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『その女』(1932) フアン・ボッシュ

今回は読書感想というよりは、ちょっとメモとか備忘録みたいな感じになっちゃいますが…。

ドミニカ共和国の作家、フアン・ボッシュの短篇『その女』を読みました。(「ドミニカ国」ではなく「ドミニカ共和国」の作家。)

マルクス主義に傾倒しながら、同国で一時期大統領も務め、キューバのフィデル・カストロとも親交があったというボッシュが、23歳の時に書いた作品です。
初出版はキューバの雑誌でなのだとか。

作品は野々山真輝帆[編]、彩流社の『ラテンアメリカ傑作短篇集 中南米スペイン語圏文学史を辿る』(2014)の冒頭に収められています。

全体で四頁ほどの、短篇の中でも特に短いたぐいのおはなしですが、貧困やDV、社会の不条理などをテーマにしているので、少し重たい印象を持たれる方もいるかも知れません。。



“街道は死んでいる。誰も生き返らせることはできない。何をしても無駄だ。果てしなく長い道。その灰色の肌に生命の兆しは見えない。”


こんな感じの書き出し。
激しい太陽光線が照りつけ、乾ききってしまった土地が舞台です。

登場人物は4人。
通りすがりの男〈キコ〉
乱暴者の亭主〈チェぺ〉
チェぺの妻である〈女〉
そしてチェぺと女の〈子ども〉

**

夫からの理不尽な暴力に苦しむ〈女〉を助けようとしたはずの〈キコ〉が、結局はその〈女〉に殺されるという救いのなさ。

痩せこけた土地で孤立化してしまった農業コミュニティを主軸に、「いったい何が正義なのか」も分からなくなってしまうような、限界状況を描いています。

***


巻末の解説によると『その女』は、“世界中で出版されたラテンアメリカ短編集にはほぼ必ずと言ってよいほど収録されている”そうなのですが、本邦では、このボッシュという作家自体、初めての訳出だったそうです。

現在も貧富の格差が拡がり続けているというドミニカ共和国で、90年前に書かれたというこの作品。
日本でも、もっともっと読まれたら良いなあと思いました。

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