見出し画像

三月の紫陽花


遠く離れた東京の女子大に
君は入学することになった
レストランでお祝いと送別の
食事会を終えたのは昨日のこと

今日 ホームセンターに行くと
まだ三月だというのに
初々しいピンクの紫陽花が
園芸コーナーに並んでいた

公園の樹々にイルミネーションが灯るまで
君はピンクのヘルメットを被って
自転車や一輪車に乗る練習をした

  君にはお父さんがいないから
  私が練習に付き合ってあげたね

小学校の入学式はまだ先なのに
君はピンクのランドセルをしょって
大はしゃぎで家の中を歩き回り
そのまま晩ご飯を食べた

  お母さんがくれたメールの
  写真を見て私も笑ったよ

淡いピンクの光を世界に投げて
紫陽花も君を祝福している
一鉢買って帰ろう

これから一人で学生生活を送る
君の前に新しい世界が開けてゆく

  身体だけは大事にするんだよ
  自分を信じてがんばるんだよ

別れ際に伝えた言葉を
一人住まいの自宅で思い出しながら
紫陽花に水をやる

  寂しくなるな
  あんな言葉で良かったのか

やがて だんだんと
三月の紫陽花に祝福されているのは
私の方なのだと 分かってきた



      *ネット詩誌「MY DEAR」311号
      <今月の詩>の一つに選んでいただきました。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集