うつつ堂|杉田研人
ひとり出版社を始めました。ちょっとずつ、気楽に、書いていきます。
東京のホームレスと大学生が出会い、人類学者が描いた『トーキョーサバイバー』。小社「うつつ堂」の初刊行本でもあります。 編集者としてこのnoteマガジンでは、本書の内容にもちょこっと触れつつ「編集後記」を連載しています(目標50本)。『トーキョーサバイバー』の外伝またはサブテキストとして、ご覧いただければ幸いです。 ※本書のクラウドファンディングにご支援いただいた皆様、誠にありがとうございました。
「愚痴ばっか書くな」と美女に言われたので、このマガジンでは今後はちゃんと「出版社としての活動」をメインに書くことにする。 しょうもない話はまた別でシリーズ化して書こう。そうしよう。 タイトルは「うつつ堂ウラグチ」にしよかな。 公開するまでもない話ばっかり書こう。そうしよう。
これから「ひとり出版社」を始めようと志している方に伝えられることがあるとしたら、「起業」と「クラファン」と「初出版」を同時にやるのだけはやめとけ、ということだ。 溺れる。 足掻いたら、足攣って、脇腹とかも攣って、溺れる。 影分身の術を使える忍か千手観音ならば、問題ないだろう。しかし多くの方はそのどちらでもないはずなので、溺れないためにも、やるなら同時ではなくひとつずつ、を勧める。 目下、溺れている。 しかもバイト代をケチって海上レスキュー隊も雇っていないから、誰にも
春になった。 宗教の勧誘が活発になる季節だ。 上京する人が増え、それぞれに悩み多き季節になり、宗教も自己啓発セミナーも、信者、信徒、入会員を増やすべく布教・広報活動に勤しんでいることだろう。 つい先ほども、仏教系の某宗教団体の勧誘者がピンポン鳴らして訪れた。20代後半くらいのかわいい女の子二人組だ。 こうした勧誘でどの団体も共通しているのは二人組であること。一人ではトラブルが起きたときに対応しづらい。勧誘者が女性であることが多いのは、突撃訪問への警戒心のハードルを下げる
クラウドファンディングにご支援・ご協力いただいたみなさま、誠にありがとうございました。 28日間の募集で、232人の方々から1,409,500円ものご支援をいただくことができました。ご支援いただきましたお金は、書籍の印刷代、サポート購入費など、すべて必要経費に充てさせていただきます。 本書『トーキョーサバイバー』は、東京に生きるホームレスの方々との交流のもと編まれた1冊ではありますが、「ホームレスではない、ホームのわたしたち」に向けた内容でもあります。 みなさまの温かい
中国でホームレスに「一番大事なものは何か?」と尋ねたら、「お金だ」と答える人が多いだろうなと思う。 留学当時、中国で出会った物乞いやホームレスの多くは、地面に突っ伏して土下座していた。名前や年齢、これまでの職業やなぜいま困窮しているのかという一身上の物語を、チョークやレンガのカケラで路上に直接書き記して行き交う人たちに平伏していた。 なかには、田舎から出てきたばかりの年端もいかない女の子もいた。良心的な食堂の老板に拾われて、住み込みで働きながら看板娘になった子もいたが、一
引っ越ししたい。 一人暮らしを始めて、これまでに12回引っ越ししている。できれば半年ごとくらいのペースで居を変えたいけれど、手続きの煩わしさと金銭的な問題から仕方なく我慢している。 特に「手続き問題」は切になんとかしてほしいと願う。行政的なものばかりでなく日常生活に必須のライフラインも、個人(人)と場所(土地)の情報の変化に敏感だ。「僕がどんな場所に住んでいるのか」を明らかにしなければ、暮らしが成り立たない仕組みになっている。この社会はあらゆる局面で、「わたくし」と「場所
クラウドファンディングで、「編集後記を毎日書く」と宣言してしていたのに、調子が良かったのは最初だけでたった#7で更新が止まっている。 嘘つきになってしまった。 その上、note上で「クラファン終了時に#28まで到達すれば、毎日更新は達成されたものとする」と言い逃れまでしたのに、追いつけなかった。 嘘は重ねられた。 嘘を本当に塗り替えることはもはやできないが、贖罪はできる。 贖罪に宣伝を兼ねて、「トーキョーサバイバー編集後記」は#50まで更新することにする。 罪が贖われるま
