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エディターコース「書く人あれば読む人あり」~〈みんなで作文 第2弾〉結果発表!~

※〈ちょこっと倶楽部・エディターコース〉メンバー向けの限定記事です
※メンバーでない方も今回は最後まで無料でお読みいただけます


みんなで作文

〈みんなで作文〉とはメンバーシップ・エディターコースの名物イベント。
名物といっても過去に一度やったことがあるだけだけど、十分に名物といえるだけのインパクトをそなえている。

参加メンバーが順に文を後ろに足して長い作品を作るという単純なお遊び。
児童文学になるのか青春群像小説になるのか、はたまたホラーになるのかは参加メンバー次第。

ルール
・参加メンバーが文を繋いで1つの文章を作る
・1人1回あたり3日以内に3文まで(3文合計で100字まで)加筆

冒頭の3文だけは僕が仕込み、参加メンバーがその後ろに足していく。

前回は参加7名で、21日間のうちに48回足され、5063字の小説になった。
すご!

第2弾開催!

9/17~10/4で唐突に第2弾を開催した。
今回はちょっと短い13日間。

僕はこんな冒頭の3文を用意して、メンバーの参戦を待った。

「なんで私ではダメなの?」
私は思わず悲痛な叫びをあげる。
「せっかくここまでやってきたのに…」

そしたらなんと、今回も7名が手を挙げてくれた。
前回から連続参加の方もいれば、今回お初の方も。

まぁでも今回は前回より1週間近く短いし、そんなに長い小説にはならないだろうと思った。
ところが、フタを開けてみるとなんと…

13日間のうちに115回足され、9954字の小説に!
ふへぇ!

仕上がった作品

以下、仕上がった本篇を掲載するので、とくとお楽しみいただきたい。
その後ろに講評を載せているので、そちらもあわせてご覧いただければ。
それと本篇は最後時間切れで終了し、明確な結末には至っていないから、僕が最後を締めくくってみた。

作品はこちら

(空行の箇所で7名の執筆者が次々と交代している)

「なんで私ではダメなの?」
私は思わず悲痛な叫びをあげる。
「せっかくここまでやってきたのに…」

これまで、携わってきたプロジェクト、、、
それが、日の目を見ることなく中止を言い渡された。休日も返上し、寝る間を惜しんでやってきたことが、上司の一言で一瞬で消えたのだ。これは叫びたくもなるだろう。

こうなったら!…私は報復を考えはじめた。「上司の机を窓から投げ捨てる・会社に放火する・気分転換に旅行に行く…ど、どれかしら?」

そこにベテラン社員の梅さん(仮)(40代・・・かしら)が通りかかった。
「桃ちゃ~ん(仮)、そんなに怖い顔してどうしたの~? プロジェクトのこと・・・かな?」

「こんな時に話しかけてくれるなんて嬉しい!」なんて思ったら大間違い。梅さんは会社で3本の指に入るほどの噂好き。うっかり私の練り始めた報復について話してしまったら大変なことになる…危ない、危ない。

「ああ!梅さん、この間のプロジェクト中止になったの知ってます?」
そう言いながら、私は3つのうちどの選択肢を選ぶか心の中で考えた。

もうこうなったら、上司の机を窓から、、
おおっと、うっかり口に出しそうだった。
「桃ちゃん〜、えっ、そうなの?プロジェクトが中止?それでそれで?」

ここで梅さんに乗ったらおしまいだわ、落ち着こう。
「そうらしいわね。でもいつものことだもの。気にしてないわ」
そう交わしながら、私は、上司の机の大きさを目で計ってみた。

見たところ、1メートル、、、50センチまではいかなそうな大きさ。
問題は、、、机の重さかしら?はたして私の細腕で、持ち上げられるのか?

そうは言っても農家出身で、細腕ながら30㌔の米袋を運べる私。…きっと…引き出しにぎちぎちのファイル類を出せば…いける! 全く、アタマからっぽ上司ほど机の中はぎっちりなのよ。ファイルもほっぽる?

「仕方ない、桃ちゃんが昨日行列のできるプリン屋さんの特製特大プリンをくれたからちょっとだけヒントをあげる。プロジェクトが中止になるパターン、新人のときには必ずあるの。意地悪よね~」

「えっ!そうなんですか?」
さっきまで落胆と悔しさで頭がいっぱいだった自分を思い出していた。
「何か理由があるんですか?」

「上司はプロジェクトが中止になった時、新人がどう対応するかを毎年試してるのよ。おっと、これ以上はさすがの私にも言えない!だから桃ちゃんも頑張って上司にちゃんと向き合ってね!

