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【伝統工芸に学ぶ教育論】第17章:和紙

「最近、折り紙で遊びましたか?」

折り紙

私、お仕事柄、またライフワークでも、
伝統、日本、工芸、教育などのキーワードをもって学び、発信し、働いていることで、相談されることも多くあります。

この前は、クライアントの海外出張を控えている方に、

「個人としてお土産を持っていきたい、海外の方には何がいい?」

と相談を受けました。(自身も海外出張30回ほど経験がある)
私がいつも答えているのは、

「和紙、折り紙」

と、お応えしております。

①かさばらないから (荷物のパッケージング対策)
②重くないから  (荷物の重量対策)
③ジャパンクオリティだから  (繊細な技を体験頂ける)

①②は、見てお分かりいただけるかと思います。
③は、日本人なら大半ができる「折り紙」のことです。
この折り紙、日本人にとって当たり前の存在かもしれませんが、ものすごい発明であり、価値であり、可能性を秘めています。
併せて、ご紹介します。




17-1:自然と人類の共栄サイクル

「澄んだ空気と清らかな水は、和紙漉きに適している。自然の恵みが、日本の歴史を記録し支えてきたのだ」と、物思いに耽る。

また、品質の高さは、技術力に支えられており、私たちの生活の様々な場所で利用されている。日本初の紙幣やかつての株券、国宝・文化財の保存や復元など。紙の丈夫さと美しさが故に成せるものである。

葦(ヨシとも呼ばれる)

和紙の原料として使われる「葦(あし)」は、日本の自然環境と密接に結びついている。特に、自然循環の中で、水をきれいにするという貴重な役割をもつ。葦は湿地や川辺に生育し、周囲の水を浄化。葦の根は、土中で栄養分や不純物を吸収する。葦が水を浄化する能力は、環境を守り持続可能な生態系を支える素材であることを意味し、湿地や河川のエコシステムにおいて不可欠な植物と言える。

繁殖力も強く、丈夫で、水をきれいにする「葦」。
先人たちは、その葦に注目し、和紙の原料とした。
自然環境に思いを馳せ、その循環の中で採取できる「葦」から「和紙」を創造した価値は、今の日本と世界が、再認識しなければならないことである。多くの工程を経て製造される和紙は、日本人の知恵の結集である。

私は、日本人の営みが職人の技によって、自然サイクルに組み込まれた完成形の一つと考える。自然を敬い、調和を重んじてきた日本の和の精神を象徴するものである。

17-2:和紙が証明し続ける最古の歴史

人類において、「紙」の発明は衝撃的なもの、と私は思う。
記録する、アウトプットする、共有する、表現する、など人類に紙がなかったら、まだ近代の文明はなかっただろう。

「記録する」

もし、紙がなかったら・・・
おそらく、全人類に詳細な「過去」がないだろう。
※壁画などで推測はできる

もし、和紙がなかったら・・・
おそらく、日本が世界最古たる歴史を証明することはできないだろう。

諸説あるが、日本は「世界最古の国」と認知されている。
※国とは何かの議論となるが、割愛する。

2,600年超とも言われる日本の歴史を、今、感じることができるのは、

その時、誰かが伝えようと記録したこと
その際、誰かが記録する媒体(道具)を製造していたこと
その後、誰かが記録物を保管したこと
我々が、記録した内容が、わかること

という、あらゆる奇跡が紡いだものである。

特に、特筆したいのは、
和紙という丈夫な紙の存在である。

洋紙は100年、和紙は1,000年

和紙は非常に耐久性が高く、千年以上も保存できると言われている。例えば、正倉院に保管されている奈良時代の古文書や、平安時代の書物も和紙で作られており、これらの文献が日本の歴史や文化を後世に伝えるための重要な証拠となっている。

和紙の耐久性は、素材そのものの特性に加え、職人による漉きの技術や保存方法などが組み合わさり、その高い水準を可能にしている。伝統的な漉き和紙は、繊維が絡み合って強度を持ち、紙が劣化しにくく、湿度や温度の変化にも強く、長期保存が可能となる。
現代においても、重要な文化財や歴史的文書の修復には和紙が使われており、その品質と耐久性が評価されているのである。

