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Photo by
peromi_10
三月の紫陽花
遠く離れた東京の女子大に
君は入学することになった
レストランでお祝いと送別の
食事会を終えたのは昨日のこと
今日 ホームセンターに行くと
まだ三月だというのに
初々しいピンクの紫陽花が
園芸コーナーに並んでいた
公園の樹々にイルミネーションが灯るまで
君はピンクのヘルメットを被って
自転車や一輪車に乗る練習をした
君にはお父さんがいないから
私が練習に付き合ってあげたね
小学校の入学式はまだ先なのに
君はピンクのランドセルをしょって
大はしゃぎで家の中を歩き回り
そのまま晩ご飯を食べた
お母さんがくれたメールの
写真を見て私も笑ったよ
淡いピンクの光を世界に投げて
紫陽花も君を祝福している
一鉢買って帰ろう
これから一人で学生生活を送る
君の前に新しい世界が開けてゆく
身体だけは大事にするんだよ
自分を信じてがんばるんだよ
別れ際に伝えた言葉を
一人住まいの自宅で思い出しながら
紫陽花に水をやる
寂しくなるな
あんな言葉で良かったのか
やがて だんだんと
三月の紫陽花に祝福されているのは
私の方なのだと 分かってきた
*ネット詩誌「MY DEAR」311号
<今月の詩>の一つに選んでいただきました。
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