椿の咲く頃に(休職時代)③あるシベリアンハスキーの飼い主編


ぼーっとするのが難しい。
体験する前なら、言葉で聞いても
その感覚は掴めなかっただろう。


今ならわかる。
ぼーっとできるとは、大事なことだ。
ぼーっとできない状態に至ってしまうまでに
かかった時間の倍かけて

自信を持ってぼーっとできる状態に
戻っていくのだろう。


そんな時期の私にとっては、
散歩はいい時間であった。


幸いすぐに景色の良い公園に行ける場所に住んでいたため、よく出向いていた。

自然が多く四季を感じられるような公園で
ある犬を連れて歩く小綺麗な中年男性がいた
(犬の姿も小綺麗であった)。

かつて飼っていた大好きな犬種の
シベリアンハスキーだったこと、
飼い主が気のいい男性だったことで、
犬の話にとどまらず、
それぞれの身の上話も始まった。


その男性は同市内である児童施設に携わっているという。
近しい業種の年長者と話せるとは思いがけない
出来事だった。
苦労して休職になったことを明かすと、
彼は言った。


「大事なのは、衣食住を整えること。」
「思いを溜め込まない」



正直、その時しっくりきたのは
思いを溜め込まないということ。
衣食住を整える…??
そんなに大事なことなのか…。


その重要さを知るのはもう少し後となる。



この男性がまた親切で、
子犬の頃の写真を見せてくれたり、
リードを持たせてくれて、犬が引っ張る力の懐かしさを感じさせてくれたりと(?)
そんな優しさが心に染み渡っていくのであった。


更に最後には
「昨日久々にCD屋で槇原敬之のアルバムを買ったんだけど、すごくいいよ、本当にいいわあの人の歌は、聴いたらいいわ」
と勢いよく追加のアドバイスをくれたのであった。



ほんの少し、
自分を取り戻すのに1mmくらいの分だけ
動き出した日であった
(もちろんその日は槇原敬之のアルバムを素直に聴きながら帰った)。



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