「Gods and Monsters」ブレンダン・フレイザー主演男優賞受賞の裏に名作あり ネタバレ映画考察
”A perfect night for mystery and horror.
The air itself is filled with monsters.”
はじめに
この映画を見るに至った経緯はこの記事に書きました。
「Gods and Monsters」(ゴッド アンド モンスター)(1998年)
この映画、登場人物たちは別に神でもモンスターでもない。
主人公は実在したJames Whaleジェームズ・ホエールという映画監督。
彼のキャリアのピークは1930年代。
代表作は「フランケンシュタイン」と「フランケンシュタインの花嫁」。
(この映画の内容を理解するためには上記2作品のあらすじは知っておくほうが良い。wikiのリンク貼ってます)
この2作品が今作の中で挿入され、その映像内でモンスターが出て来るが、登場する人たちは違う(一応)。
そう、映画でよくある構造。映画の中の映画。
その劇中劇のキャラクターの関係が、観ている側の人物たちの関係の投影だったり、逆に反映していたりする。
この映画もその手法でもって描かれる。
(ちなみに「フランケンシュタインの花嫁」はシェリー夫人が自身の小説の内容を語り聞かせるというメタ構造。なのでこの映画は、ホエールの世界線→シェリー夫人の世界線→フランケンシュタイン博士の世界線と3層構造になっている)
マッド・サイエンティストのフランケンシュタイン博士と、
博士が生み出したモンスター。創造主と創造物。
(フランケンシュタインは博士の名前で、ツギハギだらけの大男は単にモンスターと呼ばれます)
これがGodとMonsterの関係ということ。
(タイトルが複数形なのは「フランケンシュタインの花嫁」の中で、プレトリアス博士がフランケンシュタイン博士(創造主が二人)に、モンスターの花嫁を作ること(モンスターが二人出来上がる)を祝って、乾杯する時に言うセリフが「To a new world of gods and monsters」だから)
この関係はジェームズ・ホエールとクレイ・ブーンの関係に重なって行く。
この映画が面白いのは、一見ホエール=フランケンシュタイン博士で、
庭師クレイ・ブーン=モンスターかと思いきやそう一筋縄ではいかないところ。
ということでまずはわかりやすいクレイ・ブーンから考察していきます。
クレイ・ブーン
クレイはず~っとモンスターを体現しています。
(ちなみに彼は実在の人物ではなく、この映画用に作られたキャラ。実際のホエール監督はフランスで出会ったPierre Foegelという25歳の男性を呼びよせて住まわせていた)
まずは
名前:Clayton Boone
たぶん数か月前なら気が付かなかったかも。しかし「Pluto」の記事を書いた後だったので気が付きました。
鉄腕アトムもロボットが沢山出てくる。上記「プルートゥ」でもマッド・サイエンティストと大量破壊ロボットが出てくる。これはフランケンシュタイン博士とモンスターの関係と重なります。
そして「プルートゥ」ではボラーというロボットが出て来る。
ボラーとはClay=土の意味があると考察しました。土人形、西洋文化ではゴーレムという土人形モンスターが昔から存在している。いわば主人が操って動かすロボット。
(そういえばブレンダン・フレイザーの代表作「ハムナプトラ」でも操られる砂の巨人のようなのが出ていたような…偶然?)
以上を踏まえると「Clay」という名前は フランケンシュタイン博士が作ったモンスター=土人形ゴーレムと考えて名付けられた可能性が高いです。
そして”Boone”。
これは”Bone”=骨の意味にも取れそうです。土が肉ならそこに骨を与えた。まさにClayton Booneという名前がフランケンシュタインのモンスターを表している。
もう一つは
”Boon”=恩恵、安楽、ありがたいもの…という意味があるようです。
老ゲイであるホエールにとっては冥途の土産にイイもの見せて貰ったありがたやありがたや!な、神がもたらした恩恵とでも言える若くて美しい青年。
そして劇中の会話でホエールが訊きます「安楽死を信じるか?」と。
結果クレイはホエールに安楽をもたらす者としても描かれる。ここに名前に込められた意味がありそうです。
一応Claytonの名前の由来を調べてみると
In English Baby Names the meaning of the name Clayton is: Derived from a surname and place name, based on the Old English 'claeg' meaning clay and 'tun' meaning settlement. Also, mortal.
