【ボイトレ】「うたうこと」について読み解いてみた Part8【「第4章 解剖と生理」p26 1行〜p31 9行】
本ブログは以下の2冊について取り扱い、私の理解をシェアするものです。
・1冊目
フレデリック・フースラー、イヴォンヌ・ロッド・マーリング著
須永義雄、大熊文子訳
『うたうこと 発声器官の肉体的特質 歌声のひみつを解くかぎ』
・2冊目
移川澄也著
『Singing/Singen/うたうこと F・フースラーは「歌声」を’どの様に’書いているか』
お手元にこれらの本があると、よりわかりやすいのではないかと思います。
今回は第4章 解剖と生理 p26_1〜 に入っていきます。
第4章 解剖と生理
ここから第4章に入っていきますが、ここでは図が多く登場します。
本ブログでは文字しか登場しませんが、軟骨や筋肉に関する構造、図は視覚的な情報として大いに理解の助けになりますので、お手元に本がない方も、軟骨や筋肉の名前で検索、あるいはあれば解剖図などを参照しながら読んでいただけると、理解しやすいのではないかと思います。
今回の三行まとめはこちらです。
・「声唇=緊張筋」「声帯靱帯=伸ばされるもの」「輪状甲状筋=伸展筋」
・喉頭の狭い範囲だけでも、「緊張筋と胸声区」「伸展筋とファルセット」の繋がりが見えてくる。
・歌声を「聞き分ける」ことで、「発声器官で起こっていることの情報を手に入れる」ことができることが、ここからわかる
0.説明に入る前に。(p26_1〜7)
まず最初の文です。
’’発声訓練教師は、前章で記した絶対必要な統合ということを決して忘れてはならない。’’
1点だけ、「絶対必要な統合」という表現についてですが、
原著英語版の記述を確認していくと、
''The voice trainer must never lose sight of the essential unity mentioned in the last chapter''
DeepL翻訳では「ボイストレーナーは、前章で述べた本質的な統一性を決して見失ってはならない。」
「絶対必要な」に相当する部分は「essential」、DeepL翻訳だと「本質的な」となっています。
前の章までの話でも、どちらかというと「本質的な」の方がしっくりくる表現です。
そういったニュアンスが含まれている点を意識して読んでいきましょう。
しかし、声を訓練するということは、高度に分析的な過程であるので
①聞き方を学ぶこと
②歌うのに必要な器官の、3つの主要な部分(原著によると、「spheres」領域、範囲、となっているようです)それを「ありありと心で描けるように」学ぶこと
この2つから始めなければならないというのがフースラーが本題に入る前に述べていることです。
そしてその3つとは
1.「のど」ー喉頭そのもの
2.喉頭をつるしている筋肉の網ー「喉頭懸垂機構」
(「the suspensory mechanism」ー「懸垂機構」のみで、喉頭という言葉は原著にはないようです。)
3.呼吸器官
であるということ。
それが、第1部、2部…とここから記述されていきます。
第1部 喉頭
1.骨格(軟骨の枠組)(p26〜p27)
ここでp26に図が3枚、
「図1 甲状軟骨」
「図2 一対の披裂軟骨」
「図3 輪状軟骨」
図4で示されますが、甲状軟骨の下に輪状軟骨があり、輪状軟骨の後ろ側に乗る形で披裂軟骨があります。
そしてp27に移って図が5枚、
「図4 軟骨の組み合わせを示した喉頭右半」
「図5 甲状軟骨が輪状軟骨の上でどう動くかを示す」
「図6 披裂軟骨の動き」
「図7 喉頭蓋。喉頭蓋は起こしたり倒したりすることができる。飲み込む時には喉頭の入り口を閉じる」
「図8 舌骨。喉頭は舌骨から吊り下がっている。舌骨に付着するたくさんの筋は、役に立つためと邪魔をするためとの両方の意味で、発声に重要な役割を演じる。」
ここは非常にわかりやすいです。
