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「わからない」多和田葉子『犬婿入り』

日に日に秋も深まり、先日は文化の日でしたね。

そして少し前にはなりますが、ノーベル文学賞の発表も行われました。

惜しくも受賞とはなりませんでしたが、実は日本人作家の中で一番と言って良いほど注目されていた作家がいるのをご存知でしょうか?

今回私は、言語の壁を超えて世界で活躍する作家、多和田葉子さんが第108回芥川賞を受賞した『犬婿入り』を読んでいきたいと思います。

あらすじ

多摩川べりにある「キタムラ塾」(愛称:キタナラ塾)では北村みつこが先生をしている。みつこが「犬婿入り」という異類婚姻譚の話を子どもたちにしていると、ある日突然、家に「犬男」である太郎がやってきて、奇妙な共同生活が始まる。

作中作「犬婿入り」の内容

お姫様のお世話係をしていた面倒臭がりな女性が、用を足した後のお姫様のお尻を舐めて綺麗にしてあげれば、お姫様と結婚できると犬に言い聞かせ、犬にお姫様のお尻を舐めさせる。その後犬とお姫様はどうなってしまったのか、子どもたちによって結末がまちまちなため、結局お姫様と犬がどうなったのかは、母親たちはわからずじまい。

この物語で注目すべき点

・そもそも主人公である北村みつこが一体どこからやってきてなぜ塾の先生をしている(経営している)のかが全くわからず、さまざまな憶測が子どもたちの母親の間で飛び交っていること。

・「犬婿入り」という現実には存在しない民話(異類婚姻譚)が物語中に登場すること。

・そして「犬男」である太郎がどこからやってきたのかがわからず、みつこの匂いを犬のように嗅いだり、みつこのお尻を舐めたりするという(側から見たら)奇行に走っていること。

わからないことだらけ

この物語を初めて読んだ時に私が感じたことは、正直「わからない」ということでした。その後も何とかしてこの物語を理解しようと何度か読んでみましたが、一文一文が長いということや、北村みつこの少し変わったキャラクターやいわゆる「犬男」である太郎、そして途中から登場する転校生でいじめられっ子の扶希子など謎の多い登場人物が増えていくことが、この物語を難解化させているのではないかと考えました。

また描写として動物の排泄物や、みつこと太郎の生々しい性的な描写が所々に織り交ぜられていることによって、私たちが普段目を背けがちな、汚い部分やいやらしい部分に目を向けざるを得ない物語になっていると思いました。

全てを理解することはできないし、わからなくてもいい。

「わからない」が「わからない」
「わからない」が「気持ち悪い」
「わからない」が「面白い」
「わからない」が「名残惜しい」

読むたびに感情が変わっていく不思議な作品だなと思いました。

あとがき

この本には「犬婿入り」だけでなく「ペルソナ」という作品も収録されています。

多和田葉子さんは、「言葉」というものの力を体現された方です。

作品をまだ手に取ったことのない方は、ぜひこの機会に読んでみてくださいね。





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