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狂気を隠し続けた、銀魂の話。

さて、皆さんに問題です。

戦争孤児として生まれ、
3歳程の幼い男の子が
何年も死体と血の混じった匂いのする場所で生活をし、
腐ってるのか、はたまた人肉なのか、
道を通った浪人を襲って飯を喰い、
やっと出逢えた、育ての親と友情は僅か数年にして全て奪われ、
終いには間接的に仲間と育ての親を殺し、
処刑人が自分を救う為に代わりに殺され
何も持って無かった少年が、全て自分で壊してしまった物語の主人公は誰でしょうか?

そうです。
坂田銀時です。

問二
では続いての問題です。
自分の血筋により差別と虐めを受け、
常に人身売買の危険に晒されながらも
父親のネグレクトにより病気の母の面倒を独り見続けた孤独な少女の名前は?

A.神楽ちゃん


問三
では最後の問題。
父親の借金により月に1度は取り立て屋が来て、
更に古い風習故に自分のプレッシャーと戦い続け、自分がどうしたいのかすら言えなかった子をなんというでしょうか。

A.新八


そうなんです。そうなんですよ。
銀魂は目に見えてる物語と並行して
ずっと隣にこの3人の狂気的な過去が流れている。

決して描かない、断片的にすら殆ど語らない。
あくまでギャグ的に、王道漫画のように、
少し哲学的でいい事を言っちゃう。
そんな漫画のフリをし続けながらも
万事屋3人の狂気とも言える過去を
密かに描き続けたのが銀魂という作品なのです。




話は一旦変わりますが、
最近のジャンプって主人公の苦行と現実の間にある
狂気さを感じる漫画が売れがちですよね。

例えば
呪術廻戦
ごく普通の主人公が人を助けるために指を食べてしまった事がきっかけで、死刑宣告を受け、界隈に命を狙われ、大量虐殺し、親友を殺す存在になってしまった

チェンソーマン
父親のネグレクト、借金、母の病気の遺伝、まともな教育をされてないせいで騙され、利用され、自分のせいでやっと知った温もりを全て壊されてしまう

ヒロアカ
憧れた正義のヒーロー像がどんどんプレッシャーになっていき、元々持っていた自分を勘定に入れない性格の性でぐちゃぐちゃになっていく

鬼滅の刃
貧乏な家で育ち、家族を養う為に真面目に真っ直ぐに向き合ってきた優しい少年から全てを奪って行った鬼の物語

など、最初は明るい体を装いながら徐々に読者を鬱にさせてく文法を用いた重たい漫画で、主人公の苦しみを読者に感情移入させ、主人公が幸せになれるのかハラハラしてしまうような作品が「鬱要素のある漫画」としても人気を博している


では銀魂はどうでしょう?
世間一般ではギャグ漫画と認知され、長編はちょっと泣ける人情漫画と思われがちです。
なにより主人公にちょっと重たい過去があり、それでも強く色んな人を救っていく、王道漫画として読めてしまう漫画。

ところがですよ、冒頭説明した通り、
この漫画の主人公、
本当に天涯孤独の大虐殺人者なんです。
その真っ赤な手が故に、
自分を卑下し、自分の命に無頓着で、
存在意義に気づけない。
「鬼」になってしまった彼の
人間になる為の「苦行」の物語であり、
後悔と苦しさと、不眠症と、自殺願望と
色んな孤独を抱えてるキャラとして並行的に描かれているのです。

そして、その狂気の最たる象徴が「完結篇」。
この話、簡略化すると
主人公が冒頭「鬼が故に愛する人を抱きしめることも出来ない」業として背負わされ、魘魅は世界を滅ぼした人間として、ぱちぐらに再開することもなく、
最後に抱きしめることすら許されずに、自分は「最初から生まれては行けなかった」と結論を出して自分自身を殺す、過去軸の坂田銀時と

ぱちぐらにお別れを言う事も出来ず未来に飛ばされ、自分が死んだ事を知り、それでも未来の仲間の為に戦おうと立ち上がった彼に課せられた現実が「自分が生まれてきてはいけないこと」であり、未来の自分を殺し、過去の自分を殺し、今の自分を殺し、全ての自分を抹消することを選択した今軸の坂田銀時の物語なのである。


狂気。

まさにこの漫画の軸にある暗さと現実性が現れているし
それほど坂田銀時は「人を殺してきた」のである。
例え、負い立ちが不幸だろうと、例え桂や高杉も等しい罪に近いものがあろうと、
彼は彼の罪を許される事はない。
そんな人物がこの漫画の主人公なのだ。

そして彼の本当の贖罪が「生きる事」。

どんなに苦しくても、自分のせいで死んだ人がいようとも、彼は「死刑」ではなく「生きる事」を罪として背負わされて生きなければならないし、
万事屋として鬼退治を課せられることで、ほんの少しだけ許されて行くのがこの漫画の本当の全貌だ。

当然、彼は死んだ方が楽なのである、
生きた心地もしない。
大好きなぱちぐらが微笑んでくれても「自分の命は人の犠牲の上に成り立っている」からとても楽観的には笑うことは許されない。
ぱちぐらの誰も傷つけていない真っ直ぐさの陽に当てられるほど、
坂田銀時の影も濃くなってゆく。
逃げたい、怖い、辛い、
孤独には戻れない。逃げたい、
それでもぱちぐらは許してくれない。
死んで行った仲間も許してはくれない。
自分で自分を罰する以外どうしていいのか分からない。「他にもいい方法」を考えても答えなど見つからない。

暗く、辛く、薄暗く、天涯孤独の大虐殺の彼が、
ギャグ回に並行してまるでその狂気的さ隠すように銀魂は描いてるのである。

もしかすると、普通の漫画であればさらば篇で「今でも夢に見るよ」の台詞で春雨篇の悪夢の回想を入れたり、魘されている回想だったり、
四天王篇で失う怖さから坂田銀時が逃げるシーンで、自分を護ってくれた仲間や一緒に過ごしてきた塾生を護れず死んでしまった回想も入れるだろう。
だけど、この漫画は一切入れない。
銀魂は主人公が苦しんでいる所を本当に描こうとしないし、描かない。

あくまで少年が読める普通の漫画なのだ。

でもそれでいい。
ライト的に少し哲学的に、
少年たちに生きる事、罪と向き合うこと、自分と戦う勇気を囁かに描き続けた漫画でいい。

ただそこに、それを説得出来るほどの狂気とも言える主人公達の過去が、現実的に、密かに、ひっそりと描かれて来たのが銀魂なだけなのである。

狂気の中で坂田銀時が生きて生きて、向き合って
転んで、それでもまた生きて
学んで、人と出会って会話をして
その繰り返しの中で見つけた希望がこの物語なのである。

それでいい、それで居て欲しい。
そんな作品が私は好きで、
そんな主人公が私は好きなのだ。

その隠された狂気の中にこそ
王道的な自分との対峙と、愛が含まれている漫画であり、
全てをを失った彼の、貴方が真っ直ぐに生きれることを願った物語なのである。

このブログに着地点も言いたいこともない。
ただ私も狂気的にこの漫画が好きなのだ。

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