図4で形、組み合わさり方がわかり、図5、6でその動き方がわかり、
図7でそこに喉頭蓋というものがどうあるのか示され、
図8でさらに舌骨がどうあるのかを示してくれています。
さらに図のページにおいては、注釈の部分で説明がされています。
・甲状軟骨は二つの下角で、輪状軟骨の後部両側にまたがり乗る。
・下角の先端は関節になっていて、それによって甲状軟骨は前方後方に傾くことができる。
・1対の披裂軟骨は、輪状軟骨の後部の一段高くなった台の上に、関節面を接して緩やかに乗っている。
・披裂軟骨は後方にも前方にも滑ることができ、また3種類の方法で回転することもできる。
2.筋肉とその機能
声帯(p28_1〜12)
これについては、邦訳に「甲状ー輪状筋」と書かれていますが、この記述はないものとして読む必要があると考えています。
一般的には甲状輪状筋ではなく、輪状甲状筋です。
さらにこれは一般的に声帯と呼ばれる部位ではないと考えます。
(発声器官の一部であることには違いないのですが。)
さらには記述から推測するに述べているのは内甲状披裂筋、外甲状披裂筋を指しています。
なぜ逆の記述を用いているのかも、輪状甲状筋は後ほど登場することも、さらに謎が深まる点です。
また、原著は英語版→ドイツ語版の順に出版されたのですが、
英語版には同様の記述があるようです。
一方ドイツ語版では括弧内の記述は不要と考えられたのか、「声帯」というタイトルのみになっています。
といった点から、まずは筋肉の名前は見ないものとして、内容に入っていきましょう。
まず、先ほどの「軟骨の枠組み」の中に、「弾性のある膜に覆われた二つの筋肉の襞(ひだ)」が存在します。
ふたつで一対ですね。
声の原因…原因というと一般的に使われる日本語ではネガティブなイメージが強いと考えられるので「もと」と言い換えた方がフラットな印象となるでしょうか。
「最も直接的に声のもととなる」のはこのふたつの襞の振動運動であると述べています。
図9、10を参照するとこの周辺の図解があります。
次に
a.内部にぎっしりつまった声帯の筋肉は「声唇」
b.声唇を覆っている弾性膜、縦に走る繊維で形成された声帯の縁を「声帯靱帯」
とふたつの器官を挙げます。
a.「声唇」はそれ自身で能動的に、自身の力で活動するのに対し
b.「声帯靱帯」は受動的で、外からの力で働きかけられる。
そして発声訓練教師はこの二つを聞き分ける必要があると述べられ、耳を鍛えなければならないということがここでも回収される形になります。
そしてここから声唇、声帯靱帯のそれぞれの説明に入っていきます。
a.声唇(邦:緊張筋 英:Tensors)(p28_13〜p29_15)
まず邦訳について説明するため解説版の記述に触れます。
英:Tensors 独:Spanner
これを解説版では「英:張りつめるもの、緊張するもの」「独:張りつめるもの、引き締めるもの」と翻訳していますが、私の調べた範囲、インターネットとジーニアス英和辞典のみですが…こちらではTensorの邦訳は張筋、テンソルとしかありません。
ネイティヴの方にのみ伝わる表現方法だったとしたら私たちに伝えるのは困難です。
ここでは一旦邦訳版の記述に従っていきます。
そして再び図が多く登場するので、まずは図について、触れたのち声唇についての説明に入ります。
図9 甲状軟骨の左半を除去し、声帯の位置を示した模型図
図10 後ろから見た声帯の模型的断面図 a)声唇(図11参照) b)声帯靱帯(図12参照) c)仮声帯 d)弾性円錐
図11 声帯内に埋まり、「声唇」として知られている強力な楔形の筋肉(声帯筋)
図12 気管の上部、声唇のふちを弾性の膜が覆っている。この膜の縦の繊維は伸展性があり、声帯靱帯として知られている
図13 声帯(半模型的拡大図)
図14 声唇の筋束の交差
図15 内甲状披裂筋の筋束の断面図
ここまでがまず声唇の説明で用いられる図です。
