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高台に吹けば

ここの墓地は清く方々に広く伺う

入り口から私の入る墓まで数分と歩く

途中の水道で手を洗う

まだこの時期はちと掌が傷む

窪んでメッキの剥がれたやかんに水を注ぐ


砂利道を菊とやかんと火種を抱え

私は墓まで歩いた


私の入る墓は高台にある

丁度街を見下ろせる角っこにある

若者の少ない田舎町の中を線路が突き通る

二つ箱の電車がたまに走る


やかんの水を墓石にかけては雑巾で磨く途中に

電車の動音が近づいてきた

私は手を止めそれに意識を向ける


文明と死が重なり合い

ひとつの感情点となる

家族も電車を眺めるだろう

私も電車を眺めているだろう


たまに通る車輪の音は普段の喧騒な読点ではなく

心を一旦と止める句点となる


その段落終わりの胸穴だけ私は独りじゃないと

墓穴の緩さを感じては勘違いをする


走り行く電車に感化された火種は

風に憧れては線香に留まろうとしないのは

いつものこと


私もこの高台の墓で

ゆっくり現世の音を嗜むために

今は牛歩に進まなければいけない


行く当てのないわけではない

私にはいずれこの景色がある

それまでは

また逢う日まで

どうぞ

みなさんお元気で


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