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【伝統工芸に学ぶ教育論】第12章:漆
漆塗りのお碗。漆塗りのお箸。
皆さんは最近、手に取って使いましたか?
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私は、毎朝漆塗りのお碗にお白湯を入れて飲むことと、夕食は味噌汁を飲むために使っています。朝のお白湯では、使ってみて不思議なことが起こります。
磯の香りがします。(何ででしょうか?漆は山のものだよな?)
朝は特に嗅覚もリセットされているので、匂うのは朝だけなんですが。
あと、漆は英語で「JAPAN」と言いますね。
日本をJAPANと言いますから、日本を象徴する意味合いと言えます。
※ちなみに国名のJAPANは、日本(ジツホン)からきていると社会人塾で学びました。
日本を象徴する素材なのに、いよいよ日本人の生活周りに漆がいなくなってしまっております。それにより、今後何が起こる可能性があるのか?私なりに考えておりますので、是非、ご紹介させてください。
12-1:漆は歴史を支える素材、育てる素材
日本には、育てることでその価値が深まる「素材」が数多く存在する。木や鹿の皮(甲州印伝)などもあるが、その中でも特に「漆(うるし)」は、日本を含むアジア地域に広がり、独特の文化と歴史を持つ素材である。建造物から日用品まで、その活躍の範囲と役割は、日本の歴史上最も重要な素材の一つと言っても過言ではない。
重要文化財の柱から、金箔を貼る下地と、日本の気候に適した素材でもあり、まさに「歴史を支える素材」ともいえる。
一方では、木の表面に塗ることで強度も増し、使い続けることでその美しさが増していく、庶民のお碗にまで使用されてきた。まさに「育てる素材」の代表例である。
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日用使いとして、漆器はただ実用的な器ではなく、使い込むことで風合いや艶が増し、年月を経て独自の味わいが出てくることは、持ち主の心を表し、日本人が古来から自然を敬い、物を大切にし、長く使い続ける文化を象徴しているものである。
12-2:漆の特性-日本特有の気候に調和する
漆は、木の樹液を原料としており、特に日本の気候や風土に合った素材である。日本の漆は、寒暖差のある地域で育つ木から採取され、この寒暖差が、漆の質を高める要因となると言われている。気候と漆との密接な関係が、日本独特の価値を生み出している。
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特性としては、塗布した後に空気中の湿気を吸収して硬化するため、湿度が高い日本の気候に非常に適していることである。四季を持つ日本ではあるが、興味深いのは世界の先進国の中でも湿気が多い地域である。故に、先人たちは、漆を塗る工夫をしたのである。
だが、漆はデリケートな素材でもある。実は温度や湿度に敏感で、極端に高温であったり、逆に乾燥しすぎたりすると漆の硬化が不安定になり、美しさや耐久性に影響が出る。
私も経験があるが、漆は熱に弱いため、熱いものを直接漆器に入れることは避ける必要がある。また、油分を多く含む料理も、漆に対してはダメージを与えることがある。漆器を使う際のこれらに注意点し、丁寧に長く育てる器として扱ってほしい。
12-3:使う喜び「漆フィードバック」
漆器は、使い込むことで独自の「フィードバック」をもたらす素材でもある。新しく作られたばかりの漆器の表面は、少し乾燥したような外観だが、使うたびに手の油分や湿度を吸収し、次第に光沢が増していく(上部画像参照)。この変化は、使う我々にとっての日々の生活の「フィードバック」であり、それが光沢を帯び、美しくて感じられるものであれば、日常生活の中に「喜び」が育まれる。
日常に喜びを与えてくれる貴重な存在、それが漆器なのである。
12-4:抗菌性と腸の声を「見える化」
漆はただの装飾や器の素材としてだけでなく、健康面においても注目されている。漆は抗菌性があり、食器として、我々の体を守ってくれているのである。
多湿気候が故に、生態系が豊かであることもあるが、ウィルスや菌にとっても居心地がいい。そのような環境においても漆は活躍をしているのである。
また、私が実感していることがある。
最近は、「腸活」というワードがトレンドになっている。食事を通じて私たちの健康を考える上で、「腸」へのアプローチに注目が集まっているのである。現代の食文化では、腸内環境の改善が健康の鍵となるとされている。
皆さんは、腸を声を聞いたことがあるだろうか?勿論、誰も声は聞くことができないだろう。だが、腸をはじめ、内臓の声を聞こうとすることは健康において非常に重要である。要は、「良薬口に苦し」とはよく言ったもので、口が欲しているものが必ずしも腸や内臓が欲しているものではない、反対に、口にとって希望する刺激がないものの方が、腸や内臓にいいのではないか、ということである。
実際、私は夏場でも冷たい飲み物を口にはしない。
※飲み会では付き合いで飲むが。
熱い体を冷やすことは必要だろうが、お腹(腸や内臓)を冷やしてはならない。冷やし過ぎてしまうと動きが鈍って、お腹を下してしまうだろう。勿論、体に熱すぎるものを入れてもよくはない。
では、何を体に入れればいいのか?
それは、漆器が教えてくれるのである。
私が実感していることとは、漆は熱湯に反応し、冷たいものにも反応する。だからこそ、漆の反応(声)を聞いて、摂取すればいいのである。
つまり、例えば漆のお碗にとって適切な温度のものを摂取する、食事そのものを健康的に楽しむことができるということである。
そしてもう一つ、油が多い液体を入れないことをお勧めする。漆器は、洗剤を使って洗えないからである。これは、逆算した考え方になるが、洗剤を使わず、流水で洗う際に、汚れが取れる料理を食べる必要が出てくるのである。つまり、自ずとヘルシーな食べ物と料理を選択することになる。
以上の点で、漆器は「腸の声を見える化」する役割を果たしているとも言えるで。漆器は、食材や料理を引き立てる美しさだけでなく、腸や内臓という体の声を見える化し、私たちの健康的な食生活をサポートする役割を果たしている。
12-5:「漆=JAPAN」を見失う日本人
上記、漆の効果や特性を紹介した。様々な、良いところがあることをお分かり頂けただろう。日本の歴史を支え、生活を支え、健康を守り、共に歩んできた素材=漆。
日本とともに歩み、日本人の生活の支えであった漆や漆器が、どうであろう。現代は全くその存在感を失っている。
使うことでその艶や風合いが深まり、持ち主とともに歴史を刻んでいく。
流水で、手で擦り洗う。水を切り、布でふき取る。光沢が出て、愛着が湧き、物を大切に扱い、長く使う、この過程で生まれる感謝の気持ちは、工業製品にはない「手作りの温かさ」を感じさせ、豊かな感性を育んでいく。まさに日本の美意識が感じられる。
しかし我々は、今、「漆=JAPAN」に触れることが極めて少なくなっている。言い過ぎかもしれないが、日本人がこれまで持っていた、「感性」を失いつつあるのではないか、と危機感を持っている。「JAPAN」とまで翻訳される漆に触れていないのだから、当然のことなのかもしれない。
日常から、漆に触れ、日本人として、忘れてはならない「感性」に身を置いていただけると幸いである。漆は1,000年と変わらないが、日本の心は日常生活から、著しく変わっていることを肝に銘じたい。