やはり土の意味、そしてMortalは”死ぬ運命にある”という意味があるので、最後に死んでしまうモンスターにピッタリの名前でした。
容姿
皆さんはクレイの容姿に、フランケンシュタインのモンスターとの相似点見つけられただろうか?
私も最初は気付きませんでした。
でもふとした時にアッ!と思ったのです。
クレイの髪型、わざと横の髪を立てて、てっぺんがフラットになるようにセットしている。まさしくモンスターに寄せているのです。
そう思うとブレンダン・フレイザーの顔の輪郭も、エラが張ってるというかしっかりしたアゴのラインが四角で、モンスターの輪郭に重なる。
さらには外での作業が多い庭師なのに全然日焼けをしていない。青白いツルンとした肌。まさしく”pale skin” =青白い[血色の悪い]肌。
最後は傷。クレイは盲腸が破裂して戦線に出れなかった話をする。
そしてその後に全裸になった時に盲腸手術の傷がぎりぎり画角に入るように撮影されている。
フランケンシュタインのモンスターといえば縫合した傷だらけの体。
ここにもモンスターとの関連が見て取れます。
現在の状況
彼の現在の状況。寂しい一人暮らし。飲み友達はいるが心から深い会話を楽しめる友達はいない。もっと心の中の悩み、葛藤なんかを話せる知的な友人が欲しい。
関係があったバーの女性ベティにも「歩きながら話そう」と言う。それくらい話すことに飢えている。
わかり合える友達が欲しい状態。これが「フランケンシュタインの花嫁」のモンスターが「友達、友達」と連呼して欲している場面と重なる。
そしてベティにも結局拒否される。これは花嫁に拒否されるモンスターと同じです。
そして「フランケンシュタインの花嫁」の中で、モンスターは森の中で孤独に暮らす盲目の老人の小屋に辿り着く(その場面は今作でも挿入されている)。そこでモンスターは言葉を教えられる(覚えた言葉で「Alone bad! Friend good!」と言う)。つまり知識を与えられる。
この場面は一人暮らしをしている(家政婦のハンナはいるけど)ホエールの家にクレイがやってくる状況と重なる。そしてホエールとの会話は彼が欲していた知的な会話であり、そこに喜びを感じるわけです。
そしてクレイには父親とも確執があることがわかる。
盲腸破裂で前線に出れなかった息子を笑った父親。父親の無念を晴らすために兵士になったにもかかわらず。
「フランケンシュタイン」の映画は、創造主である博士が制御不能になったモンスターと戦う話。博士とモンスターの間には確執がある。
その他
基本的にクレイは粗野で乱暴な人間として描かれている。激高した時に物を倒したり。この辺りもモンスターの粗野な部分を投影している。
あと裸にガスマスクを着けるシーン。あれもホエールが言っているが、人間過ぎる為、よりモンスター感を出すために着けられた。
ラストシーン
ラストシーンでクレイは子供と一緒に「フランケンシュタインの花嫁」を観ている。
子供を跨いでテレビの横に行くときも大股で少しモンスターっぽい歩き方になる。
その後、ゴミ出しで外に出る時、重い荷物をもってこれまたモンスターのような歩き方になっている。
そこで彼の中で映画の記憶と動きが結びついたのか?雷光轟く雨の中をモンスターの真似をして歩き始める。
まさにモンスターの誕生。フランケンシュタイン博士のモンスターが誕生した場面、雷光轟く様と重なる演出になっている。
ジェームズ・ホエール
彼の名前は実名なので特に深い意味はないと思われる。
追記:一つ思いついたのですが、それは最後に。
彼は一応フランケンシュタイン博士の立場を反映しているものの、どんどんモンスター側に変貌していきます。そこが面白い。
まずはフランケンシュタイン博士としてのホエール。
フランケンシュタイン博士は「Gods and Monsters」のGod神の位置づけです。モンスターを作り出した創造主。この観点で見ていくと…
クリエイター
映画監督
これは映画を創造する創造主という立場で共通する。
モンスターの雰囲気をもったクレイが現れたことで、モンスターが自分の元に帰ってきたような錯覚、喜びがある。
画家
これも絵画作品を作り出すと言いう点で一緒。この映画ではもう監督を引退しているホエールは画家としての立ち位置が多い。
(映画の中で飾られていた絵は実際にホエールが描いたものが使われているそう)
