人事管理から人的資源管理へシフト #106 HRM
企業が成長し続けるためには、経営資源であるヒト、モノ、カネ、知識、知識などを活用したマネジメントが重要視されます。
なかでも、筆頭として重視されるのが、ヒト=人材です。
ところが、その人的資源が不足状態にあります。
その背景には、少子高齢化、労働時間規制、更には労働環境変化による新しいスキルに対応できる労働力不足など様々な要因があります。
その意味でも、近年の人事的なキーワードとして、HRが定着しています。
これは、Human Resourcesの略であり、単なる人材ではなく、人的資源を意味することとなります。
さらに、経営目標の達成を目指す機能として、HRを戦略的に有効活用するための仕組み、すなわち採用、教育、人事評価、人材配置などのすべてを統括するHRM(Human Resource Management)が重要視され始めています。
単に制度を整備して運用するだけでなく、組織と人材、人材と人材、それぞれの相乗効果によって事業に貢献できるように促す機能も含まれます。
そもそも、HRMが提唱される前の日本は、PM(Personal Management)でした。
つまり、人事労務管理です。
人件費は、固定費にあたります。
一般的な企業では、固定費は、コストです。
利益を確保するためには、如何に削減するかが重要となってきます。
つまり、PMは企業が利益を上げるにあたって、人材をコストとして捉え、労働力として、人事制度や労働環境を整え、それに基づき人材を管理統制する考え方でした。
一方、HRMは、人材を資源と位置付けています。
人件費が固定費であることは変わりませんが、コストではなく、投資と捉えるべきかと思います。
つまり、人材あるいは人件費を戦略的に活かして、企業の利益を上げる考え方です。
その様な日本で、HRMが、注目させるようになったのは、1990年代以降と言われています。
背景としては、バブル崩壊による経済が低成長時代に移ったことにあります。
また、少子高齢化の進展により、生産年齢(15〜64歳)の人口が減少傾向に転じた時期でもありました。
厳しい環境下で限られた人材を活用して成長して行かねばならない企業にとって、HRMの考えを取り入れることは、ある意味、当然の流れだったのだと思います。
大きな制度転換としては、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行です。
従来の日本企業の多くは、大量に新卒者を採用して、社内でキャリアを積ませながら、適材を適所に配置するメンバーシップ型雇用でした。
同時に日本企業の雇用制度の特徴として従来より慣行されて来た制度の見直しも進みます。
その典型が終身雇用と年功序列です。
終身雇用とは、企業が正社員を定年まで雇用し続ける人事制度です。
対して、昨今の転職市場の活性化の影響で離職者が後を絶ちません。
企業側としては、社内でキャリアを積んだ社員が、やっと一人前になったくらいで退職されてしまうことになります。
また、年功序列とは、貢献度や意欲に関係なく、勤務年数で評価される傾向の強い制度です。
これも貢献意欲の高い社員にとっては悪影響であり、離職を促す要因ともなっています。
対して、導入が進んでいるのがジョブ型雇用です。
ジョブ雇用とは、事前に職務(ジョブ)と必要とされるキャリアを明確にすることで、それに適した人材を配置する適材適所的な考え方です。
ジョブ型雇用の理想は、労働者一人ひとりが自らキャリアを選択する制度なのかと思います。
これによって、労働者が自分の意思でリスキリングを行うことで、希望の職種を選択できます。
リスキリングとは、労働環境に合わせた新しいキャリアの学び直しです。
また、労働市場の活性化によって、社内の内部労働市場と社外の外部労働市場をシームレスで繋ぐことで労働移動を活性化することができるというものです。
しかしながら、現実は、労働者のリスキリングは進んでいません。
また、希望する職種に偏りが出ることで、希望の職種に就職できないまま無職であったり、逆に募集しても希望者が集まらない職種が出ています。
HRMでは、絶対的なセオリーが存在する訳ではありません。
例えば、終身雇用の様に採用した社員に如何に終身まで働いてもらえるような、個々のキャリアプランに沿った人材開発を行うことが重要です。
そのためのリスキリングなどの教育機会の整備なども必要となります。
また、年功序列ではなく、公明正大、信賞必罰で評価する制度も必要になってくると思います。
その他、男女の均等な機会および待遇の確保などは当然ですが、シニア人材やパート社員など、個々の多様性に応えた待遇改善などによる労働力の活性化などは大きな課題です。
各企業は、HRMの推進により、限られた人材で、必要なパフォーマンスを発揮できるような環境づくりをして行かねばなりません。
その意味でも、従来の日本、あるいは各企業の人事制度を全面否定するのではなく、良いところは活かして時代に合わせた取り組みをして行くことが大切に思います。