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#すっぱいチェリー🍒 第1話 「宇利盛男のすっぱい誕生」
「2人目だから気が楽だけど、
毎日仕事が忙しいからね〜」
アパレル関係の自営業を営む
宇利広男(盛男の父)と妻の雅子。
雅子のお腹には2人目の子を授かっていた。
忙しい中、
思ってもいなかった妊娠発覚だった。
それほど仕事に追われていた。
1人目は、
盛男とは5歳離れた
しっかり者の男の子。
夫婦の名を一つずつ取って
広雅と名付けられた。
広雅はずっと弟か妹がほしいと
母である雅子に懇願していた。
そんな中の授かりだったので、
家族の中では一応、
前向きに捉えられていた。
昭和の中期の頃は、
生まれてくるまで、
お腹の子が男の子か女の子かは
まだわからない時代だった。
それでも、
母である雅子はお腹を摩りながら、
「この子は女の子よ、
絶対そうなんやから」
と、
ずっと周りに話していた。
9月19日。
あと1日で父である広男と同じ
誕生日になるところだったが、
お腹の子はどうやら待てなかったようだ。
出産は3時間程度で済んだ。
盛男の誕生である。
しかし、
雅子は、
出産直後、
みよし産婦人科の廊下にまで響き渡るような
大きな悲鳴を上げた。
「ぎゃー、
こ、この子のお股に
なんか小さいものがっ、
も、盛られている…」
雅子は1人大泣きした。
雅子は、
どうしても
女の子が欲しかった。
「なんで、
なんで女の子やないん…」
揃えていた
女の子用の子供服などが
台無しになった。
生まれた盛男が5歳になった頃、
兄の広雅との兄弟げんかの際に、
「お前が生まれた時、
母さんが女の子じゃないから
泣いて悲しんでいた」
「お股に小さいのが付いてたから、
慌てて盛男という名前にした」
などと聞かされた。
盛男はショックだった。
正確にいうと、
言われた内容より、
兄からゲンコツを喰らった方が
ショックだった。
「自分は望まれない子で、
腹いせに盛男という名前を
つけられたんや…」
とは思ったものの、
ズキズキする頭の痛みが
深く捉えてしまうの忘れさせてくれた。
盛男のすっぱい人生は、
生まれた時から、
すでに始まっていたのだ。
盛男は傷ついたものの、
それについては深く考えることも続かず、
いつものように
保育園の先生から
いかに注目を浴びるかを真剣に考えながら、
毎日を過ごしていたのだった。
※この作品は、昨年に開催した共同創作企画
『すっぱいチェリーたち』から飛び出した
宇利盛男というキャラクターの単独の
すっぱい物語である
(なので複数形がとれたチェリーとなっている)
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