梅さんの話、もう少し聞きたい、、。
私は、昼休みに買っていた堂島ロールを梅さんに差し出した。「あら、桃ちゃんありがとう!じゃあ、もう少しだけ・・知っていることを話すわね。」

梅さんはさっそく堂島ロールをほおばりながら、ここだけの話、と前置きして話し始めた。「あれは何年前だったかな。営業部の竹ちゃん(仮)が新人だった頃の話よ!」

竹ちゃんとは、、、我が社の営業部のエースで、それはそれは社内で知らぬ者がいないほどの敏腕社員である。そんな彼の新人の頃の話、、、聞かない選択肢はない。
「それは、、、どんな話でしょうか?」

聞きつつ、私が取り出したのはとっておき、京都はイノダコーヒのドリップパックだ。梅さんのお気に入りでもある。きちんとカップを温め、手早く丁寧に淹れて梅さんに差し出す。

「あのね。驚かないでよ、桃ちゃん」
その瞬間部屋のドアがバタンと開き、笑いながら上司と営業部のエース竹ちゃん先輩が入ってきた。
このタイミングで〜!

さすがの梅さんも竹ちゃん先輩の前では口をつぐみ話さないのでは?とドキドキしてきた。それに今回は上司も一緒にいる。あー、もう今日は聞けないなと半ば諦めかけた。

しかしそこで私は、オフィスの冷蔵庫の中に梅さんの大好物熊本産高級マスクメロンがあったことを思い出した。

「あの」泣く子も黙る高級メロンで、梅さんを繋ぎ止めよう。ムフフ。その時、上司と竹ちゃん先輩が、私たちのほうを見た!

「おお、企画部の期待の新人、桃ちゃんか!プロジェクトはうまく行ってるか?」と竹ちゃん上司。メロンも吹っ飛び、答えに詰まってたら、すかさず竹ちゃん先輩が!!

「桃ちゃん、残業して準備を頑張ってたよな。もちろん、プロジェクトは順調に、、ん?ああ・・」竹ちゃん先輩は、私の困惑した表情を見て、何かを察したようだ。

竹ちゃんは数年前の新人だった頃に経験した苦い思い出を思い返していた。あの時は会社を辞めてしまおうかと思うくらい辛かった。
今、桃ちゃんも同じ思いをしているかと思うと人ごととは思えない、助けてあげたいと心から思った。

「部長!さ、我々も負けずに頑張りましょう!」「梅ちゃん、後でまた!」そう言って目くばせしながら、竹ちゃん先輩は去っていった。ありがたい‥。ところが、一難去ってまた一難!

何とたまたま出勤していた社長が私と梅さんの所にやってきたのだ。
社長はプロジェクトが中止になったことを部長から聞かされておらず、私にいつものように聞いてきた。

あー桃さん、いつもお疲れだが、新プロジェクトの手応えどう? キミならやる気十分、十分はいいがあまり毎日毎日徹夜残業で会社に住み込まないようにね! で、手始めにどこから手をつけるつもりかな?

「どうしよう、ウワサ好きの梅さんの情報は『新人がどう対応するかを毎年試してる』という事だけ。この情報をあてにしていいかも分からない。しかもこれ以上、梅さんに差し出すおやつがない今、私に残された道は・・・」

「社長、、、私、あのプロジェクトじゃインパクトが足りないと思って、全て棄却したんです」
社長は驚きのあまりに言葉を失っている、、、。
それもそうだ、、、発言した私が1番驚いているのだから。

私の心の中では「棄却って、、さらにインパクトのある内容を上司に提案するって事?ムリムリ!!」と、動揺の声。私の隣には、梅さん。あ!そうだ、ウワサ好きの梅さんにも一部始終を聞かれてしまった!

でも…、竹ちゃん先輩も同じようなことがあって乗り越えて今があるということは…。もしかしたら、プロジェクト中止の後にめげないで頑張り続ければ敗者復活戦があるのかもしれない。私もやり直して提案してみよう!