今朝、校了、入稿した。 ギリギリのタイミングでインデザインの最新データが大破損するなど、窮地に立たされた。 確実に寿命は縮まり、全神経全集中するZONE状態に入ることで危機を脱した。 そう、そうやって生きてきた。 通常モードで怠惰に過ごしているツケを、どこかで一気に清算してきた。それでなんとか乗り切れてしまう器用さと、周囲に迷惑をかけまくれる厚かましい精神とを持ってしまっているがゆえに、こんなふうになってしまう。何ひとつ、よくない。 これからもそうなのかと思うと、もしや
スリランカから着信があった。 誰だろう。Cocco聴いてて気づかなかった。 いたずら電話だとしても、出たかった。 いたずら電話なら、なおさら出たかった。 面白いことになりそうだったのに、チャンスを逃してしまった。 くやしい。 もちろん、知り合いの可能性もある。 だとしても、誰だろう。 こんな時期に、スリランカから連絡くれるのは。 もう一度、かけてくれないかな。
時間軸は都合よく伸び縮みさせられるもの、とする。 ゆえに、「編集後記」は遅れていないし、溜まってもない。 クラファン終了時に#28まで到達すれば、毎日更新は達成されたものとする。
今年、東京では久しぶりに積もるほどの雪が降った。その翌日、1月7日の夜に、新宿西口の地下に「眠りに」行ってきた。 新宿西口地下は、ベテランから新人までいろいろなホームレスが寝床にしている。雪が見たかったので、タクシーロータリーが見とおせる柱にもたれかかってボケェとしていた。真っ白なロータリーを想像していたけれど、街路樹に少し雪がかぶっているだけで、道路に積もった雪はとっくにタクシーに踏みならされていた。 深夜1時過ぎ、ほかのホームレスはもう寝ている。すると、僕が座っている
塩塚モエカの細かな振幅のビブラートが身体に染みる。青葉市子の声は、深くて碧くてどこまでも透明な水をイメージさせる。才能ってすばらしい。自分にできないことができる人はうらやましい。すてきな才能に触れると、心がぴちゃぴちゃ豊かになる。 芸能やアートの世界は、才能や能力がそのまま評価につながらないと嘆く人がいる。市場原理が複雑すぎると。運やタイミングが重要なのだと。でも、なんらかの評価基準があって、「お金」に変わる可能性があるだけマシな世界だと思う。 たとえば「路上で眠る能力」
知らなくていい話、だと思う。ホームレスのことなんて。芸能人のスキャンダルと同じくらい、自分たちの普段の生活には関係がない。だから関わる必要もないし、わざわざ声を聞く必要もない。そう思う。ホームレスの話よりも、テフロンが剥げかけたフライパンの買い替えどきの話のほうが、よっぽどためになる。 多くの人にとって知らなくていい話を書いたとしても、何も問題はない。情報入手が選択できるようになってきたとはいえ、自分とまったく縁のない情報が、情報の側から勝手にアクセスしてくる世の中だ。仕事
腰が爆発した。痔の疑いもある。下半身を取り替えてほしい。 『トーキョーサバイバー』の編集後記を毎日更新する、と宣言しているのに早くも二日分、滞っている。ネタがないわけじゃない。時間がないのだ。激しく、眠い。 編集も校正もまだ、終わっていない。表紙デザインもまだ途中かけだ。クラファンも達成できていないし、印刷所や取次との交渉もまだ途中。ようやく銀行口座はできたけれど、役所関係の届出もまだ。ホームページも更新しなきゃ。名刺も作らないと。ISBNの取得も早くしないとね。お金稼ぎ
ジョカンを巡礼する人たちは、誰もがまずバルコルをコルラする。2002年、初めてラサを訪れた夏は、羊飼いや千キロ以上離れた土地から五体投地してきた遊牧民たちが、まだ数多く、つるつるとした石畳の上を右繞していた。 バルコルにはバルコルの香りがある。そこの老舗トゥクパ屋ともなると、チベットバターの中にダイブしたような、まとわりつくような濃密な空気に包まれている。あの夏の日、僕は何時間も、トゥクパ屋の常連客20人くらいに、腹たぷたぷになるまでプージャを飲まされていた。気を抜くと、吐
2017年、真夏の新宿西口カリヨン橋下。僕はしばらく立ったまま、足元に座るハシモトさんとくだらない話をしていた。でも、こうやって見下ろす感じで会話を続けるのはあまり気分が良くない。隣に座っていいかと聞くと、彼は「これ尻に(敷け)」と駅構内で無料配布されているパンフレットを差し出した。 コンクリートの上は思いのほか冷たい。汗だくだったせいかもしれないが、骨を伝わってまたたく間に体温が奪われていく。 「くだらない話」というのは、身の上話のことだ。初めて話をする人からは少なから