加えて興味深いのは、ホエールのアトリエは少し雑然としてゴチャゴチャしている。→これはフランケンシュタイン博士の実験室のゴチャゴチャを反映させたのだと思われる。
現在の状態
脳梗塞によって体の不調に悩んでいる。その結果過去の思い出がフラッシュバックし、悪夢や幻が見えるようになっていく。つまり正気を失っていく。
→これはフランケンシュタイン博士(もしくは師匠プレトリアス博士)とマッドサイエンティストという部分に掛かってくると思われます。
隠者
クレイの項目でも書きましたが、ホエールは「フランケンシュタインの花嫁」に出てくる失明した隠遁老人とも重なる。
情熱を持っていた映画業界から身を引き15年間。20数年一緒に暮らした恋人も出て行き、目は見えてますが、脳梗塞の後遺症で障碍者に近い隠居老人。
この隠者、クレイが会話の中で話題に出すソローというのもホエールに掛かっています。
ソローThoreauとは、森に籠って自給自足の一人暮らしをしたことで有名な作家ヘンリー・デイヴィッド・ソローのことです。クレイはそういう本を読む知的な面もあり、哲学的な話などもしたい。それが出来る相手としてホエールとの会話を、そこまで楽しんでる様には見えないかもしれませんが、知的欲求を満たしてくれる相手として楽しんでいたのです。
そのソローも生涯独身を通し、同性愛だったとする学者もいるそうです(一度女性に拒絶された過去があるのでゲイではないという意見もある)。ゲイの隠遁者。ここに共通点がある。
(彼がが眠っているのがスリーピー・ホロウという墓地だそう。ティム・バートンの1999年のゴシックホラー映画にあるのと同じ名前。何か関係があるのだろうか?🤔)
モンスターになって行くホエール
ホエールは博士ポジションからどんどんモンスターになって行く。
中盤辺りでホエールが白黒の夢を見る。
そこではクレイが博士でホエールの脳みその入れ替え手術をする。電気ショックを与えたと同時に夢から覚める。
この段階でホエールがモンスターへと変わる伏線を張っていたと言えそうです。脳みそを替えるのも、脳梗塞で支障のある脳を新しいものに替えたい願望なんだと思います。
キューカー邸でのパーティでモンスター役だった俳優ボリスとモンスターの花嫁役だった女優エルザとリユニオン。ココがモンスターになって行く転換点な気がします。
その辺りからホエールに昔の恋人バーネットの幻影が現れ始める。
そして土砂降りの中でクレイに言う
「The only monsters are here.」と、自分の頭を指さしながら。
唯一のモンスターはココにいる…壊れていく自分のことが制御不能のモンスターの様に思い始めたということではないでしょうか?
そして雨に濡れて車に乗った時「Death catch me.」と言う。死が近いことを感じている。
嵐の夜
ますますバーネットの幻影が見えるように。自我の完全崩壊までが近いことを悟る。頭のいい彼はその前に死のうと考え始め、クレイを使って死ぬことを思いつく。だから「安楽死を信じるか?」と訊いたわけです。安楽死の手伝いをさせたいから。クレイを自分を殺すモンスターにしようとする。
しかし、実は自分こそが人にそんなことをさせようとするモンスターなのだとも気付く…。
そして、今こそその時だとばかりに裸のクレイに襲い掛かる様はまさにモンスター。
クレイに首を絞めるように命じながら言う。
「君は僕の第二のモンスターだろ?」と煽りながら「私を透明人間にしてくれ!」(=見えない存在=死)と言う。自分をモンスターにしてくれと比喩を用いて死を乞う。
(ホエールは「透明人間」という作品も監督している)
この場面、雷が鳴り響く。まさに映画「フランケンシュタイン」でモンスターが誕生する時の演出そのまま(←雷の電気を利用する設定)。ホエールがクレイをモンスターにしようとしている or ホエールがモンスターになろうとしている場面は、モンスター誕生の場面と重なる。
同時に「フランケンシュタインの花嫁」ではクライマックスのラストシーンで雷鳴が轟いている。モンスターは目覚めた花嫁に「友達?」というも、「ギャ~」と叫ばれ拒否される。「Alone Bad」と言っていた寂しいモンスター。寂しさを埋めてくれると期待していた花嫁に拒絶され絶望。そして「I love dead, hate living. You live」と言って博士を逃がし、自分と花嫁そしてプレトリアスがいる研究所の塔を爆破して死のうとします(←映画前半で皆が見ているシーン)。
