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肛門が嫌なんです。
「肛門が嫌なんです」
お綺麗な先輩ナースは言った。
以前働いていた病院での話だ。
「どうしても、肛門が嫌なんです」
「元気なおしゃべり人間の肛門を見るのがどうしても嫌なんです」
「私は、弛緩している肛門は許せます、まだ締まりのある肛門は、嫌なんです。」
悲痛な叫びである。
ちなみに私は、これを毎回聞かされる。
彼女は必死だ。
「お元気な肛門は嫌なんです。」
話を順を追って聞いてみる。
ナースコールが鳴り、患者の部屋に向かうと、肛門の診察をして欲しいと言われるそうだ。
その患者さんは、まだお若く、体の機能も申し分なく、特に肛門に難もない。
患者の言い分としては、長年肛門に違和感を持っていると言う。それを解決すべく、あらゆる病院に足繁く通う、ホスピタルショッピングの経歴の持ち主だ。
最初に診察に行ったクリニックでは、異常なしと診断される。
納得がいかず、セカンドオピニオンに、総合病院に行くも、異常なし。
サードオピニオンでは、大学病院に紹介状も持たず向かったらしい。そこでも、特に異常なし。
複数検査をしたが、肛門は正常だったと言う。行く病院もなくなり、ようやく5つ目の町医者で、ワセリンを処方してもらい、今に至る。当然当院でも、肛門の話はスルーし、主疾患の治療のみを行っていた。
お綺麗な先輩ナースは、半分泣いている。
「屈辱です…」
彼女は打ちひしがれている。
毎度ナースコールで呼ばれては、
「肛門を見てください、さぁ座って」
と、ズボンを下ろし、お尻を突き出し、肛門を披露される。先輩は、跪き、肛門を確認する。異常がないことを告げると、「あなたの目は節穴ですか?こんなにも違和感があるのに」と、不毛な話が長々始まるそうな。
完敗だ。
この患者の元から戻る先輩ナースは、いつだって少し老け込む。
「屈辱です。私は弛緩した肛門が見たいんです」
先輩は、真面目すぎるのだ。
私も先輩の力になりたい。
「eriちゃん、どうしたらいい?」
私たちは考えた。
長いこと考え、できるだけ、私たちの精神的苦痛を最小限にする方法を編み出すことになる。
* * *
先日、私は、スカイスパの寝浴で、肛門のやや上方に、擦過傷を作ってしまった。
地味に痛い。誰かに助けを求めたくなる。
「肛門を見てください」
あの時の声が聞こえる。
さあ、実践する時が来た。