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色彩と五感

 かれこれ1ヵ月ほど前の話だ。コーヒー業界大手のスターバックスが今年のハロウィン向けに発売した紫芋素材の新作は、巷で大きな話題を呼んだ。その紫色のフォルムが放つ薄気味悪さは、比類のない魅力とも言えよう。

1.古代からの意味宿る色

 紫は古代から高貴な色として重宝されてきた。その歴史は振り返ること約1,400年前・聖徳太子が定めた「冠位十二階」。紫色の冠を許されたのは、最高位の者に限られた。平安期には貴族を中心に愛された。

 上品さを纏った紫色は時を越え、鎌倉期以降は武家の間でも使用されるようになる。江戸時代には歌舞伎の人気役者・市川團十郎が演じた「助六」が頭に巻く鉢巻の色「江戸紫」が、江戸庶民の流行色となった。

 現在でもスポーツや芸術文化の分野において、優れた業績を挙げた人物には紫綬褒章が贈られる。北京の観光名所として、紫禁城は今なお名高い。

2.“赤いかもめ”に魅せられて

 今年9月下旬に開業した西九州新幹線もまた、人気を博している。武雄温泉・長崎間を結ぶ約66km。その距離自体は短くも、西九州に大いなる光をもたらした。「博多駅〜長崎駅 最速1時間20分」JR九州のホームページにはそう謳われている。新橋・横浜間における国内初の鉄道開業から150年を経て、東は八戸、西は長崎まで新幹線が届いたことになる。

 また同社の発表によると、今月1日から28日までの近距離の旅客収入は、2018年度に比べて94.9%まで回復したという。どこもかしこもインバウンドを狙っては“悪い円安”との戦いに腐心する中、全国旅行割による利用促進や西九州新幹線の開業が功を奏した。

 現地で活躍する車体N700S「かもめ」の赤いフォルムは必見だ。白ボディーに青帯が印象的な東海道・山陽新幹線の車両からガラリと変わり、JR九州のコーポレートカラーである赤を配色。「かもめ」の名を表すシンボルマークやロゴも見逃せない。JR九州の列車デザインでおなじみの水戸岡鋭治氏が、今回もこの車体のデザインを手掛けた。従来の新幹線のイメージとは大きく異なるものの、西九州の交通の核としてすっかり馴染んでいるように見える。

3.色彩と五感

 色彩はそれ以上の何かを表現しているーゴッホが遺した名言の一つだ。嗜好品や交通の現場といった日常の隅々にある色は、時に自信がもつそれ以上の意味が宿る。

 千年生きる者はいないが万年生きる色はある。それは聖徳太子の定めた紫の位であり、スターバックスでハロウィンを楽しむ若者たちであり、赤いかもめに心揺さぶられる人々の姿である。色と五感の二人三脚によって、私たちの日常は彩られている。


                   1,055字
              2022年11月30日

〈出典〉
▽紫色について(小川屋)
https://kimono-ogawaya.co.jp/blog/furisode-info/7689/
▽紫綬褒章について(内閣府ホームページ)
https://www8.cao.go.jp/shokun/shurui-juyotaisho-hosho.html
▽紫禁城について(CHINA HIGHLIGHTS®)
https://www.arachina.com/beijing/attraction/forbiddencity.htm#m3
▽JR九州について(ヨテミラ!)
https://yotemira.tnc.co.jp/news/articles/NID2022113016040
▽日本の新幹線について(Yahoo!ニュース)https://news.yahoo.co.jp/articles/73b0fbc80ee171ccf4b094cb01aa33e9b91a8ec1
▽鉄道開業150年特設ページ(鉄道博物館)https://www.railway-museum.jp/150th/
▽西九州新幹線について(鉄道新聞® )
https://tetsudo-shimbun.com/article/topic/entry-3201.html

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