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イギリス・エンタメ文学の系譜①「ピグマリオン」~バーナード・ショー


19世紀半ばまでにイギリスは機械化と資本主義が発展し、世界最強の国となりました。

しかし国内的には貧富の格差が極めて深刻な状況にありました。
10歳以下のこどもを炭坑内で働かせることを禁じる法律が、1842年にようやく作られるというありさまでした。
 
イギリスの作家たちは社会改善のための作品を書く傾向が強まり、そのような写実的な小説が数多く世に出ました。
中でもディケンズやエリオットらの傑作は、今も世界中で愛読され続けています。
社会性だけでなく、物語自体が「面白い」から、これらは時代が変わっても読み継がれているのです。
 
イギリス文学は、このように「社会性」や「芸術性」、「娯楽性」を兼備した作品が、伝統的に多く生み出されてきました。

その系譜は、古くはシェークスピアやスウィフトに遡り、後のハクスリーやオーウェルらによるSFに、さらにはモームやグリーン、バージェスらの現代文学にも継承されています。
 
辛辣な社会風刺で知られるショーもまた、そこに名を連ねる劇作家と言えます。
 
ショーはオスカー・ワイルドとほぼ同じ時期(1856年)に同じアイルランドで生まれました。
しかし、社会主義者であったショーは、絶望的な「世紀末」を象徴する耽美派ワイルドとは対極にありました。
 
長命であったショーは1950年に他界するまで、社会派の作家として作品を残し、さらに映画の脚本まで手がけました。
 
彼を一躍人気作家に押し上げたのは、代表作「ピグマリオン」(1912)でした。
これは後にオードリー・ヘップバーン主演の「マイ・フェア・レディ」に名を変えてミュージカル映画化され、今でもエンターテインメントとして広く愛されています。

しかし、同作品は1912年の発表以降、「商業主義」という現代的な壁との戦いを経てきたのでした。

(ややネタバレ)

ヒロインは、ロンドンの貧民街に暮らす花売り娘イライザです。

彼女には、その地域特有の強烈な訛りがあります。
それを上流階級に通用する話し方に変えることができるか、言語学者のヒギンズは友人と賭けをします。

苛酷なレッスンを耐え抜いた彼女は、半年後には舞踏会の華となります。
しかし、階級が低いイライザへの蔑んだ態度を改めないヒギンズに対して、イライザは激しい怒りをぶつけます。
 
社会派のショーだけに、この芝居には、当時のイギリスにおける厳しい階級社会に対する強烈な諷刺が込められていました。
また、女性の自立に関するテーマも扱っていました。

一方で、訓練によって女性が変化していく経緯が面白く、大衆受けする娯楽性にも優れていました。
 
しかし、この作品の「エンディング」について、ショーと興業側は激しく対立することになります。

「ピグマリオン」は1938年にイギリスで最初の映画化がされました。
この映画の脚本にはショーも参加していたのですが、原作のラストが制作側によって大きく曲げられてしまいました。

戯曲という文学作品とは違い、もっと広く大衆を対象とした映画においては、「分かりやすさ」が求められたのでした。
 
また、ショーが他界した後にミュージカル映画化された「マイ・フェア・レディ」(1956)も、エンディングは原作とは大きく異なったものとなってしまっています。
 

バーナード・ショー(1856- 1950~アイルランド・文学者、政治家)
ヴィクトリア朝時代から近代にかけて活躍、53本もの戯曲を残し、「他に類を見ない風刺に満ち、理想性と人間性を描いた作品を送り出した」として1925年にノーベル文学賞を受賞した。
代表作「ピグマリオン」は、オードリー・ヘップバーン主演の映画「マイ・フェア・レディ」の原作として知られている。

好きなものを手に入れることが肝心だ。
さもないと
手に入ったものを無理に
好きにさせられるはめになる。

Take care
to get what you like
or you will be forced
to like what you get.


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