声唇はいわゆる広い呼び方で、声帯の中身の筋複合体、筋肉の集合体です。
内甲状披裂筋、外甲状披裂筋を合わせて呼ぶ際に用いられたりします。(場合によっては声帯靱帯も合わせて呼ぶ際に用いられたりもします。)
(仮声帯に対して、真声帯=声帯=声唇と呼ばれていたり…表記揺れが激しい印象があります。が、ここではフースラーの記述に従って言葉を使うようにします。)
さておき、ここでフースラーは基本的に内甲状披裂筋(よく内筋と呼ばれます。)の筋束を指して声唇としており、それは図13からもわかります。
筋束は独立性を持って別々に緊張したり、弛緩したりできる上で
”声唇の主体を形成する二つの筋束裂筋は互いに交錯して走り、いっしょに収縮すると声帯を最大限に緊張させることができる。”p28_21〜22
内甲状披裂筋はメインの筋束を2つと捉えており、それがねじれるようにして甲状軟骨と披裂軟骨の間に張っています。(図15)
またこれらが一緒に働く時に声帯の緊張が最大となると述べられています。
注意点としては、「声帯の緊張」がどういった働きを指すのか、という点です。
これは非常にややこしく、こうだからこう!1+1は2!のように楽に考えさせてはくれません。
意識すべきは筋肉の動きは緊張(収縮)or弛緩ということ。
まず甲状軟骨と輪状軟骨の間にあるこの筋肉、内甲状披裂筋が緊張した状態を想像してみましょう。
声帯全体が伸びる方向に引っ張られるのではなく、むしろ縮める方向に引っ張られるというのが想像できたかと思います。
ですがそれだけでは終わらないのがややこしい点です。
この内甲状披裂筋は筋束が捻れているようになっていることから、単純に短くなる方向に引っ張るというだけではないことがわかります。
収縮することで太く厚くもなりますが、絞られるようにも働くということです。(図15)
内甲状披裂筋がよく働くと声帯が分厚くなる…そういった状態も、声唇、内甲状披裂筋が緊張している状態の一つです。
ですがフースラーがp29_10〜も述べている通り。
”個々の筋束だけでなく、さらにはその中の別々の筋繊維でさえ独立して働くことができるのだから、この機構においては色々変化した緊張の状態を作り出し得る可能性は実際には無限である”
…だんだん頭がこんがらがってきましたね?
おまけに筋肉の緊張、収縮と一口に言っても、周りからの力のバランス次第で筋肉は緊張しながらも、起始停止の距離が変わります。
「引っ張られて伸びたり」
「引っ張って短くなったり」
「釣り合って長さが変わらなかったり」
と、ここまで非常にややこしい話をたくさんしてきました。
が、一つ確実に言えるのは、どのような動作を行うにしろ、声唇、その主要部分である内甲状披裂筋は、緊張するものであるということ。
故に「緊張筋」(解説版では「緊張するもの」)と名付けたというのがこの項目でのフースラーの結論です。
さらっと流してしまいましたが、声唇と声帯靱帯の間については後ほど触れられるので一旦置いておきましょう。(p29_7まで)
b.声帯靱帯(邦:伸展筋 英:Stretcher)(p29_16〜30)
先ほどに続き邦訳に問題があると解説版で触れられます。
これについては、ここまでの項目を読んできたみなさんなら「ん?」と疑問を抱く方もいらっしゃるかもしれません。私も邦訳には誤りがあると感じます。
声唇は筋肉で能動的なものと説明がありました。
その一方声帯靱帯は弾性膜で受動的なものと説明がありました。
靱帯、弾性膜、これらは筋肉ではないので、「伸展筋」とすると誤りが生じてしまいます。
原著英語版では「Stretcher」となっており、stretchの原義としては「伸ばす」がメインで、モノを引っ張って伸ばす、伸びている、という基本義がある言葉のようです。
確かに「伸ばすもの」という翻訳も可能かと思いますが、少なくとも筋肉ではありませんから、これまでの「受動的なもの」という説明を踏まえると「伸ばされるもの」が最も日本語としてはしっくりくるのではないかと考えます。