芸術的な価値も高く、日本画や書道など、伝統芸術の分野でも長く使われてきた。日本芸術が、現代まで語り継がれ、積み上げてきたその価値は、和紙の存在があったからこそ、と言っても過言ではない。
和紙は日本の文化遺産を守り続けるだけでなく、日本人の美意識を支えてきた象徴的な存在でもあるのだ。

17-3:ジャパンクオリティと折り紙

どの文房具コーナーにもある「折り紙」。
折り紙で遊んだことがない日本人は、ほとんどいないのではないだろうか。
「折り紙」は、単なる遊びや芸術の枠を超えて、今や日本がモノづくりにおいて大切にしている精密さや、忍耐力品質基準を示す象徴として世界中で評価されている。

折り紙は一枚の紙を折り、切らずに様々な形を作り出す技術だが、これにはクリエイティビティは勿論、繊細さ、正確さ、段取りの大切さ、注意深さ、などが求められる。
まさに、折り紙を通じて「ジャパンクオリティ」に触れていくのである。日本人のモノづくりの精神の一端が込められていると、私は感じている。

それを象徴するように、日本企業における海外労働者向けの研修では、なんと「折り紙」が使われる。日本企業が世界と差別化を図る高い品質その管理精密さの重視される分野において、その基準に触れるために研修が取り入れられているのである。

皆さんもお分かりだろうが、折り紙は、ただ折ればいいというモノではない。日本人なら当たり前のように理解されるだろうが、この当たり前を教えることほど難しいものはなく、誇れる価値でもあるのだ。端と端を一ミリのズレも許さない基準。もしズレてしまえば、完成した作品は、美しさを保てない。
私たちは、幼少期から「緻密ではないものは、美しくない」と刷り込まれてきた。

「緻密ではないものは、美しくない。」

これは、音楽でも絵画でも同じことが言える。アドリブという奏法も緻密な計算がある。偉大なる画家たちの絵画も、感性の上に成り立った計算が私たちに感動を与える。

「美しさには、意図がある。」

だからこそ、形を作るだけではなく、折り目の精度や美しさに対する高い基準が求められるのである。この「完璧を追求する姿勢」は、日本の製品やサービスの品質に対するこだわりそのものであり、今後、日本が更に世界に広げていくべき、エッセンスでもある。
言葉が通じずとも、研修や教育の一環で折り紙が使われるのは、日本を理解し、実践するための手段として効果的であるだろう。細部に注意を払い、慎重に作業を進め、生産効率を上げ、トラブルを防ぎ、歩留まりを良くするチームビルディングを可能とする。文化理解も促し、集中力や忍耐力を高めることも期待できるだろう。組織内の一つのミスが全体に影響を与えるという視野の広さも養われる。

折り紙を通じて、日本の精密さや美意識、チームワークの大切さが理解され、企業文化としての「ジャパンクオリティ」が育まれる。

17-4:日本の象徴である和紙

世界でも特有の文化を持つ日本。
訪日客が口を揃えて日本の魅力として挙げるのが、「歴史」と「美しさ」であるだろう。
だが歴史とは、形がないものである。見ることができない。訪日客は、歴史を感じているのだろう。その方法は、文化的な建物や宝物を観て、できるのかもしれない。

では、「歴史とはなにか」

日本中にある、書き記された和紙を積み上げたときの厚み、ではないだろうか。
名のある有名な歌人が歌った歌。
名もなき村人が残した手紙。
兵士が家族へ綴った遺書。

その結集が、日本の歴史であり、それを感じるために日本を訪れる方がいるのである。

では、「美しさとはなにか」

それは、
自然を敬い、自然サイクルの中に調和することを大切にした和の精神と、磨き上げられた技術でそれを形にする職人が作るもの)、つまり和紙であると私は思う。

和紙は、日本が持つ魅力そのものであり、「歴史」と「美しさ」の象徴と言える。
だからこそ、私たちは、和紙の可能性を忘れてはならない。

日本の歴史を支え、日本の美意識を育んできた和紙。

まずは、久々に、折り紙を折ってみてはいかがだろうか?



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