私は、噂好きの梅さんに聞くことも、すっかり忘れて、第四の道を行くことにした。
そうよ、私は企画部の期待の新人だもの、農家の娘の底力を見せてやるわ!
そして1週間が経ち‥

ずっと練りに練り上げた企画を満を持して会社に報告しようとした。
でもここで梅さんにこの企画がバレたらまたボツになってしまうかも。
そこに助け舟が…!!

現れたのは社長秘書牡丹さん…ならぶ者なき美貌と男前な気っぷのよさを持ち合わせ、なおかつ梅さんに強いというラスボスである。「もしかして新企画? とりついだげようか?」

「ありがとうございます! 牡丹さん!」
牡丹さんに書類を渡そうとする私に、牡丹さんはちょっぴり意地悪そうにこう言った。
「そんなに簡単に私を信じちゃって大丈夫かしら?」

ニタリと、含んだ笑みを漏らす牡丹さん。
差し出した書類を思わず胸に抱え戻す。
もしや、渡してしまったらそこでプロジェクト終了とか、、、?

そうだった、、牡丹さんは肩書きこそ「秘書」だが、社長や役職者に対して発言権が強いと噂されている。
私は緊張のあまり、書類の束を床に落としてしまった。「ドサドサドサッ!(音)」

「あっ!」と慌てているうちに、牡丹さんが親切にも拾ってくださってる。渡そうか迷っているうちに拾いながらチラチラ読まれているみたい。もうこうなったら読まれても仕方ない、腹をくくるしかないな。

「あら!あらら!この企画、面白そうじゃん!私も一緒にやらせて!ねぇ、お願い!仲間に入れてくれるなら、社長にプレゼンの時間調整するわよ!」うへぇ‥牡丹さん、交換条件出してきたぁ。

私はもう観念するしかないと思い、牡丹さんにプロジェクトを打ち明けることにした…。
「あの、牡丹さん…」と言いかけたところになんとあの口の軽い梅さんがドアを思い切りバタン!と開けて駆け込んできた!

幸い全部拾い終わった書類を胸にしっかと抱え込んでいると、牡丹さん、「あら梅さん…これから桜さんと協議だからまたね!」 言うが早いか私の手をとり、猛ダッシュで廊下に出た!

牡丹さんと一緒に走りながら、どうしても気になることを牡丹さんに確認せずにはいられなかった。
「あなた何者? 牡丹さんは社員の名前を間違えたりしないと思います!」

またまた、含み笑いの牡丹さん、、、。
「ふっふっふっ、バレてしまっては仕方ない、
実は、、、『牡丹』とは仮の姿!
その正体とは、、、!」

「私は社長の松(マッサン社長)だ。さっきは、名前を間違えてすまなかったね。あれから、プロジェクトのことが気になって変装していたんだ。」道理で、直属の上司をすっ飛ばして社長に取り次げるのね・・

えっ、マッサン社長…まさかの女装ですか?と心の中で呟き、私は目を白黒させながらも社長の女装から目が離せない。社長は背は小柄で細身だからできなくもないが、髭は?足の太さは?と細かいところまで見てしまう…。

でも、社長の横顔‥結構きれい‥完成度高いわ。「梅さん、どうだね、私の変装は。うちの商品の仕上がりを研究してるうちに、自分で試したくなってね‥」え‥マジですか?

それもそのはず、だってうちの会社は某大手化粧品会社なのだから。
やられたわ!またしても社長に一発KOを浴びせられた感じだ。

しかしこのチャンス(?)を逃すまじ! 私の企画にある〈女子高生向け・フルーツカラーのリップ🍋リップをイエローやグリーンのビタミンカラーに🥑〉について口早に話し始めると…!

「なんと! それは試してみねば! 試作、試作を最優先で作らせよう」
社長はウキウキしながら、電話をかけ始めた。

社長が電話をかけていたのは、、、
会社の化粧品を作っている、メーカー工場。
早速試作品を作ってくれるらしい!
ここ数日の凄まじい展開に、もう頭が追いつかないっ。

「これから工場と打合せするから桃君も同行するように。どうせなら前から行ってみたかった、女子高生に大人気のcafeで打ち合わせしよう」
ええっ! 社長その格好でですか?!

