平等ではなく公平な評価制度 #172 ジョブ型雇用
高度経済成長期そして、20世紀の近代的工業化と著しく発展した日本経済を支えたのは企業でした。
そして、その企業を支えたのは紛れもなく、そこで働く人たちです。
当時は、経済は常に右肩上がりに成長していくものだと信じられ、また、現実にそうなっていた時代でもありました。
結果的に、当時の人事制度の目的は、年功序列や終身雇用に代表される安定的な共同体としての労使関係の維持であったと言えます。
しかし、現代は、良いモノを作れば売れるとも限らない、多様性、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性などのキーワードが飛び交う「先行きの不透明な」時代への変遷しております。
更には、今後の日本企業は、外資の流入によるグローバル化が進むことで、より収益性を求められる欧米化に対応した経営が必要となってきます。
また、人事面からすると、少子高齢化や労働時間の制限から人材不足も深刻な問題となってきます。
経営を下支えするのが経営資源であり、その筆頭が、昔も今も、やはり、人材です。
その意味でも、近年の人事的なキーワードとして、HRが定着しています。
これは、Human Resourcesの略であり、単なる人材ではなく、人的資源を意味することとなります。
日本企業の共同体経営から定着した雇用形態を「メンバーシップ型雇用」といって、新卒一括採用型の雇用システムです。
その多くが総合職として雇用され、部署の異動によって、ジョブローテーションを繰り返させながら、長期的にキャリアを育成して行くのが基本となります。
そのため年齢、勤続年数、学歴などが評価のベースとなっています。
人材の能力を見極めて、適した職務を与える「適材適所」的な考え方となります。
対して、欧米を中心に日本以外の諸国で採用されるのが「ジョブ型雇用」です。
組織には、必ず、組織たる目的があります。
そして、その目的を果たすために組織体系があり、固有の職務(ジョブ)が存在します。
まずは職務ありきであって、そこに合ったスキルを持った人材を配置する「適所適材」的な考え方です。
具体的には、「ジョブディスクリプション(職務記述書)」に基づき、あらかじめ目標や報酬などの条件を明確にした上で雇用契約を行う「成果評価」となります。
目標に対する達成レベルを評価の対象とするため、「年功評価」の様な年齢や勤続年数などは評価軸から除外される評価方法です。
従来の「メンバーシップ雇用」では、発揮した成果に無関係の年齢、勤続年数、学歴も評価の一部でした。
あるいは、成果というより経験値などによる成長度を評価する傾向もありました。
しかし、それらの能力などが、事業発展に貢献しているかと言えば、必ずしもリンクしているものではない曖昧なものでした。
一方、「ジョブ型雇用」では、当初より評価の基準となる「ジョブディスクリプション(職務記述書)」が存在します。
評価は、この「ジョブディスクリプション(職務記述書)」と客観的に擦り合わせて行われることになります。
政府が内閣官房・経済産業省・厚生労働省の連名で公示した「ジョブ型人事指針(令和6年8月28日)では、「キャリアは会社から与えられるもの」から「一人ひとりが自らキャリアを選択する」時代と表現しています。
このジョブ型人事の解釈は、政府、労働者、企業で様々な受け取り方があります。
更に、それぞれの立場でも様々な受け取り方があることを理解しなければなりません。
政府は、ジョブ型人事への移行により、社内の内部労働市場と社外の外部労働市場をシームレスにつなげ、社外からの経験者にも門戸を開き、労働者が自らの選択によって、社内・社外共に労働移動できるようにして行くことが、日本企業と日本経済の更なる成長のためにも急務としています。
しかし、本当に、このような思惑の通りに事が進むのかです。
確かに労働者は、自らキャリアを選択できるかもしれません。
しかし、そのためには、自ら、そのスキルを身につける必要があります。
その意味でも、学び直しともされるリスキリングが課せられることとなります。
企業としては、職務は無限ではなく限られています。
社員が希望する職務が偏れば、空洞化する職務が発生してしまいます。
空洞化した職務は、社外から補充することが理想かもしれませんが、そもそもの人材不足の中で実現は難航する可能性があります。
実際、企業からは、次の様な危機感が示されているといいます。
ⅰ)最先端の知見を有する人材など専門性を有する人材が採用しにくい。
ⅱ)若手を適材適所の観点から抜てきしにくい。
ⅲ)日本以外の国ではジョブ型人事が一般的となっているため社内に人材をリテイン(確保)することが困難。
また、企業と労働者を結ぶのが職務記述書に示されたジョブとスキルの関係だけとなり、企業理念などの浸透が困難になる可能性もあります。
しかしながら、このジョブ型人事への流れは進むものは間違いないと考えますし、これを否定していても始まりません。
HRMを推進する上で、あらためて、平等と公平について考えました。
平等とは、性別、年齢、学歴などに偏りや差別がなく、更には、役職や発揮能力などを全く考慮しないこと。
対して、公平とは、役職や発揮する能力を考慮した上で同等に扱うこと。
ジョブ型人事とは、正に、公平の具現化制度になろうかと思います。
現在、私共の社内では、管理職に限定してジョブ型人事を開始しております。
しかしながら、欧米型というよりは、現状は、「メンバーシップ型雇用」との折衷型といえるかと思います。
特に「成果評価」は、場合によって、成果至上主義に偏ることもあり、必ずしも、経営目標とつながらないケースもあります。
そこで、「成果評価」に加えて「コンピテンシー評価」を取り入れています。
これが「メンバーシップ型雇用」で形成された組織であれば、顕著に表れると考えられます。
そのためにも社員の自律を促す人事評価制度は絶対に必要になってきます。
「コンピテンシー(competency)」とは、「組織の置かれた環境と職務上の要請を埋め合わせる行動に結びつく個人特性としてのキャパシティ、あるいは、強く要請された結果をもたらすものである」とか、「職務や役割における効果的ないしは優れた行動に結果的に結びつく個人特性である」と定義づけられています。
さらに一般的に分かりやすく表現するのであれば、「高い業績に結び付く行動や思考の特性」のことを意味します。
その意味でも「コンピテンシー評価」は、「ジョブ型雇用」を導入している管理職だけではなく、全社員に実施しています。
職種別に高い業績を上げている[ 人財 ]の行動特性を分析し、その行動特性をモデル化した基準として、人事評価することで包括的な組織の発揮能力を向上させることが目的となります。
「コンピテンシー評価」の基準は、経営として「求められる人材像」ともいえます。
しかしながら、架空の「求められる人材像」と比較するのではなく、実在する人材を基準に実在する人材を評価します。
何度も、基準とする人材を変えて、相対評価あるいは衆目評価を繰り返します。
そのため査定者の恣意的な評価も撲滅できる公明正大な人事評価も可能となります。
また、意欲的に行動する人も、そうでない人も、不公平に平等な評価される様な従来型の人事制度から、意欲的に行動し、成果に結び付けた人が高く評価され、そうでない人は低く評価される信賞必罰な人事制度も可能となります。
結果的に評価と経営への貢献度がリンクし易くなると考えております。
社内教育に関しても、会社に一方的に与えられるものではなく、社員が必要なスキルを自ら選択して身に着けることができるキャリアアップ勉強会の開催や教材書籍の貸与なども推進しています。
まだまだ試行錯誤段階ではありますが、将来的には、全社員に対して独自の「ジョブ型雇用」を実施することを目標としております。
そして、この人事制度という仕組みを通じて、現在および将来に向けての企業戦略に必要不可欠な人材像をより具体化させた形で社員に対して提示します。
ここの職務と成果を明確化させることで、社員の仕事に対する取組み意識は変わって来るものと考えております。