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後継ぎと人 西本紫乃-006 2024/10/17

西本紫乃さん(チア世界一、老舗料亭の後継ぎ、新卒)の、大学生時代について聞く、の4年生部分です。
なんか、ふつうの大学生活の2倍くらい、8年分くらいの濃さある。
まえがき:qbc(無名人インタビュー主催・作家)

参加いただいているのは西本紫乃さんです。

instagram:https://www.instagram.com/shino.n.too/

西本紫乃さんの過去インタビューはこちらから!


近況報告「変わりゆく組織の中で:新米女将としての挑戦と気づき」

qbc:
この1ヶ月弱の状況を軽く教えてください。

西本紫乃:
完全に主観ですけど、組織の様子が変わった感じはしてます。
4月に事業承継をしてから女将として働いてきたのですが、10月に入ってから特に変化が見えてきたなと思いますね。

qbc:
うん。

西本紫乃:
具体的にどういうことかがあったかを言うのは難しいんですけど。

qbc:
半年経ったのか。

西本紫乃:
そうですね。

qbc:
人・もの・金・情報っていうのがビジネスの仕分けとして分解できる要素なんですけど、まず「人」でいうとどんな変化がありますか?

西本紫乃:
人は、増えたとか減ったとかっていう変化よりも、組織内の会話の内容やコミュニケーションの質が大きく変わった気はしてますね。

qbc:
うん。

西本紫乃:
これまでは、“料理人は喋らない方が美しい”みたいな固定観念があって。あの人がこう動いたらこう動く、みたいな暗黙の了解があったんですよ。
言葉を交わさずとも動けるというのは悪いことではないんですけど、新しいメンバーが加わったり、イレギュラーが起きたりする場面もあるので、自分の意見を話していかないとチームとしてまとまらないと思っていて。

qbc:
うんうん。

西本紫乃:
そういう会話はこれまであまりできていなかったので、ずっと一緒にやってきたメンバーはまだちょっとぎこちないですけど、だんだん会話をするようになってきました。
今必要な会話を、冷静に行えるようになってきた。
人の面での大きな変化はそんな感じですね。

qbc:
うん。

西本紫乃:
今まで上辺で会話してた分、意見をぶつけるのは少なからず負担がかかるけど、ちゃんと思ってることを言うようになってきました。
実はこう思ってた、っていう意見を伝えるのって、言う側も言われる側も精神的にくるところはあるんですけど、思っていることを抱えたままにする方がリスクだと思うんですよね。
一回で終わる関係性なら全然いいけど、これからずっと関わっていく存在なら会話はした方がいいと思っていたので、自分も関係性をほぐすようなコミュニケーションを意識してました。
それが周りにも伝わってきた感覚はあります。

qbc:
「もの」でいうと?

西本紫乃:
これも増えたとか減ったとかの話ではないんですが、適切な場所に適切なものが置かれている状況になったと思います。
私が6代目なので、4代目のおじいちゃん・おばあちゃん、5代目のお父さん・お母さんがいて、それぞれの理想のお店のレイアウトや、慣れた動き方みたいなのがあったんですよね。
なので、基本的にそれに合わせた物の量や配置だったんですけど、時が立ちすぎてどういう意図なのかがわからない状態になっていて。

qbc:
うん。

西本紫乃:
4代目が意図的に置いたものでも、その意図が5代目には伝わっておらず、ずっと昔のまま置いてあったりして。それは効率的ではないので、一つひとつ整理しました。
今の運営にはどれぐらいの量が適切なのかを考えて、処分するなり場所を変えるなりしましたね。

qbc:
具体的には?

西本紫乃:
お皿の量がとても多かったので、今のコース料理の内容に合わせて取り出しや片付けがしやすいように変更しました。
「もの」に関しては、目に見えてわかる変化が大きいですね。

qbc:
建物とか、物理的な資産になるものはどう?

西本紫乃:
それに関しては、使っていなかった空間を使い始めてます。
9月から毎週日曜日に料亭バルとしてお店をオープンしているので、これまで有効に使えていなかった空間を営業状態にするっていうのは進んでますね。開始してから既に1ヶ月経っているので、もう何回か回転しています。実際にどんなお客さんがいらっしゃるのかとか、方向性も少しずつ見えてきました。
幸い誰もいらっしゃらないということが一回もなくて、毎週違った感想をいただきながら改善できているので、建物としてもうまく使えるようになってると思います。

qbc:
なるほど。「金」の部分は?