「なに?もっと女子高生らしくした方がいいかね?じゃあ、ちょっと待っててくれるか?着替えて、メークもし直してくるぞ」そう言った社長の後ろ姿は、完璧にウキウキだ

その格好でって言われてもっと女子高生らしくって、マッサン社長、相当ヤバい…いや、ノリが違うわ! あ、そうそう私はこのOLルックでいいのかしら? 女子高生ルックは持ち合わせてないし…。

せっかくなら社長のノリに合わせたいなぁ。そうだ、社長のたくさんあるコスプレの中から、可愛い洋服を借りて三つ編みして行こう!私は社長の後を追いかけて、社長の部屋のドアをノックした。

部屋に入ると、、、社長が笑顔で待ち構えていた。
机にずらりと並ぶ様々な化粧品。そして、備え付けのクローゼットには、、、あらゆるタイプの『女性ものの服』がかかっている。

これは選び放題じゃないか!!
私は派手な服が並ぶ中から、女子校生にウケるような服を選んでマッサン社長に懇願した。
「社長、私にばっちり目立つようなとびきり可愛いメイクをしてください!!」

社長は手際よくメイク道具を持ち、私の顔立ちに合わせて「魅せる」メイクを施してくれた。「ここで桃君に、プロジェクト成功の極意を教えてあげよう。それはね、お客様の視点に立って、商品の企画をすることだよ。」

メイク道具を手際よく片付けると社長はニコッと笑ってこう言った。
「これだけ完璧にメイクしたら絶対に誰にもバレないよ。まずは鏡の中の自分をみてごらん!」

恐る恐る鏡を覗き込んだ私は、思わず二度見した。そこに映ってる私は、まさに自分ではなく、めっちゃ可愛い女子高生だった!!「社長、、、これが相手の視点に立つってことなんですね」

「わかってくれると思ってたよ…さあ行こう!」 社長は満足そうに頷き、女子高生に化けた2人がエレベータから社長の専用車に乗り込むと…運転席に座っているのはなんと…!

梅さん!私を見てニタリと笑って、、、
「私を噂好きなおばさんと思ったら大間違いよ」
とウインク。梅さんって、、、一体何者?

梅さん、ただの噂好きなおばさんと思っていたけど…。
社長の話をよく聞くと、なんとメイクアップ検定1級の腕前のプロのメイクアップアーティストだった!!
「打ち合わせに私がいないと困ると思って先回りしたの」

「梅さん、今日はよろしくお願いします!」私は迷わずそう言った。梅さんは、運転手としてもプロ顔負けの腕前だった。社長の専用車で、複雑な都心の道をスイスイとくぐり抜け、目的地のcafeに到着した。

ええっ!こんなに行列のcafe? 本当に大丈夫かな・・・。
勢いで来たのはいいけれどちょっぴり不安になってきている私に、変身しきった社長に見えない社長が私にきゃぴっとこう言った。
「ももっち! 私のことは社長ではなく『まっさん』って呼ぶんだぞ♡」

「私のことは『うめりん』よ!いいわね」梅さんがそう言い終わると、なんと行列の高校生ギャルがざわつき始め、その列がサーッと開いたのだった。「キャーーーーまっさんよ!」「伝説の二人じゃない?」

まっさん、ギャルの行列の中を歩きながら、「みんな! こちら、桃っち! よろしくね!」 いっせいに注目を浴びる私。だが、社長のメイクと魔力か、全く気後れせずきゃぴぴゃぴ手などふってしまう。

うわ~、我ながら衣装とお化粧の魔力ってすごい!『まっさん』や『うめりん』はそれを知ってるし広めようとしているから女装とお化粧までして乗り込んでるんだわ。二人のプロ意識に少し感動してしまった。

これから行われる工場側との打ち合わせ、、、
必ず成功させよう。2人の姿に勇気づけられ、
決意を新たにして席に着いた途端、自動ドアが開く。
工場長と、現場の主任のお出ましだ、、、!

工場長は開口一番、「〈女子高生向け・フルーツカラーのリップ🍋をイエローやグリーンのビタミンカラーに🥑〉の件なのですが、うちの社員の女の子にも大ウケでして。ぜひこちらで担当させていただきたいと思います!」と大喜びでマッサン社長に言った。
梅りんも私、桃っちも大喜びでキャピキャピ具合が爆上がりだ!

実はまっさんとうめりんは、女子高生の中で知らない人はいないという、伝説のティックトッカーらしい。こんな2人と、工場の方々を交えて新商品の企画ができるのだ。嬉しすぎる!

