優しさを抱く。
人が死ぬ直前、もしくは、死にそうになっている場面に私はよく居合わせる。
みかんを喉に詰まらせ、顔面蒼白で咳き込むおばちゃん。
ラーメン屋で、低血糖でぶっ倒れているおっさん。
田んぼの中で自転車ごと突っ込んでいて、顔面を水に浸す爺様。
私は、ピンポイントで居合わせる、
間が悪い人間だ。
このお三方は事なきを得ているのだが、回復した際には、ありがとーー!!っと、皆、爆笑していた。チャンチャン。
ただ、人間には、死がつきものだ。
職業柄、お亡くなりになられる方と、直前までお話させてもらった経験がある。
死ぬ前の言葉。
何人かご紹介したいと思う。
「苦しいなぁ!
あぁ、苦しい!
会社倒産した時の方が苦しかったけどな!」
慢性閉塞性肺疾患 (COPD)罹患のお爺様。
「娘に学をつけてしまったことは、
私の落ち度でございます」
肝硬変を患っていたお婆様。
「体の向き、変えてにょーん」
心不全のお爺様。
「アイスを口に突っ込んでください」
脳梗塞のお婆様。
人それぞれだ。
一人一人の命に向き合う仕事は、時々酷く疲れる。だだ、懸命にお見送りをする。患者様が、ご家族様が、最後の時を悔いがないように。
そんな中で、私には、忘れられない言葉がある。脳梗塞を患っていたお婆様の言葉だ。
二人で、快晴の空を眺めていた。
カーテンを開け、窓を開け、まだ、寒いですね、なんて声をかけていた。
冷たい風と、日差しの暖かな、
朗らかで良い日だった。
「いいお天気ですね、あなたにとって、良い日になりますように。」
これが、彼女の最後の言葉だった。
誰かのために、優しさを抱きしめて死にたい。
これが、私の人生の目標である。
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