占波夜宵

普段占い師タナミユキとして、対面鑑定やオンライン鑑定、占いコラム執筆をしています。 …

占波夜宵

普段占い師タナミユキとして、対面鑑定やオンライン鑑定、占いコラム執筆をしています。 小説は好きで一年半前からコツコツ書いています。もともと書くのが好きでブログを書いていました。 小さな日常を綴った短編を掲載します。元気のない時でも読める軽くやさしい作品を書いていけたら。

最近の記事

空に眠るひと

美しく青い空の真ん中にポッカリと直径1mくらいの穴が空いており、中はまったく見通せない暗い暗い闇が落ちていた。穴の中はひたすらに真っ暗である。 私は下に立って「あれはなんだろう」と眺める。 ただの黒にしか見えない切り取ったような穴は、同じ空のはずなのに星も月もなく深い闇だけがあった。 眺めていると頭がおかしくなりそうな気がしてくる。実際に空に空いた穴など『これは夢であろう」と思う。かといって、どうにもならないので、どうせ夢ならなんとかあの位置の近くまで行って覗けないか近

    • 古い写真

      父の生前、叔父夫婦の前で親子喧嘩になった。 亡くなった母が容姿のコンプレックスのせいで写真を全部処分してしまい、父母の写真がないという。 「あるよ!古い写真はお菓子の缶に入れてたよ。押入れ見てよ!」 「ない」「あるよ!」「ないっ!」 不毛な言い合いを叔父が止めた。 叔父と別れてから実家の押入れを探したが写真は見つからなかった。 父は元気にしていたが癌だった。母が捨ててしまい写真がないからと言って自分の20代の写真を無言でただ私に渡してきた。 趣味で写真のサークル

      • また、来週会いましょう うちのママシリーズ4

         パパはその後、いつ出て行くか特に何も言わずにママとボクの家に居る。そろそろ3週間になる。  パパは来た時に比べると肌もツヤツヤして少し太った感じもする。元気で楽しそうにボクらと暮らしている。 〝ふつう〟が何だかボクにはわからない。とはいえ普通の家族とはちょっと違いルームシェアみたいな感じだ。  パパは基本一階にしかいない。朝ご飯はママの朝が弱いので、外に働きに行っているパパが来てから、パパと食べる。ご飯の準備は夜中にママがしておいてくれて、パパとふたりでよそって食べる

        • 孤独に効く甘い毒

          彼女と出会ってすぐに離れられた人間は幸運だ。 あんなに中毒性のある女を探そうとしてもそう見つからない。 彼女は恋愛という毒より、もっと強力な情を老若男女の区別なく与える。 顔が特別きれいな女ではない。でも奇妙なオーラがあり、一度見たら忘れられない。名前は沙都子という。 僕が出会った彼女が二十歳の頃から、もう彼女のまわりには人があふれていた。華のある人で、ライヴや個展でたくさん人がいても目立っていた。 ライヴはスタッフ扱いで楽屋にまで入っていて、だからといって何を手伝うで

        空に眠るひと

          ぐうの音も出ない

          「うーどうしよう…行きたくない。ガチに行きたくない」 もう数えきれないほど聞いた。 彼女は毎週一、二回の葛藤の感情をダダ漏れにして話しかけてくる。 半年前に彼女は何もないところで転んで、足首とあばら骨を折ってしまった。ただでさえ体力がなかったのに、骨折中動かず安静にしていたため、余計に筋力が落ちてしまったのだ。 快復後「運動しなければならない」という強迫観念に取り憑かれて、ホットヨガのスタジオに入会してきた。 もう2カ月になるが、毎回行く日は朝起きてから繰り替えし嫌

          ぐうの音も出ない

          怒りの鎮め方

          「怒りを収める」思考法の本を大きな二件の本屋で大量購入した。全て一気に読んだ。 一向に気持ちは治らない。20冊以上、読んでも怒りはマグマの様にフツフツと湧きあがってくる。 事実を知って一月経ったが、あのクソ野郎を始末することにした。 何で本なんてチンタラ読んでたんだろう。持って生まれた喧嘩魂がムクムクと起きあがる。 「iPhoneを探す」で検索して、クソ野郎の現在地を確認する。 全身黒のヨガの服に着替えて、黒いジャージの上着を羽織る。長い髪を丸めてゴムで止め、黒いキ

          怒りの鎮め方

          魔がさす

          血のついた包丁を流し台に置き、全裸で立っていた。 今は12月26日の深夜2時。昨日はクリスマスで美月は彼を待ち料理を作っていた。スペアリブを切り分けていたら包丁が欠け、昨夜20時にスーパーへ包丁を買いに行った。 偶然彼を見た。彼は若い女と楽しそうにプレゼントらしきたくさんの紙袋を持って、フレンチレストランに入った。 そこから少し離れて街灯のない暗い樹の影に隠れる。ガラス張りのレストランの中の彼らを眺めた。手を握り合っている。彼は美月が見たこともない顔で笑っていた。 3

          四度目の離婚

          沙梨にとって離婚はこれで四度目だ。「三度目の正直」という言葉があるが、結婚生活は三度目も四度目もうまく行かなかった。 沙梨はまだ35歳である。初めての結婚は学生結婚で「出来ちゃった結婚」現代風にいうと「授かり婚」だ。産んだのは20歳の時だった。 次の結婚は22歳ですぐまた23歳で出産した。次は27歳で結婚して29歳でまた出産した。今は二年前に33歳で出産して、また離婚した。 毎回離婚の理由は違っていて女がいたり、お金を入れない、マザコンなどだった。 今回の離婚はあんま