その時、まっさんはお店のメニューをみんなに差し出してこう言った。
「さあ、恒例のあれやるわよ~」
工場長、現場の主任、うめりんに緊張がはしる。

恒例のあれ?まるでどこかの野球チームみたい!ももっちがそう思うや否や、みんなメニューを見て、それぞれが注文を決めた。そこでまっさんが、「みんな、決まったわね、せーの!」

「ちゅーちゅーちゅー!!!🌟」いっせいに声をあげ、わーっと拍手!👏👏👏 お店の人が寄ってきて…というかさっきからとけ込んでるのだが、オーダーを取る。ちゅーというのは注文のちゅーか。

「りんご丸ごとのりんご飴、みっちゅー!」っと大きなキャピキャピ声でまっさんが叫ぶ。渋谷でも流行っていたりんご飴と同じのが売ってる!良かった食べてみたかったんだよね。
私は嬉しくてウキウキした。

その時、私ははたと我に返った、、、。
このりんご飴はもしや、、、
社長と梅ちゃんの、『試し』では?
工場側にアピールする事と、何か関連しているのかもしれない、、、。

私はやっと気がついた!
社長と梅さんは、りんご飴を食べても落ちない「伝説のリップ」を私に開発しろと言ってるのよ!
そのためにこんな格好で女子高生に大々的にPRして、、、ああ、また2人に試されてるんだわ。

私は恐る恐る、りんご飴を食べてみた。
どうしよう、、私の口につけているリップがみるみる落ちていく。
そっか、女子高生たちは、リップが落ちることを気にしながらも、りんご飴を食べていたのね。

そんな私の様子に気がついたのか、まっさんが私にこう言った。
「りんご飴って初めて食べるけど口を真っ赤にしながら食べるモノなんだー! ウケるー!」
気になるのそっち?!

あれ?コンセプトは何だったかしら‥そうよ!フルーツカラーのリップよね‥‥元々真っ赤でプルルンのリップなら!食べても変わらないじゃない!?
いやいや、ビタミンカラーに変身させなきゃ、そうよ!

私は勇気を出して叫んだ。「みんな〜イエローやグリーンのビタミンカラーの唇で真っ赤なりんご飴食べるの、めちゃばえだと思いませ〜ん!?」 わ〜〜〜っと拍手👏が起こり、まっさんのよっし決まり!の声!

やった!思い切って企画を声に出してよかった。あの時諦めてたら、この黄色い歓声と拍手の中にはいられなかったな。そして今までの事を思いながら、マッサンと梅さんへの感謝の気持ちでいっぱいになった。

工事長は膝を打ち、
「社長、このコンセプトで進めていきましょう!
名付けて、、、『りんご飴もへっちゃら☆リップ』です!」と言うと、さらに拍手のボリュームは大きくなった。

「おお、コレで決まりだな!じゃあ、これから別の部署との打ち合わせがあるから」と言ってマッサンは梅さんを連れて会社へ車で戻ってしまった。
「え?私一人?」
その時周りのギャルが急にザワザワしだしたので、喫茶店の入口を振り返ってみると、そこにはあの伝説のアイドルが…!!

「BIGBANGの、Gドラゴンだ!!」
カリスマのオーラが眩しすぎて、まともに見ることができない。どうやら、「日本で人気のcafeに行ってみた」という番組の撮影で来たようだ。

すると次の瞬間、店内にいた人全員が一斉にこちらを見た。え!なに!怖っ。
そしてどういうわけかGドラゴンがこちらに向かってヒラヒラと手を振ってる〜!

どんどんこっちへ近づいてくるぅ!え?何?
「やぁ、僕だよ、わかる?」え?え??
みんなの視線が怖すぎる!Gドラゴンが私の耳元でささやいた!「僕だよ、桃っち!」まさか!

「竹ちゃんセンパ…もごっ」いきなりほっぺを撫ぜられ、「Gドラゴン! 竹ちゃんじゃないの!」 耳元で言われた…イチャイチャしてるよぉにしか見えないこのこのやり取り、周りの女子高生の視線が痛過ぎる!

きゃ~、ほっぺを撫でられたのなんて何年ぶり?15年前に庭で転んで大泣きしてた時にお爺ちゃんが涙をぬぐってくれた以来かもしれない。もう竹ちゃん、私の手を強引に引っ張って私をこの場から連れ去って!

