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金属の目録


金属の目録に眼を通した
あらゆる色彩がひび割れる時刻に
百万年かけて落下する思考の速度で
 
澱んだ大気の底に広がる地衣類のような
金属の結晶が犇めく都市の上空から
走査電子顕微鏡の稠密な眼差しが
ヒトや建物や樹木や獣を舐め回している
 
  無感動の水位が上昇してゆく
  この世界が確実に一人ぼっちなのは
  そのせいなのか
 
あなたはそれを彫金細工に仕立て上げ
賑やかな観光地の街頭で
晴れやかな顔をした人たちを相手に
僅かばかりの値段で売ろうというのだ
 
  誰の所有と言う訳でもない世界
  だから私は雑踏を離れて……
 
やがて 夜になれば
あの星の海を臨む造船所へ行こう
赤や緑やオレンジ色の光が点滅する
背の高いクレーンを見に行こう
 
何も書かれていない目録の
白いページから零れ落ちて来る
金属たちと戯れながら


    *タイトルはRobert Fripp&Brian Enoの「An Index Of Metals」     
    (アルバム『Evening Star』(1975) 収録)より拝借しました。


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