西本紫乃:
まだ人やものに比べて変化が少ないというか、目に見える大きな変化はあまりないです。
でも、お金の出入りに関わる決定事項に関して、自分が積極的に入っていくようにはしています。

qbc:
うんうん。

西本紫乃:
ものや人間関係と似たようなところがあるんですけど、今までどういう意図でそのお金が使われていたのかとか、なんでこの金額設定なのかとか、曖昧なところがあって。
今は母に当たる5代目の女将が管理をしてるんですけど、そもそも明確なルールがないのか、柔軟性を持たせるためにあえて決めてないのか、それすらわからなかったんですよ。
なので、積極的に話を聞いたりお金の流れを見たりするうちに、だんだん把握できてない部分がわかってきました。

qbc:
へえ。

西本紫乃:
そんな感じで、予算計画の会話をしてます。
今までも計画は立てていたんですけど、お店の理想の状態に合わせているというよりは、借りたお金を返すための予算計画になりがちだったので。

qbc:
うんうん。

西本紫乃:
総じてお金面に関しては動けているところがまだ少ないですが、理想の状態から逆算して、計画を立てて動く状態にするための準備ができている感じですかね。

qbc:
なるほど。「情報」に関してはどう?

西本紫乃:
内部の情報としては、組織内で起きていることやお客様の情報を詳細に共有できる体制が整ってきたと思います。
どういうお酒を飲むのか、どんな特徴のある方なのかなどを共有すると仕事がしやすくなるので。

qbc:
うん。

西本紫乃:
さっきのコミュニケーションと関連するんですが、起きたミスやうまくいったことを組織内で共有するにしても、私の目だけじゃ見きれない部分がたくさんあるんです。
だから、料理人から配膳に対する意見をもらったり、洗いもの担当、掃除担当などそれぞれから情報をもらう流れはできてきました。
私はお客様の前に立つことが多いので、お客様の細かい情報をチームの中に持ち帰って、議論できるようにしてます。

qbc:
へえ。

西本紫乃:
タイムリーな話、昨日は営業が終わった後に振り返りの時間をとって話しました。
時間に余裕がありそうなときには、私や5代目女将だけじゃなくて、メンバーみんなを巻き込んで振り返りをするっていう動きが少しずつできてます。
毎日する余裕はないんですけど、組織内の情報共有のレベルが上がってるのかなと。

qbc:
うんうん。

西本紫乃:
あとは個人的な話になるんですけど、内部にいすぎると今の社会がどういう方向に進んでるかを掴めない気がしていて。
料亭としての理想像はもちろんあるんですけど、長く続いていくためには社会にフィットするかどうかをチェックしておかないといけないと思ってます。
なので、社会が進んでいく方向性をよく見て、それに対して自分たちはどう表現をしていくのかを考えるためのプログラムに参加してます。
研究や最新の技術と、料亭の経営での実践を接続させていきたいという気持ちがあったので。

qbc:
へえ。

西本紫乃:
これ伝わってますか?(笑)フワッとしていて、喋りながら伝わらない気がした。

qbc:
そのプログラムっていうのは、具体的にはどういうことなの?

西本紫乃:
新しい世界観を作っていくための考え方と実践をしていくプログラム。Kyoto Creative Assemblageって言います。私と同じように実践の場にいる人とそれをサポートをする人たちで構成されているので、私とは違う分野で動いている方々と情報交換をしつつ、専門家的な視点で支えてくれる方と話したりしています。

qbc:
なるほど。

西本紫乃:
活動の中心は京都だけど全国から集まった人たちと関われるプログラムなので、様々な視点をもらえます。
それが動き出したのが10月頭で、自分の中では大きい出来事かなと。

qbc:
人・もの・金・情報の分野で、その他にプラスになったことはありますか?

西本紫乃:
何に当てはまるか分からないですが、ご予約いただくお客様に私との出会いをきっかけに来てくださった方が少しずつ増えてきました。
ゼロから始めたので増えるのは当たり前なんですが、嬉しい変化ではあります。

qbc:
うんうん。

西本紫乃:
県内で人が集まるところに顔を出しているので、その繋がりでご来店いただくことも増えました。
今はそんな感じですね。いっぱいありすぎて、言葉にして伝えるのが難しいです。思うことは毎日色々あるんですけど。

qbc:
結果として、こういうことが生まれそうとか、何かができそう、みたいな感覚ってありますか?

