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【意図的な感情表出】-バイスティックの7原則に基づくシリーズで学ぶ関係の築き方

このシリーズでは、バイスティックの7つの原則をもとに、信頼を築く方法を学びます。

よろしければ、こちらの記事もご覧ください。

今回は「意図的な感情表出」について考えていきます。


1.クライエントの感情表現を大切にする

われわれは、困難のさなかにある人びと、すなわち「人生の破局の危機を情緒的に体験しているさなか」にある人びとと係わるのである。したがって、われわれは彼らがさまざまな感情を表現できるよう、援助し、彼らのかかえている問題が彼らにとっていかなる意味をもっているのかを理解するよう努力すべきである。

引用文献
F.P.バイスティック著 尾崎 新ほか訳 『ケースワークの原則新訳改訂版援助関係を形成する技法』誠信書房 2022年、53、54頁

感情を表現すること自体が目的ではなく、「援助」することが目的です。
クライエントとワーカー間の「援助する関係を築きたい」、クライエントの「自分の問題解決に参加したい」というニーズに応えるためのものです。


2.社会的問題に関連する感情の要素

すべてのクライエントが心理的や社会的な問題やニーズを抱えており、自分や他者に対する否定的感情をもつ点では共通しています。

特に苦しいときには他者と気持ちを分かち合いたいと感じるため、その機会を奪うことはクライエントの存在を否定することになります。


3.援助のために、クライエントが感情を表現できるよう助ける(面接場面で共通する目的)

1.クライエントの緊張や不安を和らげ、自分の問題を客観的に見られるように手助けすること

2.クライエントの問題や性格を正確に理解すること

3.クライエントと問題の関係を考えながら話を聞くことで、心理的に支えられるようになる

4.クライエントの自分や他人に対する否定的な感情が問題の中心になることがある

5.援助関係を深めること


4.援助のために、クライエントの感情表現を制限する

1.機関が提供できる援助の範囲に限る

2.援助の初期段階では、深い感情を表現しないように配慮する(構造化された面接技法)

3.ケースワーカーは過度な依存にならないように注意する

4.クライエントが敵意を示すときは、それを励ましてはいけない


5.ケースワーカーの役割

クライエントは、感情を表現する前にケースワーカーを試す時間があり、安心するまで表面的な感情しか出せません。

ケースワーカーは本当に人を助けたいという気持ちを持ち、クライエントと一緒(with)に感じることが大切です。
この気持ちを言葉ではなく、温かさや思いで伝えることが重要です。

[感情を表現する上でケースワーカーにできること]

1.ケースワーカーがリラックスしていることで、安心できる雰囲気を作る

2.面接ごとに準備が必要で、細かいことは脇に置いておく

3.援助の目的を考えながら、注意深く話を聞く

4.クライエントが感情を表現できるように促す

5.クライエントのペースに合わせて援助を進める

6.非現実的な慰めや早すぎる解釈は、感情を表現するのを妨げる


6.クライエントの感情表現は調査、診断、治療を助ける

感情は事実である。
クライエントが問題をいかに感じているかを知る最良の源泉は、クライエント自身である。
クライエントが問題を語ることができるのは、クライエント自身である。

引用文献 F.P.バイスティック著 尾崎 新ほか訳 『ケースワークの原則新訳改訂版援助関係を形成する技法』誠信書房 2022年、69、70頁

クライエントの問題は知識不足ではなく、感情を表現できない状況にあります。感情を表現できるようになると、ケースワーカーと話し合えるようになります。

感情表出は、クライエントが彼の問題を自ら解決する言動力である。

引用文献 F.P.バイスティック著 尾崎 新ほか訳 『ケースワークの原則新訳改訂版援助関係を形成する技法』誠信書房 2022年、73頁

ケースワーカーが解決策を押し付けると、クライエントは自分で問題に取り組めなくなります。

クライエントが自ら自分のいかなる変化にも、感情にも、きちんと責任をもつことこそ、治療であると書籍に書かれています。

ケースワーカーがクライエントの否定的感情をしっかり受け止めることで、クライエントが変化し問題を解決しようとする動機が生まれます。


感想

感情は見えませんが、それを表出することで問題解決をしようとする動機となります。

困難な状況にあるクライエントに共通している本人や他者に対する否定的な感情を受けとめることで、クライエント自身が問題の解決に進む動機となります。

そのためには、ワーカーはクライエントに言葉ではなく[温かさ]や[共に解決しようという思い]を伝えることから始まります。
そうでなければ、クライエントは表面的な感情しか表出せず問題の解決には至らないことにもなります。

最も共感したのは、感情は事実である。という言葉です。
全てのクライエントが抱いている否定的感情が事実であるということです。

そして、抑圧されている感情を表出できるのは、ワーカーの思いと温かさなしには成しえないということです。

感情を見えないからといって、無かったものとすることは、援助関係の形成も、クライエントが自ら解決しようとする過程をも閉ざしてしまうことになります。

クライエントと一緒(with)に解決に向かうための一歩は、ワーカーの思いと温かさの有無次第ということになります。

これは、スキルに限らず大切なことを学ぶ機会となりました。
大切ですね。思いと温かさ。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
私が目指しているのは孤立のない共生社会の実現です。

参考引用文献
F.P.バイスティック著 尾崎 新ほか訳 『ケースワークの原則新訳改訂版援助関係を形成する技法』誠信書房 2022年、51~73頁

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