食卓は一気に夏の装い
半夏生――
この言葉、よく見かけるが読み方がよく分からないまま大人になった。
暦には聞き慣れない言葉が多い。
それだけ暦から遠ざかった日常を送ってしまっているのだろう。
はんげしょう。
夏至の11日後から七夕までの5日間のことをいうらしい。
その初日が昨日7/2だったのだ。
昔から半夏生には農作業をするな、野菜を食べるな、妖怪が闊歩する、毒の雨が降るなど、散々な言われよう。
でもこれは、食あたりの多いこの時期を警戒する先人の知恵ではないかともいわれる。
半夏生の5日間、身体をゆっくり休めて滋養を摂り、来たるべき暑い夏に備えたらしい。
今でも半夏生に合わせ、地方によってさまざまなものを食べるようだが、関西ではタコだ。
この時期のスーパーは、世の海にはタコしかおらんのかい!と言いたくなるほどタコがズラリと並ぶ。
これは全国的なことだと思っていたから、大人になって、半夏生? タコ? 何それ?と言われたときには正直へこんだ。
僕が生まれ育ったのがタコの町・明石だったからよけいかもしれない。
当時の明石は、いたるところでタコが8本の足を広げて干されていたし、市場では店を脱走したタコが通りを自由にうねうねと散歩していたのだ。
こんな話も、誰に話しても冗談としか思われないのがシャクである。
しかし今、半夏生にズラリと並ぶのは大半がモロッコ産の赤いゆでタコ。
そんな地球の裏側からの長旅でお疲れのタコは見るだけにして、もちろん買うのはほんの数キロ先の明石で穫れた生タコ。
もうこの太い脚にキュンである。
太い脚といえば、主に北海道で穫れるミズダコもあるが、明石のタコはマダコであり、身の締まり具合、歯ごたえが違う。
塩で揉み、ぬめりと吸盤の汚れを取ればこんなにきれい。
もうこのまま1本丸ごとかぶりつきたい気分になってくる。
冷凍庫に2時間ほど置いて、軽く冷凍する。
薄くスライスするためだ。
あぁもう、生ダコは皿に並べずそのまま口に放り込みたい。
料亭では吸盤を取り、皮も除いて刺身にする。
しかしこの吸盤のコリコリを食べずして何がタコ刺しか。
足先1/3はゆがいて酢のものに。
スーパーの店頭で、香川では半夏生にうどんを食べるらしいことを知った。
え、香川ってそうでなくてもうどん食べてるやんというのはぐっと抑え、冷凍の讃岐うどんも買ってきた。
ふだん買うゆで麺とはやはり麺のエッジのキレ、コシがまるで違う。
鹿児島のオクラもさっとゆがいて、食卓は一気に夏の装い。
明石ダコ、鹿児島オクラ、讃岐うどん。
コリコリ、ネバネバ、シコシコ。
心なしか今年の夏は元気に乗り切れそうな気がした、半夏生の夜。
(2023/7/3記)
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