Gドラゴン、もとい、竹ちゃんセンパイは、
工場長、現場主任にウインクをして、
「じゃあ詳細はのちほど、メールで送りますね」
と言い私の腕をとると、願望どおり、、、
その場から颯爽と連れ出してくれた。
天にも昇る気持ちとは、、、このことだ!

まるで白馬に乗った王子様のように私を連れ出してくれた竹さんのことが実は私は前から好きだった。
すると、竹さんは「桃っち、ちょっと目を瞑ってみて」と訳の分からないことを言い出した。
ええーっ、これは、これはどういうシチュエーションですかあ?

傍から見たら、Gドラゴンが女子高生と密会しているように見えるのかな、、そんな事はどうでもいい。もしかして、竹ちゃん先輩と両思い?ええぃ、このチャンスに乗ってしまえ、と目を瞑ろうとした時!

「きゃーっ!」
履きなれないヒールが勢いよくポッキリと折れ体勢を大きく崩してしまった。
「危ない桃っち!」

まるで漫画のような展開。あっという間に私は竹ちゃん先輩の腕の中に!!
「せんぱい‥」「桃っち‥」と見つめ合った瞬間、私は誰かの気配を感じて、視線を移した‥そこには!

「2人で社交ダンスってとこかな?」視界に入ってきたのはすらっと美形の男性…と見せて、声は間違いなく牡丹さんだ! 男装の麗人とはこのことか、宝塚男役ってきっとこんな…と、この状況で眼が離せない!

きゃ~、牡丹さんに見られてる。社長に瞬時に伝わること間違いなし。でも…、私の望んでた成り行きだし、もう広まっても良いわ。こうなったら結婚式の仲人は社長と牡丹さんにお願いしよう…なんて私ったら気が早すぎる!

そこで私はハッと思い出した、、、
牡丹さん=社長だったことを!
またうっかり騙されてしまうところだった、
危ない、危ない、、、。
「社長、帰ったと見せかけて意地が悪いですよ」と、
竹ちゃん先輩が慌てて私から離れる。

「なんだ、君たちそういう仲だったのか、、、それなら仲人は当然僕だよね!でもカミさんが今出ていって留守なんだよ、、、もう少し式は待ってくれないかな?」
ええ?いつの間に私と竹ちゃん先輩、本当に結婚することになってるの??

あれ、、ここに社長がいるということは、梅さんも一緒にいる?
社長の後ろから、ニヤニヤ顔の梅さんがひょっこり出てきた。社内で結婚の噂が拡散するのは時間の問題だろう。

すると竹ちゃん先輩が私の手をとり再び駆け出し、社長と梅さんにこう言った。
「今日の撮影よろしくです! もともと、今日の撮影はまっさんへのオファーでしたよね!」

「うむ!でもそろそろモデルチェンジの時期のようだ!ささっ、素敵なお二人さん、あとはよろしく」まっさんが背を向けたその時、私の耳に確かに聞こえたのは‥「なぁ、そろそろ帰ってきてくれないか?」えええっ!?まさか!

てことは…社長と梅さんは…夫婦…そんなまさか!と頭の中はぐるぐるぐるめぐるだ。今までのあれやこれやを思い返して…全然ぴんとこない。2人ともそうとうの役者よ…ま、今日だけでも役者ぶりすごいけど。

「もしかして、社長と梅さんはご夫婦なのかな…?」思わず竹ちゃんの前で呟いてしまった。「せっかく竹ちゃん先輩とどこかへ行けそうだったのに今日はお仕事になっちゃいましたね。」でも一緒にいられるだけで嬉しい。

「でも、桃っちと一緒に撮影、嬉しいな」
ニコッと爽やかな笑顔を向けてくる、竹ちゃん先輩、、、。
キラキラの笑顔がとても眩しいっ。

でも竹ちゃん先輩ってファンが多いんだよね〜。もし結婚!?なんてことになったら私袋叩きにあってしまう!
ちょうどその時喫茶店にいたキャピキャピ女子高生達が、民族大移動でこちら目掛けて突進してきた!!

