【感想文】人生初の「ブラボー!」ベジャール「ボレロ」@東京文化会館9.28
9月28日土曜、13時半から、上野の東京文化会館にて、モーリス・ベジャール・バレエ団の2024年日本公演のBプロ(ミックスプログラム)を観に行った。「芸術に触れよう2024」という私の目標では当初は入っていなかった予定だったが、大学生の頃観に行ったベジャールのボレロがどうしても忘れられず、また観たいと思ってダメでもともと検索してみたら、たまたま今年来日公演がある。また数枚の万札が飛んだが、迷わずチケットを購入した。
今回は特に「ボレロ」以外の曲について聴きこんだりせずに行った。プログラムの内容は「だから踊ろう…!」(振付:ジル・ロマン、音楽:ジョン・ゾーン、シティパーカッション、ボブ・ディラン)「2人のためのアダージオ」(音楽:ベートーヴェン)「コンセルト・アン・レ」(音楽:ストラヴィンスキー)「ボレロ」(音楽:ラヴェル)2曲目以降は振付ベジャール。
《「ボレロ」以外の曲目》まず、ベジャールといえば「ボレロ」の」イメージが強く、また、記憶の中では、かなり前衛的なイメージであったので(初めて観た時にクラシックバレエと比較しながらだったからかもしれない)、実際はそれほど前衛的な踊りだというわけでもないのに驚いた。音楽が前衛的な香りがする(1曲目)。だが、振付(踊り)は、古典的な動きを踏襲しているものと、現代的な動きを組み合わせた感じである。筋肉のしなやかさがとても美しい。伸ばす手指の先までしなやかである。筋肉を見せるところは、これが人間の肉体美(筋肉・骨格という必要最低限だがそぎ落とされすぎていない絶妙な美しさ)だということがよくわかるように、腹筋などがよく見えるようになっているが、決して強調しすぎるような筋肉もなく、強調しすぎるような見せ方でもない。
妙な例えだが、前半は特に、美しく色鮮やかな衣装と、現代風の音楽に、和のテイストも合う気がした。例えば茶の湯などの和の要素の後ろに、現代風な音楽がかかり、それに合わせて踊りがある。古典的かつ和的な要素と、西洋的かつ現代的な要素の組み合わせ。ごちゃごちゃしそうだが、いや、観た感じでは、この完成された場に、例えば茶の湯だけプラスすればいいのだ。そんな異空間じみたものも、案外調和をなすかもしれない、と勝手に思った。
また、4人、6人くらいの塊の中で、1人だけまたは2人だけ違う動きをしたりする場面はもっと多いかと思っていたが(もっと自由すぎて、一言でいえばもっと滅茶苦茶な振付かと思っていたのだ)、割と基本的な動きは揃えてある。例えば向く方向が違っても、動きもバラバラというわけではなく、統一感がないわけではない。不思議な一体感を感じた。ただし、「統一感」を客席から観ることはできても(あるいはバレエ鑑賞がひさしぶりだからか、自分自身が)バレエの世界と一体化している感じまではしなかった。ここは音楽鑑賞と異なる点である。
動きは硬くなく、どこまでもしなやかで、のびやかである。妖しい雰囲気の動きもところどころ出てくるが、これはフェリーニの世界を思い起こさせた。
男女のそれぞれの役割があるようで、しっかり別々になっているのには、案外古風な感じを受けた。おそらく逆ではダメなのだろうな、という振付(単に、男性が女性を持ち上げる、などというだけではなく)が随所に見られた。
とりわけ、女性が美しいと思った。美しい動きと、美しい形(姿勢)のまま、静止できることが素晴らしく感じた。
動き(振付)からだけではなく、肉体(筋肉)、骨格、そのものからも「表現」を感じた。筋肉、骨格イコール表現、といってもいいほどである。ここまでくると、あまり音楽の重要性を感じなくなった。
《ボレロ》セットは覚えていたが、驚いたのは、始まって少ししたら、何十年前に一度観ただけのベジャールのボレロの振付を思い出したことである。勘違いしていたのは、真ん中の赤いテーブルを、トランポリンだと思っていたことである。それほど「メロディ」の跳躍はすごいのだ。ちなみにそのテーブルの上で一人で踊るのが「メロディ」、テーブルを取り囲んで赤い椅子に座り、徐々にテーブルの周りに出てきて踊り加わる大勢の男性たちが「リズム」である。これまでの3曲(ベジャール振付は2曲)に比べ、きちっとしたリズムを刻む「ボレロ」、しなやかさは失わないままに、動きとリズムはぴったりと合っている。「メロディ」の動きはだんだんと大きくなり、そのカリスマ性に引き込まれるようにして「リズム」たちも徐々に群がってくる。ラヴェルの音楽を一言でいうならば「精緻」あるいは「バランス」だろうか。これを「メロディ」「リズム」に分け、それぞれに異なる踊りを与えつつ「メロディ」はその動きを大きくしていき「リズム」は増大し、複雑化する。何というアイデアだろうか!音楽だけでも感動余りある「ボレロ」、これを視覚でも同時に味わえるのだ。圧倒的な終結と同時にドッと泣き出し、私はついに立ち上がって、生まれて初めて「ブラボー!」と叫んでいた。
感動しすぎると、えてしてあまりうまく言葉では表現できないものである。以下に、ベジャール・バレエ団の2024年用プロモーション映像を貼っておくので、よければご覧いただきたい(5分01秒)。
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