          四度目の離婚

          三度目の満月

          一九九九年七の月ハルさんの大切な世界は壊れてしまった。 世界的には外れてしまったノストラダムスの大予言だったが、ハルさんには的中したそうなのである。空から恐怖の大魔王が見えないエネルギーを送って来て「突然、世界を変えられてしまった」と言っていた。 ハルさんの夫は、たった一歳半の子供のいる妻を「好きな人が出来た」という一言で捨ててしまったそうだ。 月々お金を二十万入れてくれる約束をしてくれたが、購入したマンションのローンや借りてる駐車場はそのままで、マンションの名義変更や

          三度目の満月

          ミルククラウン

          冷蔵庫から牛乳を取り出した。寝る前にホットミルクを飲むのはカロリーの摂りすぎだ。 良くないと思いつつお茶や白湯では気持ちが落ち着かず取り出した牛乳をカップにつぎ電子レンジに入れる。 電子レンジのミルクマークを押して1分弱待つ。温まったミルクをかき混ぜてからふうふうと息を吹きかけてカップに口をつけた。 モヤモヤした気持ちを抱えて悲しいのか腹が立つのかもわからない。時々気持ちが「ワーーーッ」となって誰かれかまわず、怒鳴ったり暴力さえ振るいたくなる。 世の中の理不尽が人間の

          ミルククラウン

          夜行バスの光

          一年前、会社初の女子役員になった。子どもは浪人をすることになり、夫は「何もこんな時に!」というタイミングで起業を始めた。追い討ちのように、半年前、父が体調を崩し、入院をした。 一昨日の夕方仕事から帰った時、買い物帰りの隣の奥さんと家の前で会い世間話をした。 「色々重なる時ってこれでもかってくらい重なるのよね〜」 彼女は私とは全然関係ない話をしていたが、そのセリフが沁みた。 今の私はキャパオーバーで擦り切れそうだ。 実家は千葉の房総にあった。自宅の所沢から行ったり来た

          夜行バスの光

          珈琲

          「ピーピーピー」笛吹きケトルが沸騰した合図を鳴らしてくれる。私は笛吹きケトルが大好きだ。発明した人に投げキッスしたい。 今まで琺瑯のオシャレなヤカンやコーヒー用のヤカンを散々空焚きして、相当数ダメにしてしまった。 私はお酒も煙草も嗜まないがコーヒーは中毒に近く、ヤカンなしでは暮らせない。コーヒーメーカーで淹れていると一日中飲んでしまうので、手差しで入れることにしている。 コーヒーは豆で買い、毎回飲む分だけ挽く。コーヒーの袋を開けた途端にいい香りがする。豆の挽き方は自分で

          涙のサマーキャンプ

          涼介とママシリーズの涼介が幼稚園から小1。ママが役員をやっている本編のサイドストーリーです。 めぐちゃんは元ヤンキーだ。 性格がサバサバしていて私には、いい友だちだ。 でも、スジの通らないことには、カッとして暴言を吐く。純粋で真っ直ぐ。人を大事にしたらどこまでも大事にする。 反面、敵と見たら徹底的に追い詰める。勝つまで人を叩きのめす。スジの通った喧嘩魂の持ち主だ。 ちなみに〝スジ〟とは彼女の理だ。 そんな彼女との出会いは幼稚園のお迎えバスだった。めぐちゃんの子どもは

          涙のサマーキャンプ

          ちょっと居候のパパ うちのママシリーズ3

          ママと7年前に離婚したパパが三か月前に我が家に夕飯に来た。 その時のママとのビミョーなやりとりといい、パパの形だけでモノをいう感じといいボクはかなり気を揉んだ。もう二度と親子3人で晩餐することもないと思ったし、実際この3ヶ月はパパからは月1回のボクとの面会日は連絡が来なかった。 パパが帰った夜、ボクは胸に石を詰められたようになり、よく眠れなかった。一見まともそうなパパの真意のない発言と比べると感情を垂れ流しているママの方が数倍居心地がいい。ママのことを思って後悔して眠れな

          ちょっと居候のパパ うちのママシリーズ3

          波乱万丈運のママ うちのママシリーズ2

          ママは占い好きで、よく自分のことを「波乱万丈の生まれつき」と言っている。 字画の総画が織田信長の外画と同じ二十六画というのを得意気に話す。いろんな占いを本やネットで読んでいるようだが何を見ても波乱万丈運らしい。 たしかにママはフリーのライターで生活は不安定だし、離婚もしている。さらにめんどくさい人に好かれやすくて面倒ごとが多いらしい。 「涼介、どうしよう〜。ママ暇だよ。一日三時間頑張れば、仕事が終わっちゃうんだよ」 「仕事が少なくて貧乏になっちゃうの?」 「いやそれ

          波乱万丈運のママ うちのママシリーズ2

          今日のところはこの辺で うちのママシリーズ1

          「ひえ〜もう限界。腕がもげるぅぅ」 言葉は悲鳴を上げていたが、ママは元気に玄関を開けた。 ドアが開く前からボクはママが帰ってくるのがわかっていた。猫のチビタがママが帰ってくるのに気づいて玄関に出ていくから、すぐにわかる。 ママは歩く音がタタッタタッタとヘンテコなリズムで、茶トラのチビタはママが帰る八分前にはもう玄関まで出ていく。 ボクはチビタに。ついていき一緒に玄関に座って待つ。 「大変だねえ!手伝う?」ボクが声をかけると、 「ありがと、無理無理。降ろしたらママはもうカ

          今日のところはこの辺で うちのママシリーズ1