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ショートショート:総武快速 四分間の告白

 東海道新幹線東京駅ホーム。遠距離恋愛をしている彼女を見送った。今度はいつ会えるだろう。見送りは寂しい思いをする分だけ彼女への愛が育つ。彼女との結婚も考えているが、なかなか言い出せないでいる自分が情けない。

 東京駅のだいぶと地下に潜り、総武線の快速に乗り込んだ。夕刻だったが電車はそんなに混んでいなかった。僕はドア近くの二人席に座ることが出来た。

 錦糸町駅で高校生くらいの男の子が乗って来た。電車が発車してしばらくすると、彼はドアの近くに立っていた高校生らしき私服の女の子に声を掛けた。

「あのぉ、す、す、す、み、ま、せん」
 なんだか言いにくそうな感じだった。

「はい」
 女の子ははっきりした声で言った。

「あのぉ~、綺麗、な、かた、です、ね」
 言葉の長さが特徴的なのと、言いにくそうな感じは、話すのが不自由であることがわかった。彼女は少し恥ずかしそうにして、首をかしげて彼を見た。

「す、み、ま、せん。本当に、す、み、ま、せん。ぼぉくは、あ、な、た、の、こ、と、が、好き、す、き、に、なり、ました。よ、ろ、し、け、れ、ば、ぼ、ぼ、ぼくと、お付き、あい、して、くれま、せん、か?」

 まさかの告白だった。一生懸命な言葉だった。

「ありがとう。でもごめんなさい」
 少し間を開けたが、彼女ははっきりと断った。でも笑顔だった。

「わ、か、りま、した。びっ、くり、させ、て、ご、めん、な、さい」

「いいえ」

 ドアの向こうに中川が見えて来た。快速電車は減速し、新小岩駅に到着した。
 彼女は新小岩駅で降りた。

「あ、り、が、とう、ご、ご、ござい、ま、した」
 彼は彼女にそう言って一礼した。

 彼女も振り返り、笑顔で彼に一礼した。

 ドアが閉まり快速電車が動き出した。
 彼は泣いていた。

 彼は本気だったんだな。男の子よ、泣くでない。君の気持ちは彼女に伝わっていたよ。好きになったんだから、気持ちを伝えずにいるよりは、格好いいよ。君はかっこいい!

 今度彼女と会う時は、プロポーズしようと決めた。

(完)

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風杜歌男
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