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夢みる少年の昼と夜

『機械のある世界』(ちくま文学の森11)
夢みる少年の昼と夜 / 福永武彦   より

太郎は缶の蓋を明けた。
その中には雑多な物が詰め込まれている。
太郎は一つ一つ大事そうに取り上げた。

父親の懐中時計の銀の鎖。古くなって少し錆びついている。
コレハ昔モット大キカッタノダ。
コレハ可哀想ナアンドロメダヲ縛ッテイタ鎖ダ。
ソレヲペルセウスヘルメスカラ貰ッタ剣デ切ッタノダ。

桜貝。綺麗な透きとおるような薄い貝殻、九十九里浜で拾った。
コレモ最初ハモットズット大キカッタ。
コレハ波ノ泡カラ生マレタアプロディティガ、
ソノ足デ踏ンデイタ貝ダ。
ダカラ昔ハ地中海ニアッタノダガ、ダンダンニ流レテ
九十九里浜マデ流レツイタノダ。

指貫。
ピーターパンガ指貫ノコトヲ間違エテ「キス」ト呼ンダ。
ダカラウェンディ姉サンモコノ指貫ノコトヲ「キス」ト呼ンデイタ。

壊れた目覚時計の部品。発条ーゼンマイーとか、針とか、捩子ーネジーとか。
コレハ鰐ノオ腹ノ中デチクタクイッテ、海賊フックヲ怖ガラセタ目覚時計ノ部品ダ。

紫水晶。そのよく光った平な面は、鏡よりもよく物を映した。不思議な模様が中を走っている。
ペルセウスアテナカラ貰ッタ鏡ダ。
メドゥサヲ直接見タ者は石ニナル。
ダカラペルセウスハ鏡ニ映シナガラ怪物ヲ殺シタノダ。

石。色様々の小さな石。青いのや、茶色いのや、緑色のや、ぎざぎざのついたのや、丸いのや、
ミンナメドゥサノ首ヲ見テ石ニナッタ馬鹿ナ奴等ダ。
ダカラコレハミンナ昔ハ人間ダッタ。
コノ茶色クテフクレ上ッタノハ、暴君ポリュデクテスダ。

古い博多人形の折れた首。顔面の塗が半分ほど剥げ落ちて、男とも女ともしれぬ異様な表情に見える。
コレガメドゥサノ首ダ。今デハモウ人ヲ石ニ変エル力ハナイ。
シカシモシ僕ガソノ呪文ヲ発見シタナラ、
石ニ変エルコトガ出来ルカモシレナイ。

母親の形見の帯止めの珊瑚玉。
コレハ竜ノ珠ダ。


幼少期の宝物の詰まったブリキの缶詰。
空き地やゴミ捨て場、祖父の農具小屋から見つけた様々なものを
私も仕舞い込んでいたことがある。

それこそ
どこの何をあけるのかわからない錆びた鍵。
海外の景色が映る使い終わったテレフォンカード
さまざまな大きさのリング
プルタブ
虹色の釘・ネジ
なんの用途かわからない液体の入った茶瓶
……….

…最後の代物は今思うとつくづく無知とは怖いものだと思うが
幼少期は大人が使っている道具にはどこかしら
魔法の道具のようなときめきを見出していた気がする。

さて、
一体どこに仕舞い込んだものか。。。


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