モンスターと化したホエールは死のうとするわけで(クレイに拒否される=花嫁に拒否されるところも掛かっている)、見事にホエールの2作品をレファレンスとしてモンスターの誕生と死をこの映画のクライマックスに取り込んでいる、ホエールの映画を知っている人にはたまらない演出になっている…というわけ。(←私は調べるまでは全くわかりませんでした(;^ω^))
「I love dead. hate living.」(死がいい。生きるのは嫌だ)
塔が爆発する前にモンスターが言うセリフ。
コレは序盤にホエール邸にインタビューでやってきたKAYが、ホエールに一番好きなセリフだと言っていました。このクライマックスの、モンスターになったホエールの心情に掛かる伏線的なセリフだったわけです。
そして…
プールでのラストシーン
ホエールはプールで水死自殺しているのを発見される。
クレイとハンナが一旦引き上げた彼をプールに戻す。
その時のマッケランの動き。死後硬直で硬くなった手足が水中で大きく舞い、まるでフランケンシュタイン博士のモンスターのような動きになっていたのに気付かれただろうか?彼はあの夜にモンスターになれたのです。
ゲイ・エッセンス
この映画、至る所にゲイのエッセンスが散りばめられている。
色々調べていたら出るわ出るわw
●プリンセス・マーガレット
ジョージ・キューカーのパーティで、ホエールとクレイはプリンセス・マーガレットに挨拶する。エリザベス女王の妹。
彼女はある意味ゲイ・アイコンであった。教育係にゲイがいたし、ゲイの友人たちも多く、夫もバイセクシュアルだったらしい。
「The Crown」(イギリスの王室をテーマにしたドラマ)のエピソードでもそういう話があるらしい。
●ジョージ・キューカー
プリンセス・マーガレットを招待した映画監督。
「スター誕生」や「マイ・フェア・レディ」などを撮った。
彼が隠れゲイだったのは公然の秘密。以前書いたスコッティの映画でも語られていた。
彼の豪邸を設計したのもゲイの建築家。毎日曜にゲイ仲間,、若い男たちを呼んで秘密のプールパーティーをしていた。
映画の中の時代は1950年代。それまで比較的自由だったハリウッドでの同性愛も、40~50年代にはVice squad(警察の風俗取締班)による取り締まりが厳しくなっていったという背景がある。なのでホエールが、女王には会ったことがないが”Queens”(=ゲイの隠語)にはよく会っていると言い、キューカーが嫌な顔をするのはそのせい。
●セシル・ビートン
プリンセス・マーガレットがホエールのことを”セシル・ビートン”だと勘違いする。
このセシル・ビートンという人物は、英王室専属のカメラマンをしていた人物。写真だけでなく、絵を描いたり、日記を出版したり、舞台衣装や映画のコスチューム・デザインまで手掛けた。あの「マイ・フェア・レディ」でイライザが着る大きな帽子のマーメイド・ドレスは彼によるもの。
彼はグレタ・ガルボなどの女性とも付き合ったが、男性とも関係があった。
さらにはホエール同様、脳梗塞で半身が不自由になる。
絵を描く、おそらくゲイ、脳梗塞の後遺症に苦しんでいる…ホエールとの共通点がある人物を敢えて出してきたんだと思われる。
●エリザベス・テイラー
キューカーのパーティでクレイが若きエリザベス・テイラーに注目する。
こんな有名人も来ていたエピソードぐらいにしか最初は思いませんでしたが、よくよく考えてみると、エリザベス・テイラーはゲイの友達が多いことで有名。今でいうアライな人なんです。親友のロック・ハドソンがAIDSで亡くなったのを機にAIDS活動家になったり、長年親友だった俳優Montgomery Cliftもゲイ。
●ビル・コンドン
前回の記事にも書きましたが、そもそもこの映画の監督であるビル・コンドンもゲイ。なのでこれだけゲイ事に通じており、ゲイリスペクトに溢れている作品を作ることが出来たと思われる。
この作品まではB級ホラー物ぐらいしかなかったのが、この作品を期にメジャー作品を手掛けるようになっていく。「シカゴ」で脚本、ゲイが大好きな「ドリームガールズ」、バンパイア映画でもある「トワイライト」シリーズ、「美女と野獣」、そしてフリークス(化け物)と呼ばれる人たちが出てくる「ザ・グレイテスト・ショーマン」。一貫してモンスターやマイノリティの悲哀や苦しみに焦点を当てた作品作りをしています。