(英語に詳しい方がいらっしゃったらこの辺りお伺いしたいところです。)
まず先ほどに続いて、ここで触れられる図について、追加で2枚出てきます。
図16 輪状甲状筋
図17 輪状甲状筋が収縮すると声帯が伸びる
では内容に入っていきます。
声帯靱帯は、これまで述べた声唇を覆う弾性膜の縦方向(私たちの体の向きで言うと前後方向)の繊維で形成されています。
先ほど述べた通り、声唇は筋肉ですが、声帯靱帯は筋肉ではありません。
自分自身で働いて緊張や弛緩ができるものではなく、周りから働きかけられる側ということです。
”図式的に見ると声帯は2極の間に位置する。もし1極が遠ざかると、声帯靱帯は伸ばされる。”
突然「極」という言葉が用いられます。
これは一方は甲状軟骨内側に、もう一方は披裂軟骨に繋がっている声帯全体の片側を極と呼んで、「2極の間に位置する」と述べています。
日常的な日本語ではあまり用いないかもしれませんが、一方の端っこを極(きょく)と表現しているだけなのでサラッと読みましょう。
そして、この声帯靱帯の「発声器官」としての能力が発揮される状態というのは、「伸ばされた状態においてだけである」とフースラーは述べています。(p29_21〜22)
となると、「どうやって伸ばされるの?」となりますね。
それを直後にフースラーは述べてくれています。
”この伸展過程をおこなう第1次責任者は、1対の輪状甲状筋である。それは口頭の前にあり、その外側面についている。”(図16)
この輪状甲状筋が働くと、甲状軟骨と輪状軟骨の前側が接近します。
すると先ほど述べた2極、甲状軟骨内側と、披裂軟骨の間の距離が伸びます。
これによって声帯(声帯靱帯)が引き伸ばされ、声帯自体がより長く薄くなるとフースラーは述べます。
これについては非常にシンプルで理解しやすいでしょう。
例えるならばギターなどの弦のように、(あるいはゴムの方がわかりやすいかもしれませんが)引き伸ばされればより長く細く(薄く)なっていきますし、引き伸ばされて張り詰められた状態で振動すれば音が出ます。
ギターなどの弦楽器の弦にしろ、輪ゴムや板ゴムにしろ、引き伸ばされて張り詰めていなければ、振動を与えられてもいわゆる「音」となるような空気の振動は引き起こせません。
ここから、「伸展」させることの重要性は理解しやすいかと思います。
(一般的に学び始めた方々が輪状甲状筋に深い興味を持ちやすいのはここがわかりやすいということもあると思います。)
そして、フースラーは”以後輪状甲状筋を「伸展筋」と記すことにしよう”としており、やはり「声帯靱帯=伸展筋」ではなく、「輪状甲状筋=伸展筋」であることがここで判明します。(読者が混乱に陥るのはこういった訳本故の問題の積み重ねともいえるかもしれません。)
3.発声訓練教師のための結論(p30_1〜p31_3)
さて、まだこの先、喉頭の筋肉たちの説明が登場するのですが、フースラーはここで一度「結論」を述べています。
内容を見ていきましょう。
”これまでに述べられてきた生理学の法則(ここまでで説明してきた第1部喉頭の内容)は、機能的に完全で「正常な」発声器官のあるべき姿を示すイメージのようなものであるということを忘れてはならない。しかし発声訓練教師は、このように完全な発声器官に巡り合うことは滅多にない”
と、まず最初に述べられます。
簡単にまとめると、
『先ほどまで説明した筋肉とその働きは、あくまで正常に働いた時の「あるべき姿」を説明しているだけに過ぎず、こういった「あるべき姿=完璧」な発声器官に巡り合うことは滅多にない。』
邦訳からの修正点として、わかりにくい「あるべき姿の示す理想的な概念」を「あるべき姿を示すイメージのようなもの」としています。
これは解説版で触れられており、原著ドイツ語版でVostellung=イメージ、頭の中で作ったもの、とされているので、そちらの表現を用いています。
