自省してしまう映画2本『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』と『関心領域』
イギリス発のちょっと趣の変わったロード・ムービー『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』と、アメリカ・イギリス・ポーランドの合作による、これまた異色のナチス映画『関心領域』を観ました。
(どちらも相当重い作品なので、別の日に観て良かったです)
まず、『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』。
原題『The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry』の通り、ある老人ハロルドの、思いもよらぬ形で始まり数か月にわたって続く「巡礼」の旅が描かれます。
公式サイトよりあらすじを。
てっきり「愛敬満点の破天荒なおじいちゃんが、かつて恋した余命わずかな女性に会うために旅をする、ほのぼの系ロードムービー」かと思って観始めたのですが、意外にもシリアスで哲学的とさえいえる作品でした。
「君は絶対死なない、死なせない …」何度も何度も呪文のように呟き、一歩ずつ足を進めるうち、自分たち夫婦の辛い過去さらには現在と向き合うことになる「巡礼」の旅……。
イングランドを南から北へ向かって縦断する800キロの行程で、ハロルドは様々な出会い(と、時には別れも)を経験します。
・近所に住む、病気で妻を亡くした男
・ガソリンスタンドのレジ係の若い女
・朝食を分けてくれるゲイのビジネスマン
・スロバキアからの移民で、掃除の仕事しかない女医
・電話で話をする、ホスピスのシスター
・記念にハロルドの写真を撮る、実はメディアの男
・志願して旅に同行する若い男
・いつの間にか旅についてきている犬
・自然発生的に巡礼団をなした応援の人達
そして、夫の思いがけない出立に取り残され動揺する妻のリアルな言動も、物語の展開の重要なキー。
一つ一つはささやかなエピソードですが、積み重ねられることで、旅の途上にあるハロルドの心中に起こる、さざ波のような変化を映し出します。
その細やかなこと、さすがはイギリス映画だなと思いました。
美しくて穏やかなイングランドの風景を進む旅の行程で次第に見えてくる、悔恨と贖罪と赦しと希望と…。
宗教色はあえて排除され、日本人にも受け入れられやすい心境ではないかと感じました。
終盤の、ホスピスの居室でクリスタルが反射する光、続いて数人の登場人物の目がふと光を追うシークエンス、そして夫婦の「家へ帰ろう」の一言…
とても深い余韻の残るエンディングでした。
続いて『関心領域』について。
第2次世界大戦中、アウシュビッツ強制収容所と壁一枚隔てただけの屋敷に住んでいながら、都合の悪いことは一切見えず聴こえない、収容所所長一家の「平和な」生活を淡々と描く、ホラー的な味わいの作品でした。
「関心領域」とは、ナチス親衛隊がアウシュビッツ強制収容所等を取り囲む約40平方キロメートルの地域を示す言葉として使っていた、一種の専門用語のようです。
壁の向こうからひっきりなしに聴こえる不穏な音と、一見平和な家族の欺瞞とのギャップ、それでも見え隠れする良心への希望、ふいに差し込まれる、現在のアウシュビッツでの展示風景。
くらくらと眩暈がしてくるような作品でした。
それにしても…
現実にウクライナやガザなど、今「壁の向こう側」で起きていること
ニュースで見聞きする時だけ「向こう側」にちょっと関心を向けるのみで、事実上何もできずにいる「壁のこっち側」の私たち
今、実際に厳然としてある「壁」をめぐる「関心」と「無関心」について、胸に手を当てて考えさせられる時間を過しました。
二本とも大衆受けはしそうもないとはいえ、観る者に真摯な自省を促す秀作です。
でも、こういう志向の作品は、往々にして届いてほしい人には届かないものだったりするんですよね。
昨日、6月23日は沖縄慰霊の日でしたが、実はオリンピックデー(1894年6月23日に創設されたのを記念して、IOCが定めたもの)でもあることを、今年初めて知りました。
クラクラするようなギャップがここにも!
(無理にでも東京と札幌でオリンピック、大阪で万博をやれば、高度成長の夢が再現できると、一部の人たちは本気で思っているのだろうか???)
何重ものクラクラに気が滅入ってきたので、リフレッシュしましょう。
季節の花の写真です。
桔梗のつぼみ、好きなんですよね。
紙風船みたいで愛らしい姿に、気持ちが和みます。