ちなみにコンドンは再びマッケランと組んで「Mr.Holms」というシャーロック・ホームズの晩年を題材にした作品も作ってる。ホームズもワトソンとゲイの雰囲気を疑う声があるキャラですし、「Gods and Monstes」に通ずる部分がありそうです。プロット読むと”引退したホームズが未亡人の家政婦と住んでいる…”この映画と一緒やん!!w
コンドンは「フランケンシュタインの花嫁」のリメイクを監督することもオファーされている。プロジェクトは現在停滞中。
●クライヴ・バーカー
製作総指揮に名前を連ねるクライヴ・バーカーは、「ヘルレイザー」「キャンディマン」などのホラー映画の監督もしたイギリスの作家、脚本家。
彼も1996年にカミングアウトをしているゲイ。ゲイの監督はホラー、モンスター映画が本当に好きなんですねぇ。ちなみにマッケランは1988年にカミングアウト。監督コンドンのカミングアウトの時期はちょっとわからなかったけど、オープンリー・ゲイの方たちが同じくオープンリー・ゲイのホエールについての作品を作ったのはリスペクト以外ないのではないでしょうか。
ビル・コンドンもクライヴ・バーカーも(タイタニックのおばあちゃんも)このメイキング映像に出て来ます。
●フラワーアレンジメント 鉢植え
部屋に飾られる花が気になりました。花言葉など、何かしら意味を潜ませていることが多いですから。
まずはホエールとクレイがランチを食べる時、テーブルの中央に
「菊」のアレンジが置かれています。
菊と言えば日本における男性同性愛の象徴。しかし海外でも知られているのか?コチラサイトにa metaphor for homosexualityと書かれているので、たぶんゲイ知識人にはある程度は浸透しているのではないかと。
もう一つ、花瓶に入った「カラー」の花が何回か印象的に画面に入っています。私は今まで気が付かなかったのですが、カラーの花は女性器の形に似ていてレズビアンの意味になることがあるそうな(確かにクリ〇リスみたいな花芯とビラビラした花びら(苞)してる)。しかし一方でアメリカの詩人ウォルト・ホイットマン(彼もゲイかバイだと言われている)は、真ん中の棒みたいなのを男性器に見立てホモエロテイックの象徴として使っていたらしい。これは後者を意識して使われていたということでしょう。
あと気になったのがゼラニウムの鉢植え。
これも何か意味ありげに置かれている気がする。調べてみると
とある。この中だと「フレンドシップ」の象徴だと思われます。ホエールとクレイの友情がポジティブな雰囲気の時に映されていた気がします。パーティーの招待状を受け取った時。これも友達からの招待と取れます。モンスターが「フレンド」を連呼して、この映画のテーマのひとつがフレンドなのは明白です。
その後ろにバショウの鉢植えも映っている。これはバナナ=男根。徹底してますなw
●キュウリのサンドイッチ
モンスター映画オタクのKayとのインタビューの時に、ハンナが用意するキュウリのサンドイッチ。
キュウリのサンドイッチは上流階級のアフタヌーンティーなどで出されるものなのですが、ココにもゲイのメタファーがあります。
まずはキュウリ=男根なのは明らか。
そしてそもそもはイギリスのゲイ作家オスカー・ワイルドが書いた「真面目が肝心」という物語の中で主人公(これもゲイ)がむさぼるように食べる=男とのむさぼるようなセックスを暗示して描かれているらしいです(←ザッと調べたので間違っていたらスイマセン)。
なのでこういう背景がわかっているとキュウリのサンドイッチが出てきただけでニヤッとしてしまうわけです。
●葉巻
ホエールがクレイに葉巻を勧めて二人で吸うシーン。
これは「フランケンシュタインの花嫁」で、モンスターが盲目老人の小屋で葉巻を勧められるシーンのオマージュになっている。
この葉巻にも何かしらゲイ的要素があるように思う。
調べてみると、太い棒状のものを咥える…やはり男根のメタファーであったりするようです。
あとオスカー・ワイルドの「ドリアン・グレイの肖像」に
“You must have a cigarette. A cigarette is the perfect type of a perfect pleasure. It is exquisite, and it leaves one unsatisfied. What more can one want?”
