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読書感想『食堂かたつむり』小川糸

私にとって料理を作ることは、祈ることなのだ。

同棲していた恋人が、すべての持ち物と共に姿を消してしまった倫子。
買い集めた愛おしい調理器具も、亡くなった祖母と一緒に漬けた梅干しも、ある日帰った家には何一つ残っていなかった。
唯一残っていたのは、部屋じゃないところに置いていたぬか床だけ…
あまりの衝撃で声すら失ってしまった倫子は、10年前に飛び出してから一度も帰っていない山間の田舎に帰ることにする。
折り合いの悪い母親…おかんの元に戻った倫子は、そこで食堂を開くことにする。
一日一組限定でお客様をもてなす、メニューのない食堂を。


自分の家の本棚をまじまじと眺めてたら、だいぶ前に買うだけ買って読んでないことに気づいて自分でもびっくり…え、小川糸作品好きなのになぜ!?…積読の罠ですね。
というわけで、今さら過ぎる読了なんだが…とても、とてもよかった…
恋人に捨てられ、声まで失った倫子・通称りんごちゃんはなけなしのお金で実家である山間の田舎へ帰る。
彼女には折り合いの悪い、スナック・アムールを構える水商売の母・通称おかんがおり、おかんの持つ家の離れを借り受け食堂を開くのである。
そこにはメニューは存在せず、事前の面談でりんごちゃんがそのお客様にふるまうべきものを考えて提供するという変わったスタイルの食堂なのである。
お嫁さんが出て行ってしまった傷心の男性、伴侶が亡くなって以来ずっと喪に服すお妾さん、たまたまその町にたどり着いた男同士のカップル、好きな人と両想いになりたい高校生、ぼけてしまったおじいちゃんの誕生日会を開く家族…などなど、それぞれに事情を抱えたお客様に、彼らを笑顔にできる料理をりんごちゃんが悩んで、悩んで提供するのである。
声を失くした彼女はただ静かに、居心地のいい空間を作り出すことに専念し、彼らの心に響く料理を時間をかけて丁寧に提供する。
料理を食べた彼らは、それぞれにそのぬくもりを受け取り笑顔で店から帰るのである。
丁寧に、丁寧に…時間をかけ手間をかけ、そして何よりもその人たちのために心を込めて料理を作り出していく様がとても暖かい。
出てくる料理もとてもおいしそうで、読んでてお腹がすいてくる。
そうやってお客様一人一人と対峙していくりんごちゃんはやがて、自分と、おかんときちんと向き合うことになるのである。
小川糸作品らしく、あえて説明されてないことも多く、りんごちゃんのことが全て明確に説明されるわけではないのだが、むしろその不確定さが深みを増しているように感じる。
いや、若干いや恋人!?とか、え?マジでその出生??とか気にならないこともないが(笑)
りんごちゃんの視点で、りんごちゃんが知りえた情報と彼女の想像(ほぼ妄想)だけで進む物語は、哀しいことも辛いこともありながらも優しくて暖かい世界だった。
…なんで何年も放置してたんだろう…積読の管理にはもうちょっと気を配りたい…

こんな本もオススメ


・阿部 暁子『カフネ』

・古矢永 塔子『今夜、ぬか漬けスナックで』

・古内 一絵『最高のアフタヌーンティーの作り方』

おいしいものをしっかり味わうっていろんなことの基本なんだよな…ついつい簡単に片づけがちだけども。

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