「ぶぶ漬けでもどうどす」と訊かれたら
京には有名な言葉がある。
――ぶぶ漬けでもどうどす。
京に暮らした大学4年間、そんな空気は肌で感じた。
大家がおだてるから、ま、まぁ…と乗っかったら突然ハシゴはずされたり。
社会人としてこの千年の都でやっていくなら、本音と建て前の使い分けを修得しなければ難しいと思った。
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京はやっぱり漬物だ。
すぐき、しば漬、千枚漬。
内陸の町ゆえ野菜の保存技術が発達し、漬物が盛んになった。
漬物とごはんがあれば、肉も魚もいらない。
漬物とお茶の組み合わせもまたステキ。
じゅわぁっと漬物の旨みや酸みが口に広がったところに、すかさずお茶をすする…考えただけでもヨダレが。
漬物、ごはん、お茶の3拍子揃った京のお茶漬けは最強だ。
二寧坂の〈阿古屋茶屋〉はそんなお茶漬けの店。
いつも待ち客でごった返している。
名前を書いてから、辺りの散策に出かけてもいいくらい。
人気の石塀小路や八坂の塔などは徒歩数分の距離にあるから。
待って待ってようやく席に通されて、出てくるのは空っぽのお皿たち。
も、もしやこれは早よ帰れの合図?
ぶぶ漬けの店だけに不安が募る。
なわけない。
ここはお茶漬けバイキングの店なのだ。
ごはんも漬物も、好きなだけ自分で盛って食べることができる。
ごはんは、白米、十六穀米、おかゆから。
漬物は、なす、きゅうり、大根、山芋など20種から。
お茶は、煎茶、ほうじ茶をかけ放題。
そして時間制限なしの太っ腹。
空腹すぎて食べたい漬物だけ盛るから、彩り悪く、まったく映えない。
公式から美しい画像を借りよう。
さすが本能に支配されていないプロカメラマンはいい仕事をする。
いろんな漬物を載せて熱いほうじ茶をかけるのが京流、だそうだ。
たしかに関西でお茶といえば、煎茶よりほうじ茶。
食後のもなかも餡詰め放題。
店内すべて食べ放題、飲み放題、そして居放題。
満腹にもほどがある。
ここで「ぶぶ漬けでもどうどす」と訊かれたら。
そろそろどすね、と大人の答えをすぐ出せる。
(2022/9/8記)
チップなどいただけるとは思っていませんが、万一したくてたまらなくなった場合は遠慮なさらずぜひどうぞ!