というセリフがある。タバコは完璧な悦びであるとともにもっと欲しくなるもの。この終わらない欲望の象徴というのも、セックスを連想させる小道具という感じでしょうか。セックスシーンの後にタバコ吸うシーンとか多いですもんね。
●プレトリアス 博士
「フランケンシュタインの花嫁」に出てくるフランケンシュタイン博士の師匠。ゲイと明言されていないがそういうキャラとして描かれている。
発言もそうだし、結婚して初夜を迎えようとするフランケンシュタイン博士を連れ出し(邪魔して)自分の研究を手伝わせようとする。原作本では「君は子孫を残せるが私は出来ない…」と、ゲイであることを示唆する発言がある。
映画の中でサイエンティストなのにモンスターの花嫁の頭をこんなにするなんてヘアドレッサー(ゲイが多い)だと思われると言ったり、次回作は女性博士が男の人造人間を作る話、モンスターはゲイリー・クーパーみたいのがいいわ、でもプレトリアスならレスリー・ハワードみたいなのでしょうねと花嫁役の女優が言う。レスリー・ハワードは「風と共に去りぬ」のアシュレー役の俳優、。マッチョなレット・バトラーと対照的に品があり女々しい役を演じている。
プレトリアスの細身で白髪がボワッとした髪型、鉤鼻、マッドサイエンティスト…この造形って「Back to the future」のドクとかにも脈々と受け継がれてるような気もします。
このプレトリアス博士を演じていたErnest Thesigerもオープンリー・バイセクシュアルだった人物。フランケンシュタイン博士を演じたColin Cliveにもバイセクシュアルの噂があったらしい。
●エルザ・ランチェスター
エルザ・ランチェスターは「フランケンシュタインの花嫁」の中で、その語り手であるシェリー夫人の役とモンスターの花嫁役の一人二役をしている。
シェリー夫人のシーンに出てくる夫とバイロン卿の二人もちょっとゲイっぽい(貴族なので過剰なエレガント口調と振るまい)。
そんな女優エルザ・ランチェスター自身も、夫の俳優チャールズ・ロートンが同性愛者だったと言っている。つまり「Gods and Monsters」のホエール回想シーンで、フランケンシュタイン博士とプレトリアス、そして花嫁の3人を演出している場面、あそこはゲイ達とその理解者女性の結構ゲイゲイしいシーンだったということです。
モンスターとして描かれるゲイ
この映画では基本ゲイ、ホモセクシュアルが怪物として語られます。
先述したように時代は1950年代、Vice Squadによる取り締まりが厳しい時代においてモンスターもゲイも疎外されるマイノリティとして、その悲哀を描いてるわけです。
ガスマスク
ホエールがクレイに被せるガスマスクも、本当の顔を隠して生きるゲイのメタファーとして使われているように思います。ちなみにホエールは"「The Man in the Iron Mask」も撮っています。ディカプリオも同じ題材の「仮面の男」に出てました。
レナード・バーネット
ホエールの従軍時代の恋人、レナード・バーネット。
彼は皆が待機している塹壕から数十メートル先で爆発に巻き込まれ、その死体が有刺鉄線にひっかかったままになる。助けに行きたいけど危なくて行けない。鉄線上で朽ちていく姿はまさに化け物。兵士たちは死体の彼に今日も元気か?と声を掛けたり、ジョークにしたりする。それはまさに嘲笑の対象となるモンスター及びゲイに重なってきます。
実際彼がホエールの恋人だったことを考えると、それが如何に耐えがたいことで彼を苦しめたか想像できますし、彼のモンスター愛の根底にはこの記憶が影響していると考えられます。
そして映画終盤にかけてのホエール自身のモンスターになりたい願望。これは愛した恋人がいる場所へ、愛した彼と同じ存在になり再び一緒になりたい…という想いもあったのではないでしょうか。
ハンナ
一方家政婦のハンナはクリスチャンとしてホモフォビックな発言を繰り返します。そのゲイを拒絶する様子=目覚めた花嫁がモンスターを拒絶する場面と重なります。つまりハンナはモンスターの花嫁を投影する存在と考えられます。
「フランケンシュタインの花嫁」では、ラストで花嫁はモンスターと一緒に塔の爆破で死んだことが示唆されます。
しかしこの映画「Gods and Monsters」ではホエールと一緒には死にません。
プールから引き上げた彼に抑えられない愛情をもってキスをします。私はこのシーンが一番刺さって泣いてしまいました。
モンスターの花嫁同様にホエールを拒絶しているように見えるハンナ。しかし一緒に映画を観たりまるで友達、夫婦の様にも暮らしてきた。そこに愛情が芽生えていたことがわかります。ホモフォビックな信仰を越えた、人と人が触れ合うことで生まれる男女の性愛、友情、尊敬、慈愛…それらをフワッと優しく内包するもっと大きな括りの愛。