「桃っち、再び一緒に逃げるぞ」と囁いて、竹ちゃん先輩は私の手を引いて走り始めた。もう駆け落ち同然だ。

「はい~!」
嬉しい半分、恐怖半分、ヒールも折れて半分。
だけどヒロイン気分1200%で竹ちゃん先輩の手をちゃっかり握りしめ、ただただついて行くのみ。

走る私たち、追いかけるキャピキャピ女子高生たち、それを呆れて眺める、通りすがりの人たち。これって、コメディ映画の1シーンみたいじゃない!?そういえば、、、最初からなんだか、常に視線を感じるのよね。。。。

と、そこに車が横づけになったと思ったら、そもそも私のプロジェクトを却下した張本人の上司・藤さんがドアを開け、「乗って! 早く!」 も、もしや、常に感じていた視線は…藤さん!?

ヒールも折れて走りにくくて…ありがたい、ありがたいんだけど、2人っきりじゃなくなっちゃう!どうしよう、竹ちゃん先輩の判断に任せよう。竹ちゃんは藤さんの車に気付いてるのかな?

「よし、渡りに船だ!乗ろう、桃っち!」
ヒョイっと竹ちゃん先輩にお姫様抱っこをされ、
悲鳴を抑えるのに必死で反論できない、、、!
こうして、藤さんの車に、まんまと乗車してしまったのだ。

「2人に会わせたい人がいるんだ」
誰だろう?これ以上登場人物が増えたら頭がパンクしそう。
私は竹さんにもたれかかって深くため息をついた。

「実は、こっちでも一大プロジェクト・・竹ちゃんと桃っち恋愛成就プロジェクトを進行中でね。今までの経緯は、私もずっと見てきたんだ。これから、君たちのご両親に会いに行こう。」

どうして私のトップシークレットを会社ぐるみで知ってるの。お節介な福利厚生にもほどがある! いや・・・今私が最優先で確認しておかなければならないのは、竹ちゃん先輩の気持ち、そう!ハッキリ言ってもらわないと。

そう思ってるうちに、車に揺られて、今日1日の疲れがどっと出てきた。隣には大好きな竹ちゃん先輩‥このままずっと‥‥‥どれだけ時間が経ったのかな。私はすっかり夢の国に落ちていった

ふと眼を開けると、なんと我が実家の前! 藤さんと竹ちゃん先輩が手みやげを持参しなかったことについて相談中…ついついガバっと起き上がり、「いえいえお気になさらず…あの、あまり甘いもの食べないんで」

いや、こんな一大事に手ぶらではご挨拶できないよと藤さん。結婚するのは藤さんではないのにとても真剣です。「今から買いにいってくる!」と藤さんは慌てて出て行ってしまった。

以上が7名が繋ぎに繋げた小説だ。
いやぁ、とにかくすごいのひとことに尽きる。

講評

いきなりの緊迫感を持った冒頭3文は、みごとに7名によって料理された。
次々とキャラクターが登場し、それぞれがきちんと個性を持ち、役割を演じ、作品にとってなくてはならない存在感を放つ。
何やその切り返し!という分岐点は随所にありながら、所与の緊迫感は7名の誰もが共有し、最後まで息をつかせない展開となった。

7名は自然発生的に仕掛け人と仕掛けられ人に分かれ、まるで漫才のボケ・ツッコミのように、能楽のシテ・ワキ・ツレ・アイのように、狂言のシテ・アドのように(…もういい?)、役割分担が見られた。
みんなでいっしょにやる「共同」作業と思って始めた〈みんなで作文〉だけど、実際にはみんなで分担しながらやる「協同」作業だったのだ。
脇道に逸れそうになる(というか逸れさせようと暗躍する人もいる)のにまたしっかり本篇に復するのは、7名の協同が生んだ「レジリエンス」(回復力)といえる。

実は本作の展開にもっとも効果的だったと思われる文を選定しようと思っていたのだが、その目で何度読み返しても定まらない。
7名が紡いだこの1万字すべてがいとおしく、意味と役割があり、そこに優劣なんてつけられなかったのだ。

そして、ぶしつけながら僕が最後の3文をつけ加えさせていただく。
どうか作品の空気を壊さないものでありますように。

藤さんが買ってくるのはきっと堂島ロールだろう。
いつだって明日の活力は甘いものが運んでくる。
スイーツに困惑する両親の顔を思ってニヤついていたら、竹ちゃん先輩もニヤついている——いい想像だったらいいな。

おあとがよろしいようで。

(2024/10/6記)

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