そして、「ふつう」は正常に損なわれてしまった発声器官を取り扱わなければならないと。
フースラーが本の冒頭2、3の概念で説明している通り、フースラーにとって「ふつう」の人々は発声器官の能力が発揮できていない状態なので、すなわち「なにかしらの機能が損なわれている」発声器官を相手にするのが通常営業ということですね。
そしてその「損なわれ方」はいろいろ、すなわち個人によって違うということです。
(ここの「正常」は先ほどとは受け取り方を変えなければならないのですが、大事なのは「損なわれている」点なので、「正常に」は読まなくとも問題ありません。)
そして次の段落、6〜11行目は少々読みにくいです。
これは先ほども触れた「声帯靱帯は筋肉ではない」という問題がスルーされたまま邦訳されている故の読みにくさもあります。
1つずつ読み解くように心がけてここを読んでいきます。
①(6行目)
この筋の複合体=声帯の中の筋肉は、多かれ少なかれその「機能(能力)」で見ていくと容易に分けることができます。
例えていうなら、
・「緊張筋」=「緊張する機能」、
・「声帯靱帯」=「伸ばされる機能」、
・それを伸ばす「伸展筋」=輪状甲状筋)
とこのようにその器官が持つ機能(能力)で簡単に分類できる、ということ。
②(7〜9行目頭)
そしてさらに緊張筋=声唇の主要部分はほとんど独立的に=自由に動くことができるのは明らか。
そこから転じて、これらを分けて使う、バラバラに機能を発揮させることができる、という前提で考えると、声は「驚きの多様性を持つ」し、「同時に傷害を受けやすくなる」というのを想像することができます。
バラバラに機能させられるということは、偏った筋肉の使い方が起こり得るということ、例えば筋肉が極端に緊張した状態が続けば何かしらのエラーを起こす可能性があるという視点です。
③(9〜10行目中間)
緊張筋=声唇の主要部分が独立して緊張する、ということは声帯靱帯(邦訳で伸展筋と書かれていますが、これは声帯靱帯の話です。)が持っている「伸ばされる機能」を発揮できないままになってしまうということからも、②のようなことが起こるということは考えられます。
④(10行目後半〜11行目)
そして伸展筋=輪状甲状筋(今度は声帯靱帯ではなく輪状甲状筋です)も、緊張筋=声唇の主要部分と同じように独立して動くことができます。
なので、声唇が受動的な状態の時、すなわち緊張筋が緊張していない時でも、伸展筋だけが能動的=収縮することができるということです。
ここまで読んでみてわかりますが、なんだか文脈が逆な方が読みやすいように見えます。
訳文ならではの問題でしょうか…。
12〜20行目は、この①〜④の内容の裏付けとなる「解剖学的研究の結果」と「声帯の運動が記録された映画」の話をしています。
・胸声区=声唇が厚くなって互いに押し合う+粘膜は不定形さと軟弱さ(柔らかさ?)をもって「振動している声唇」の表面で振動する状態になる。
・ファルセット=声唇はひっこんで(分厚くなくなって?)両側から粘膜、声帯靱帯が滑り出して声帯はピンと縁が張った状態になる。
これはわかりやすい説明が出てきました。
先ほどまで述べてきた、内容と繋げて考えると、
緊張筋(声唇)が能動的に働いている時はいわゆる「胸声区のような声」、
伸展筋(輪状甲状筋)が能動的に働いている時はいわゆる「ファルセットのような声」
ということを述べているのだと繋がります。
ただし理解しやすい部分であるが故の注意点、いわゆる落とし穴です。
(0ー100、正解不正解だけでものごとを捉えると、そこはいつでも落とし穴となりえます)
「損なわれ方は人それぞれ」であるように、これらも人それぞれの違いが現れる部分になります。
例えば、伸展筋が能動的に働いている声でも、緊張筋が100%受動的な状態と言えるのか、あるいは50%くらいは能動的に働いているのか、その能動的な働きは常に一定なのか?
