分の家に死人が出る(奈良県吉野郡旧賀名生村:昭和30年代)
・味噌や漬物の味が変わったときに人が死ぬ(奈良県吉野郡旧西吉野村:昭和30年代)
文献
●賀名生村史編集委員会編(1959)『賀名生村史』賀名生村史刊行委員会.
●伊達市太郞(1930)「大和宇陀郡地方俗信」『民俗学』2(5)、pp337-339.
●五條市史調査委員会編(1958)『五条市史.下巻』五條市史刊行会.
●橋本市史編さん委員会編(1975)『橋本市史.下巻』橋本市.
●飛田範夫(1997)「庭園植栽の禁忌」『ランドスケープ研究』60(5)、pp391-394.
●板橋作美(1996)「火と小便―俗信の論理(三)」『東京医科歯科大学教養部研究紀要』26、pp17-33.
●伊都郡役所編(1971)『和歌山県伊都郡誌』名著出版.
●河内長野市役所編(1983)『河内長野市史.第9巻(別編1:自然地理・民俗)』河内長野市.
●近畿民俗学会(1980)「和歌山県那賀郡貴志川町共同調査報告」『近畿民俗』82、pp1-28.
●近畿民俗学会(1980)「和歌山県伊都郡かつらぎ町天野共同調査報告集(Ⅰ)」『近畿民俗』83、pp3369-3436.
●粉河町史専門委員会編(1996)『粉河町史.第5巻』粉河町.
●松本保千代(1979)「和歌山県の葬送・墓制」堀哲他『近畿の葬送・墓制』明玄書房.
●那賀郡田中尋常高等小学校田中村郷土誌編纂部編(1939)『田中村郷土誌』那賀郡田中尋常高等小学校田中村郷土誌編纂部.
●中野吉信編(1954)『川上村史』川上村史編纂委員会.
●西吉野村史編集委員会編(1963)『西吉野村史』西吉野村教育委員会.
●野上町誌編さん委員会編(1985)『野上町誌.下巻』野上町.
●野迫川村史編集委員会編(1974)『野迫川村史』野迫川村.
●岡本彌(1901)「紀伊国妄信俗傳」『東京人類學會雑誌』180、pp236-243.
●大塔村史編集委員会編(1959)『大塔村史』大塔村.
●大塔村史編集委員会編(1979)『奈良県大塔村史』大塔村.
●沢田四郎作・岩井宏実・岸田定雄・高谷重夫(1961)「紀州粉河町民俗調査報告」『近畿民俗』27、pp888-906.
●玉村禎祥(1972)「紀州岩出町の民俗―人生儀礼―」『民俗学論叢:沢田四郎作博士記念』pp88-95.
●東京女子大学文理学部史学科民俗調査団(1985)『紀北四郷の民俗:和歌山県伊都郡かつらぎ町平・大久保』東京女子大学文理学部史学科民俗調査団.
●常光徹(2006)「柿の民俗」『歴博くらしの植物苑だより』124.
●吉村裕美・中河督裕(2008)「三年峠と三年坂―韓国・日本そして京都―」『佛教大学総合研究所紀要別冊:京都における日本近代文学の生成と展開』pp253-274.
※市町村史から抽出した各事例に付記した年代は、文献発行年の年代(例:昭和48年発行→昭和40年代)とし、その文献が別文献から引用している場合(=管理人が孫引きする場合)は原文献の発行年の年代を付記した。但し、文献収集の段階で現代の市町村史が近代のそれをそのまま転載している事例がいくつか判明した(例:昭和中期の『●●町史』が大正時代の『●●郡誌』を転載、昭和中期の『●●町史』が昭和初期の『●●村誌』を転載、など)。したがって、事例の年代に関する信頼性は疑わしく、せいぜい「近世か近代か現代か」程度に捉えるのが適切である。
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