花嫁とモンスターも、最初は拒絶したかもしれないが愛情を育むことが出来るんだと、あの世で二人は愛し合うことが出来たかもしれない…と、監督はモンスターと花嫁のその後をこの場面で描きたかったのではないでしょうか。絶望して救いのない最期を迎えたモンスターにもMercy慈悲を示した…ここまでモンスターばかりだったこの物語に神が現れた瞬間。苦しい想いで生きているゲイの人たちにも”絶望ではなく希望”を示したかったような気がしてなりません。(ホエールはゲイだから死んだのではなくて、自殺の理由は病気による苦痛ですからね)
Hannaの意味も調べてみると
”「恩恵」「恵み」を意味するヘブライ語の人名カンナハに由来する”
らしいので、ホエールの人生に恩恵を与え、救われないモンスター、ゲイに恵みをもたらす存在として創造されたキャラではないでしょうか?
The Mummyとの関連
少しトリビア的な話。
モンスター役を演じたボリス・カーロフ(ホエールとパーティーで写真撮っていた赤ちゃんに夢中な爺さん)はその後、「ミイラ再生」という映画で復活するミイラの役をする。
ここにも死体から命が復活する、このフランケンシュタインの物語と共通する設定があります。そして興味深いことにこの「ミイラ再生」がのちの「ハムナプトラ」シリーズの元になっている作品なのです。そう、ブレンダン・フレイザーの代表作。因縁めいたものを感じます。
さらには2017年の映画「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」もこの映画が元になっている。トム・クルーズが出ていたけどあんまりパッとしなかったやつです。(ちなみにハムナプトラの原題も「The Mummy」です)
この映画の中でラッセル・クロウ演じるヘンリー・ジキル博士役がプレトリアス博士のセリフ”To the new world of Gods and Monsters.”を言うらしい。なぜ関係ない映画のセリフが参照されるのか?それはこの映画がダーク・ユニバース・シリーズの第一弾になる予定で製作され、次が「フランケンシュタインの花嫁」のリメイクとなるはずだったから。ここにも不思議な縁があるのが興味深いです。
さいごに
「フランケンシュタイン」「フランケンシュタインの花嫁」は、博士と人造人間の話。創造主と創造物。
ここに「鉄腕アトム」の天馬博士とアトムを連想して気が付いたのですが、これはズ~っと遡るとギリシャ神話のピグマリオンの話に至る気がします。自分が作った美しい彫刻ガラテアに恋をするピグマリオンの話。
この系譜にあり、博士と人形やロボットという形態の元祖的な物語は「ピノキオ」ではないでしょうか?木の人形ピノキオがフランケンシュタインの人造人間になり、鉄腕アトムのようなロボットになる。
ピノキオの原作は1883年イタリアの作家カルロ・コッローディの児童文学。
そこからディズニーがアニメ化したのが1940年(内容は少し改変されている)。
このディズニー版ピノキオには、奇しくも鯨とブルー・フェアリーが出て来ます。
フェアリーはゲイの隠語。
ブルー・フェアリーはピノキオに教えを授けたり助けたりする。
フェアリー(ゲイ)であるホエールとクレイとの関係にも繋がる気がする。
そして鯨。ホエールです。白鯨モービディックでも海の巨大モンスターとして描かれる存在。モンスター映画を撮り、モンスターに恋をし、モンスターを愛し、モンスターになって死んだ映画監督ジェームズ・ホエール。彼がモンスター映画を撮るようになったのは、ホエールという名前を持って生まれた時からの運命だったようにも思います。彼の最期が水死なのも、水に帰った哺乳類クジラを連想させます。
ゼペット爺さんが作ったピノキオが物語終盤で鯨の中に囚われる。そして潮吹きと一緒に空にぶち上げられ外に出られる。
ここにブレンダン・フレイザーのキャリアとの不思議な類似があるような気もしてなりません。
フレイザーは「Gods and Monsters」でキャリアが花開き「ハムナプトラ」へと繋がって行きます(これもまた、先述したフランケンシュタインの派生的モンスター話)。しかし2010年代辺りから色々な問題で低迷する。それは鯨の腹の中に囚われたピノキオのよう。暗く身動きが取れない状態。しかし潮吹きの如く一気にぶち上げられてアカデミー主演男優賞という最高の栄誉を手にすることになる。その映画が「The Whale」です。クジラの様に太ってしまったゲイの男性の話。彼が食べることが止められないのは、失ったゲイの恋人の為。モンスターのような容姿を恥じて家に引きこもっている。そこに彼を世話する女性が関わってくる。なんとまあ「Gods and Monsters」と共通点が多いことか!!
