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写実主義文学の入口②「オリヴァー・ツイスト」~チャールズ・ディケンズ


19世紀の西洋は、社会システムの激変~近代化とともに文学も大きく発展・成熟した時代でした。

まず、流れをざっくりまとめます(アメリカ文学は異なる流れにあるので別途まとめます)。
 
・形式を重視した古典主義(後年のゲーテ他)に対抗するかたちで、19世紀前半から主観的で情熱的なロマン主義が生まれた(ユーゴー、グリム兄弟、ハイネ、キーツ)。
 
・このロマン主義への反動として、客観性を重んじる写実主義が台頭した(スタンダール、バルザック、フローベール、ドストエフスキー、トルストイ)

⇒写実主義は、より赤裸々な描写と社会性を重視した「自然主義」に発展した(モーパッサン、ゾラ)。


そしてイギリスではディケンズが、エリオットとともに写実主義の分野で、物語性を兼備した多くの傑作を世に出しました。

19世紀前半、イギリスの社会は産業革命によって激変しました。
 
工業化によって都市の人口は膨れ上がり、大量の貧困者が溢れかえりました。
労働者階級は使い捨ての部品のごとく低賃金での激務を強いられ、貧しいこどもたちはさらに「小さくて便利な物」として二束三文で雇われ、酷使されていました。
 
ディケンズも、幼い頃にこのような過酷な境遇を体験しました。
彼の代表作「オリヴァー・ツイスト」(1838)では、彼が生き抜いてきた貧民街の惨状が克明に描かれています。

(あらすじ) 
イギリスのある地方都市。行き場を失くした若い妊婦が救済施設に運ばれてきます。
彼女は男の子を出産して間もなく死亡します。このとき生まれたのが、物語の主人公オリヴァーでした。

彼は施設で他のこどもたちと同じように非人間的な扱いを受けます。

ある日オリヴァーは、おかゆのおかわりを要求するといったささいな出来事から、役人に危険視されて町の葬儀屋に売られます。
 
ここでも周囲からいじめ抜かれ、耐えかねたオリヴァーは夜逃げしてロンドンにたどり着きます。

街を放浪するうちに、彼は窃盗団に無理矢理取り込まれてしまいます。
そして大都市の貧民街は、オリヴァーをさらに悲惨な状況へ突き落としていきます。

イギリス文学は、シェークスピアからスウィフト、さらにはSFや探偵小説の創始発展に見られるように、大衆受けが重要視される伝統があります。
19世紀イギリスはジャーナリズムの発展もあり、ディケンズも社会性とともに娯楽性を備えた作品を多く残しました。
 
ディケンズには他に「デヴィッド・カパーフィールド」や「二都物語」などのリアルな作品がありますが、「クリスマス・キャロル」(ディズニーによって映画化)などのファンタズィックな物語もあります。
 
この後の西洋文学は、写実・自然主義への反動として象徴派(ボードレール、マラルメ)、耽美派(ワイルド)などが生まれ、19世紀末~現代に向けてさらに多様化して行くことになります。

チャールズ・ディケンズ(1812- 1870~イギリス・小説家)
「オリヴァー・ツイスト」「二都物語」などで知られる、ヴィクトリア朝を代表する小説家の一人。主に下層階級を主人公とした弱者の視点から、社会を諷刺した作品を数多く発表した。

頭の知恵もあれば
心の知恵もある

There is a wisdom of the head,
and a wisdom of the heart.


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