【ボイトレ】「うたうこと」について読み解いてみた Part23【「第7章 声区」p85_25行〜p88_9行】
本ブログは以下の2冊について取り扱い、私の理解をシェアするものです。
・1冊目
フレデリック・フースラー、イヴォンヌ・ロッド・マーリング著
須永義雄、大熊文子訳
『うたうこと 発声器官の肉体的特質 歌声のひみつを解くかぎ』
・2冊目
移川澄也著
『Singing/Singen/うたうこと F・フースラーは「歌声」を’どの様に’書いているか』
お手元にこれらの本があると、よりわかりやすいのではないかと思います。
今回は第7章 声区 の「声区の分離」(p85_25〜)に入っていきます。
第7章 声区(p75_1〜p88_9)
今回の三行まとめはこちらです。
・「声区の分離」と言っても、「分離できる」と「分離してしまっている」の違いについて。
・仮声の訓練によって声帯の伸展を十分に行うこと、そして喉頭懸垂機構を十分に訓練する必要がある。
・声帯内筋の訓練を行う時は伸展を十分に行うこと。
「声区の分離」(p85_25〜p86_10)
『すぐれた歌手はだれでも、その声を声区に分けることができる。すなわち、内喉頭筋の中で、ある声区のときに主として働く筋肉を、それぞれ別々に働かせることができるのである。』
『今日「声区の分離」と言われている場合は歌手がひとたび分かれた機能をもはやひとつにまとめることができない状態を言う。』
この項目はこの2つの記述から、
・優れた歌手は意思をもって声区を分けることができる。
・今現在「声区の分離」と呼ばれているものはそれとは違い、意思をもって分けているのではなく、分かれてしまっていて一つにまとめることができない。
という2点の相反する話をしていることがわかります。
優れた歌手→声区を意識的に分けることができる。
一般的な歌手→声区が分かれてしまっており、まとめることもできない。
一口に「声区の分離」と言っても、「分離できる」と「分離してしまっている」で大きな違いがあるということです。
このような「分離してしまっている」症状は、通例「一定の音色を出していた」、「一定の喉頭の働きだけに偏っていた」結果であると述べられます。
つまり「よく使われる筋肉」と、「あまり使われない筋肉」があるということ。
「あまり使われない筋肉」が長い間使われず、神経支配の悪い状態になっていることが声の音色に現れた結果が、声区が「分離してしまっている」状態ということがわかります。
発声器官の神経支配が優れた歌手は一時的に声区を分割しているだけで、それによって病的な状態になることはなく、長い間やり続けるから病的状態に陥るのだ。とフースラーはこの見出しを締めくくります。
発声訓練教師および歌手に、最もわかりやすい声区の考え方(p86_11〜p88_9)
『次のことを忘れてはならない。声帯の中にある筋肉(声帯筋)は声楽発声にさいして、能動的な、きわめて細分化された仕事をしなければならないのだが、その筋肉は受動的な働きしかしない弾性をもった幕の中に包まれているのである。』
これは第4章解剖と生理の記述にもありましたとおり、声帯内筋はそれを覆う弾性組織があり、その弾性組織は受動的な働きしかしないのだということが改めて述べられます。
そしてその声帯内筋と弾性体、合わせて「声帯」は筋肉の網(懸垂機構)の中で枠に張られていて、その懸垂機構を構成する筋肉たちは、呼吸に関わる筋肉によってその働き方が左右される。
つまり声帯内筋には強力な足場枠(懸垂機構)が用意されていて、その枠の働き(結果として声帯を伸展させる操作になる)によって初めて「発声器官」が自分に与えられる種々の任務を意のままにやり遂げることができるのだと、そしてその枠(懸垂機構)を「弾力的な足場枠」と呼ぶとフースラーは述べます。
これらはすべてここまでに述べられてきたことの振り返り的な内容です。
このような足場枠の真価、能力が認められれば、「仮声」にどのような重大な任務が与えられているかということがはっきりとわかるとフースラーは続けますが、足場枠(懸垂機構)と「仮声」についての繋がりがこの書き方だとわかりにくいです。
それは懸垂機構の働きが結果として声帯を引き延ばす動作になるということ、そして声帯を引き伸ばす動作自体がいわゆる裏声、仮声と直に関係する動作であることから、『仮声は簡単に言えば、まさにこの「弾力的な足場枠」によって作り出される』というその先の記述も理解できます。
そして『訓練の順序は次のように進めるのが最もよい。』
つまりはボイストレーニングの順序を説明しようとしているわけですから、これは分かりやすく気になる内容です。
①まず、自分の最高音域で出せる弱々しい仮声(虚脱した仮声)を「支える」ように試みる。
・喉頭懸垂機構と呼吸筋の働きを高める。
・声門閉鎖筋(外側輪状披裂筋、披裂間筋)の働きを強めることによって虚脱した仮声に張りを持たせて「支えのある裏声」にする。
②次は声帯の内筋を、この枠(喉頭懸垂機構)の中で働かせていわゆる「純粋の胸声」を出す。
・声帯内筋の緊張は最小限度まで弱くする。
・この練習は最低音域でやる。
この声についてはアンザッツNo.3aを使うとよいと説明されますが、アンザッツについては第8章で触れられますので、その際に解説いたします。
この訓練の際の要点は
・声帯を最大限に伸展させる
・声帯内筋の緊張は最小限に保つ
このとき声帯内筋をどれくらい緊張させられるかは喉頭懸垂機構がどの程度内筋の緊張に耐えられるかにかかっており、それには個人個人で著しい差があると述べられます。
これは喉頭懸垂機構の神経支配がどの程度及んでいるかの個人差によると考えられます。
弾力的な足場、つまり喉頭懸垂機構が働く「仮声」をよく練習することは、全然危険はなく、十分に訓練することによって初めて、声が声区から他の声区へひっくり返ることなどはなくなると述べられます。
ここまでのフースラーの記述でボイストレーニング、声の訓練をどういった順序で進めていくのが基本となるのかが説明されました。
虚脱した仮声(純粋の裏声とも表現されることがあります。)、支えのある仮声、純粋の地声、そして喉頭懸垂機構を十分に訓練することの重要性。
こう言った記述から訓練の内容が見えてきました。
ここで第7章は終わり、残りはここまで第7章で説明されてきたことの図解、喉頭懸垂機構が喉頭を上下前後に引っ張り合う構造とそれによって声帯が伸展するということの図解です。
これについては本ブログで図を示すことが難しいため、「喉頭懸垂機構」で調べていただけると喉頭が引っ張り合われる状態、それによって声帯が引き延ばされる状態がわかってくるかと思います。
以上で第7章が終了となります。
次回、第8章は「アンザッツ」、フースラーメソードの訓練を行ったことがある方であれば一度は耳にしたことがあると考えられますが、ここまでの記述を土台として具体的な訓練内容が述べられる章になります。
次回の更新をお待ちください。