ここまで知ると観たくなります、「The Whale」。
私は非常に観たくなりました。
さらには「エブエブ」のA24の製作、監督は「ブラック・スワン」のダレン・アノロフスキー。
25年を経て、ブレンダン・フレイザーがどんなホエールになり、どんなモンスターを演じたのか…是非劇場でご覧ください!!(←急に宣伝担当みたいになるw 一銭も頂いてません!!🤣)
”To the new world of Gods and Monsters.”
*****
考察ばかりで映画感想書くの忘れていたのでコチラに。
先人へのこれ以上ないオマージュとリスペクトに溢れている傑作。
観てよかった。まさに導かれて観るべきして観たという感じ。
「フランケンシュタインの花嫁」にはなかったモンスター達への慈悲ある結末に監督の優しさを感じ、それを言葉ではなく映像と演技で表現しきった監督の力量も素晴らしかったと思う。
そしてやはりイアン・マッケランの演技は言うことないほど完璧だった。
この役でアカデミー賞獲れなかったのが嘘みたい。誰が獲ったんだ?と調べてみたら「Life is Beautiful」のロベルト・ベニーニだった。なるほど、確かにアチラの方が大衆受けがイイのは納得。ナチスとユダヤ人迫害も高評価得られやすい題材だし。テレビでやってたらつい見ちゃう。子役の子もカワイイしね。
マッケランが当時まだ60手前だったというのがビックリ!!最近の60歳が若いのもあるけど老けてるなぁ~。75歳くらいに見えた。でもそこから殆ど印象変わってないから老け顔なんでしょうね。
あと家政婦ハンナ役のLynn Redgraveリン・レッドグレーブの演技も、最後の最後、あのプールのシーンで全てもって行っちゃうほど印象に残る演技。エッ?そんなに愛していたの?って、心がキュ~っとされちゃう。彼女もこの時のアカデミー助演女優賞にノミネートされてる。受賞したのは「恋に落ちたシェイクスピア」でエリザベス1世を演じたジュディ・デンチ。メイキングの彼女の話している所を見たけど、ハンナとは全然違った。見事に癖のあるおばさんキャラを作り上げていたかがわかる。
ブレンダン・フレーザーはクレイ・ブーンの項目に書いた通り、この役をやるのにこれ以上ない容姿をしていて、見事その役を演じきったと思う。
ジミー・ファロンの番組に出て話してるのを観たけど、キー・ホイ・クァンと昔に共演していたり、そのもっと前、デビューはリバー・フェニックス主演の映画「恋のドッグファイト」。そこで水兵Aを演じたのが最初。その時に全米映画俳優組合の会員カードを貰って、これで自分も俳優として認められたと大喜びをしたと語っていた。
そういう下積みを経て、この「Gods and Monsters」に辿り着いた。そこからアクションスターみたいになってしまったけど、今回の「The Whale」で実力派俳優として彼がどういった役をしていくのか、楽しみになってきました。頑張って欲しいです。
25年前に観てても、私には絶対面白さがわからなかった映画だと思う。
これだけの背景にある多くのサブテキストをネットで調べられたからこそ、その偉大さがよくわかる作品。
是非機会があれば見て観てください。おススメです!!
「The Whale」を観ましたので、考察と感想記事も書きました。
↓↓↓
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?