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古い写真


父の生前、叔父夫婦の前で親子喧嘩になった。

亡くなった母が容姿のコンプレックスのせいで写真を全部処分してしまい、父母の写真がないという。

「あるよ!古い写真はお菓子の缶に入れてたよ。押入れ見てよ!」

「ない」「あるよ!」「ないっ!」

不毛な言い合いを叔父が止めた。

叔父と別れてから実家の押入れを探したが写真は見つからなかった。



父は元気にしていたが癌だった。母が捨ててしまい写真がないからと言って自分の20代の写真を無言でただ私に渡してきた。

趣味で写真のサークルに入っているんだから、誰かに撮って貰えばいいと思ったがことが遺影なので黙っていた。

写真のあるないで喧嘩してから三年間父は元気で、1週間だけ入院して亡くなった。

遺影は結局、私が父と出かけるたびに撮ったスマホの写真から選んだ。

写真下手な娘の写真では嫌かもしれないが、葬儀屋にも弔問客にも良い写真だと褒められた。老いて元気な写真を遺影にする人は少ないという。

そういえば母の遺影は50代のものだった。

元気な闘病者の父とは生前よく一緒に出かけていた。

母が急死した為、ひとりになった父の話を聞きながら、カメラを持って花を観に行ったり、紅葉を観に行ったりしていた。

父は写真がない件で母をコンプレックスの塊と言っていて、反論は出来ないが気持ちがザラっとした。

葬儀の一ヶ月後、私は家を整理する為、押入れの中を全部出した。

衣装ケースの一つを開けるとまた箱があり、それを開けると見覚えのある缶が出て来た。A4サイズの深い缶には父母や家族の写真と父の作品の写真が数えきれないほど入っていた。

「あるよ、あったよ、お父さん!」

私が生まれたので父は勤め人になったが、母は若い頃、父と写真店をしていた。

だから写真が焼けて劣化しないように古い写真を大切に暗い場所に仕舞っていたのだ。

母の真摯な愛は伝わらずに仕舞われていた。父は自分が大切にされていたことに最後まで気づかなかったのだ。

《了》

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