筋肉の働き方で声に違いがでるということはこういった段階的とも流動的とも取れる変化が起こります。そしてその損なわれ方も違うということをフースラーは先ほども述べていました。
起こっている現象自体がグラデーションであるということを忘れずに考えていきましょう。
そして21〜24行目を簡単にまとめると「緊張筋と伸展筋、この両極端の動作は、耳で聞き分けられる(先ほどの胸声区とファルセット、のように声に違いが現れる。)から、歌手はこれらを区別することができる。」
といった内容になります。
そしてp30_25〜p31_3はこの結論の重要な部分と言えます。
声帯(発声器官自体は非常に体の中の広範囲ですが、声帯はそのなかでも小さい部分)からは、発声訓練教師が「聞き分ける」ことでフースラーの述べる「生理的に正しいか正しくないか」を「聞き分けることができる」ということが、これまでの説明でわかりました。
簡単に言えば先ほどの胸声区とファルセットのように、声帯周辺の筋肉の使い方ひとつで「声」に違いが出るから、「聞き分けられるよね」ということですね。
続けて述べている部分は少し理解しにくいかもしれません、突然の「ひとつの衝動」などが出てきます。
ワンクッションおいて、まずは以下の文に変換します。
”歌唱においては「ひとつの衝動」が、緊張筋と伸展筋の両者を完全な調和のもとに活動させるときだけ、各部分が生理的に正しく働き、「発声器官」という一体になることができる”
さらに噛み砕いて表現するために、過去に述べた「歌うことは本能的なこと」を思い出しましょう。
「歌う時に使う「本能的な衝動」が「緊張筋と伸展筋」を調和させ、活動させることができる。そのときだけ「発声器官」が一体となって生理学的に正しい状態になる。」
そしてp31_2、こうなって初めて「歌声の材料が作られる」のです、とフースラーは述べます。
括弧付きで補足されているのは、「発声器官」自体はもっとたくさんの器官が参加してきて声に様々な変化を与えます。
まだここまで触れてきた喉頭の「緊張筋=声唇」、「声帯靱帯」、「伸展筋=輪状甲状筋」で全てが決まるのではなく、まだこれは「歌声の材料」の段階。
歌声の材料=「歌声の原始的(素朴)な姿」
というのがここで述べている内容です。
この「発声訓練教師のための結論」の締めくくりは、先ほども述べたことの繰り返しです。
繰り返し繰り返し述べるということはそれだけ理解してほしいとも取れるのであえて話し言葉で表現してみましょう。
「色々言ってきたけど、「聞き分ける」って学べる気がしてきませんか?」
「それはなぜか…例えば胸声区とファルセットで、発声器官の使い方も声も違いましたよね?」
「どちらも聞き誤ることのない異なる音質を持っています。」
「だからこそ「聞き分けることができる」ということです。」
「結論、私たち「発声訓練教師の耳」は、「歌声を聞くことで」、何が不健全
なのか(歌声を妨げているのか)の情報を手に入れることができるということです。」
ふんわりと表現するとこう言ったことを述べているのだと私は考えています。
さて、ここまでの段階での「結論」がこれで終了です。
以降は「その他の喉頭の機能」、喉頭内筋のそのほかのものの説明が登場します。
図があれば本ブログだけでももう少し理解しやすいかと思いますが、図が用意できず、申し訳ありません。
第4章 解剖と生理 では、今後も図が出てきますので文字だけでは理解しにくいかもしれませんが、お付き合いいただけますと幸いです。
以上、よろしくお願いします。
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