今、マトリョーシカは何を想う
1980年にはコンテナの取扱量がニューヨーク港、ロッテルダム港、香港港に次いで世界4位だった神戸港。
古くから天然の良港・大輪田泊として日宋貿易や日明貿易でも繁栄し、幕末の開港でいち早く西洋文化を取り入れる窓口ともなった。
だからだろう、神戸には各国料理が食べられる店があふれる。
それにようやく気づいたのは大学受験の頃。
地図帳を眺めていると、神戸の拡大図にいろんな国旗のマークが落ちていて、何これ?と思ったら各国料理のレストランだった。
地理でそんなグルメ本みたいなポイントいる?と苦笑いを浮かべつつ、神戸ってなかなか特徴的な町なのかも、とその時初めて気づいた。
今でこそ神戸愛に満ちているが、よそを知らない高校生の分際では神戸がどうとか思うことすらなかったのだ。
その時気になって、でもマクドだミスドだと言っている高校生が行くはずもなく、大人になってようやく行った店の一つが〈バラライカ〉だ。
今なぜロシア料理を取り上げるのか。
それはもちろんロシアの料理、文化、伝統には何の罪もないからだ。
神戸・北野坂。
坂を登り切った先に、町の名の由来となった北野天満神社と風見鶏の館が並んで見える神戸らしい風景。
その奥の山には「KOBE」の電飾。
山と町とが近接する町・神戸。
北野坂の登り始めに〈バラライカ〉は位置する。
昭和26年創業の老舗。
いくら国際色豊かな神戸といえど、終戦直後だから敵国料理としてなかなか受け入れられなかったという。
店名の由来となったのは、この三角形の楽器〈バラライカ〉。
ロシア料理定番のボルシ(ボルシチ)だ。
野菜の滋味にあふれるスープがたまらなく旨い。
生クリームにケフィア菌を混ぜて作ったロシアのサワークリームが載る。
ロシアといえばピロシキ。
カリッと揚げたパンに、牛挽肉、ゆで卵、春雨、タマネギが詰まっている。
春雨が入るのはハルピンに暮らしたオーナーのこだわりだとか。
シャルコイ(ビーフシチューつぼ焼)。
甘めのシチューがパイの中にかくれんぼ。
ガロヴィツイ(ロールキャベツ)とカツレータ(ロシア式ハンバーグ)。
ロールキャベツの中にはなんと米が入っていて、ボリューム満点。
ハンバーグは衣をつけて揚げてあるのでミンチカツに近く、これもボリュ…
牛とマッシュルームを煮込んだビーフストロガノフに添えられるのは、大量のフライドポテト。
食後はやはり、バラのジャムを入れて楽しむロシアンティー。
本場ではジャムは舐めるだけと聞いたこともあるが実際はどうなんだろう。
ひとしきり食べ、身体がポカポカ温まっていることに気づく。
極寒の地・ロシアの知恵なのか。
今、マトリョーシカは何を想う。
ロシアの殺戮行為は決して許されるものではないが、そうなるよう事を進めた側も非難されて然るべきだと思うのだ。
(2022/2/28記)