SaaSの現在と未来:イントロダクション
今スタートアップの世界では、SaaS(Software as a Service)が大きなトレンドになっています。毎週のように、SaaSスタートアップ企業の資金調達のプレスリリースが発表されています。
この状況は、今SaaSの代表的な企業と言われているプレイドの創業に関わった視点からしますと、隔世の感があります。実は、プレイドのシリーズAとBの資金調達時(2014年7月、2015年7月)に、投資家に対して一度もSaaSと説明していません。
これは、当時SaaSは日本ではマイナーで、SaaSの事業開発やKPIに関する情報は無かったからです。そもそも、KARTEリリース直後のプレイドは、自分達の事業をSaaSだと考えておらず、様々な悪戦苦闘を経てSaaSとなったという経緯もあります。SaaSをしようと思ったのではなく、事業の性質上、最適なビジネスモデルがSaaSだったのです。
今、ネット上にSaaSの事業開発のノウハウが溢れています。それらは非常に価値が高く有意義です。反面、実際の経験を通して見ると、そのノウハウをそのまま、あらゆる事業で適用することは、逆に事業成長を阻害するのではないか、と感じることが多々あります。
また、SaaSの事業開発のノウハウのみならず、SaaS自体も不変ではありません。なぜならば、SaaSは日々新たな企業が登場する、現在進行形の変化の激しい市場だからです。その中でSaaS企業が高い価値を創出するためには、その変化に先んじて、自社の事業特性に合致した新しい道を自ら開拓する必要があると考えます。SaaSの概念をアップデートする企業こそ、次の時代のスタートアップの覇者になるでしょう。
以上のような問題意識の下、プレイドの創業→事業拡大を通じて得た知見を基礎に、SaaS事業の現時点を確認しつつ、SaaSの未来について考察したいと思います。
今後連載するテーマの概要
考察は何回かに分けて連載したいと思います。現時点では下記のテーマを考えています。
1. Product Market Fit
SaaSスタートアップを行う場合、最初に越えなければいけない壁は、Product Market Fit(PMF)です。これは顧客を満足させる最適なプロダクトを最適な市場に提供出来ている状態を意味します。様々な箇所でPMFに向けてスタートアップがすべきことが書かれていますが、それは多くの場合、B2Cを想定したものであり、B2B SaaSの場合は若干異なるのではないか、という問題意識を持っています。最初にB2B SaaSのPMFについて考察いたします。
2. プライシング
SaaSの売上は、サブスクリプション売上(Recurring Revenue)×顧客数で決まります。SaaSプロダクトの価格設定はどのように行えば良いのでしょうか? 初期のプロダクトローンチ時とその後の価格改定時に分けてSaaSのプライシングを検討したいと思います。特に、後者は日本のSaaS企業が苦手とし全体的に顧客単価が低く、その中でプレイドが数少ない成功例と言われてます。その知見を共有いたします。
3. カスタマーサクセス
SaaSではカスタマーサクセスが重要です。一般的には顧客満足度の向上がそのポイントとされていますが、過去の経験上、顧客の満足度が高くても顧客は離脱します。顧客満足度を前提として、その先に「SaaSが顧客の業務に溶け込む」ことが重要です。そのためには、今後、機能としてのCustomer Successの業務内容も大きく変わることでしょう。3つ目のテーマとして、カスタマーサクセスの意義を改めて考察しましょう。
4. KPI、特に解約率
最後にSaaSビジネスといえばKPIが体系化されており、その点が特に投資家側にとり魅力的に映っている側面もあるかと思います。その中で、SaaSにとって一番重要指標である解約率に絞って、その誤解を招きやすいポイントや意義を中心に再考したいと思います。
5. SaaSが目指すもの
日本ではSaaSが注目を浴び出してから数年しか経過していません。USAを見ても10年程度です。大きなトレンドを見た場合、SaaSは何を目指しているのでしょうか? 同じ時期から注目を浴びだしたDigital Transformation(DX)の意義と合わせて考察いたします。この中で、Vertical SaaSとHorizontal SaaSの意義についても考えたいと思います。
6. Product Led Growth
最近USAのSaaSの世界では、セールスやマーケティングではなくプロダクトを中心とした成長、Product Led Growthの戦略を取る企業が増えつつあります。SaaSの未来等を考えると、SaaSの到達点は、このProduct Led Growthとも考えらます。日本では誤解されていますが、このProduct Led Growthは、プロダクトアウトやアンチセールスではありません。USAの動向を見つつ、Product Led Growthを採用する意義に関して考察いたします。
7. 組織
以上のSaaSの現時点の到達点や未来を考えると、SaaS企業の組織はどのようにあるべきでしょうか? SaaS企業の組織というと、ビジネス側の各機能を分業する形態が有名です。その意義や発展形態含めて、SaaS企業の組織論を考えたいと思います。
順番を入れ替える可能性もありますが、よろしくお願いします。