西本紫乃:
大きい括りですが、家族経営の良い部分と家族経営だから起きる問題に対面しているからこそ実感できていることがあるので、その感覚を色々な方法で社会に提示できそうだなと思います。
家族経営のお店を長く続けるために必要なこととか、どうやったら大きくなるのかとか。

大学生活「決断と成長の4年間:経営者への道筋を探して」

qbc:
なるほど。ありがとうございます。
では、大学4年生の話ですね。

西本紫乃:
はい。1年半前か。

qbc:
とりあえずインターンを三つやっていて、転換していくような流れでしたよね。

西本紫乃:
はい。3年生と4年生の間の春休みに福井に戻ってきて、インターンする感じで2ヶ月くらい実家で職業体験をしました。
そこで、「家業の料亭を継ぐ」という決断と「大学卒業後すぐに継ぐ」という二つの決断をしたんですよね。

qbc:
はいはい。

西本紫乃:
その決断をした後、大学卒業までの残り1年間とその先の数年をイメージして、理想の状態を考えました。
卒業したら料亭を継ぐことにしたので、目の前にあることを整理して、インターン先や関わっている人たちとの関係性を調整しました。それを3月4月あたりにやった感じですね。

qbc:
それが3年生の終わりか。

西本紫乃:
はい。そこから4年生がスタートします。
京都にいる間は、料理やお酒、飲食店経営を実践として学ぶために、日本酒を出す料理屋のバイトは続けようと思っていて。

qbc:
うん。

西本紫乃:
私は単位を4年生の前期で全部取りきる計算で、その後は完全に自由な期間を作っていたんです。
そのあとの半年間は京都以外の場所で過ごそうと思っていたので、日本酒のお店はそれまでにしようと決めました。

qbc:
うんうん。

西本紫乃:
大学卒業後に家業を継ぐという決断をしたときに、パナソニックでのインターンは3年生で辞めるという判断に至りました。
理由としては、大学を卒業したら経営をやるという感覚でいたので、できる限り会社全体を見て事業を回している人のそばで動きたいという気持ちが強くなったから。
パナソニックのインターンは、仕事の粒が大きいし吸収できることはもちろんたくさんあったけど、事業全体を見て動いている人には触れられないっていうのがネックだったので。

qbc:
うん。

西本紫乃:
業界的にも、ロボットと料亭ではタイプがかけ離れすぎていたので、辞めるという判断になりました。
でも、インターンの中では一番報酬面もよかったし、書籍代の補助があったりして、勉強できる環境は整ってた。何もなかったら、辞める必要はないくらいめっちゃいい環境でした。間違いなく自分の力じゃ手に入らない良い環境だったんですけど、家業を継ぐ決断をしてからはそのメリットに重きが置かれなくなったので、離れると決めました。
お伝えしたときは、頑張ってねと快く背中を押してくれましたね。

qbc:
なるほど。

西本紫乃:
福島県でのツアー運営は、卒業ギリギリまで続けました。
元々SNS担当だったので、3年生の間は告知やイベントの実況的なことをやってたんですけど、先ほどの話と同じで全体を見てチームを動かすという経験を積みたかったので、年度が変わる区切りのタイミングで相談しにいきました。
そこからはプロジェクトマネージャーとして、一つのツアーやイベントの責任を自分が持って進行していくようになりました。

qbc:
うんうん。

西本紫乃:
このインターンは大学を卒業したあと3月31日まで続けました。
ツアーで農家さんや漁業関係の方と会話することも多くて、地域の人たちが考えていることをめちゃめちゃ近くで聞けたり話せたりできる環境だったので、自分が経営者としてやっていくための勉強にもなった。続けてよかったです。

qbc:
うん。

西本紫乃:
香水のインターンは、元々顧客対応の部署にいたんですけど、同じく経営の近くにいたいという考えのもと、上司と経営陣に相談しにいきました。
お金を見る経営企画と、人を見る組織開発の部署に興味があると話して、4月5月あたりから今の部署の引き継ぎをして、新しい部署に移った感じです。

qbc:
へえ。

西本紫乃:
その時点では辞めるタイミングは特に決めてなくて、お金の感覚や組織に関する知識が身に付いたら離れようと思ってました。
なので、卒業まで絶対やるぞっていう感覚ではなくて。この方針を4月には心の中で固めていた感じです。

qbc:
なるほど。他には?

西本紫乃:
あとは、住む場所も変えようと思っていて。4年生の間に大学の単位を取り切って、残りの半年間は東京に住もうと決めました。

qbc:
授業はもう終わってたの?

西本紫乃:
はい。授業は2023年の7月末で終わりました。単位が取れてるかどうかはわからないけど、先に引っ越しをした感じです。
それで通知が来て、単位全部取れててよかった〜みたいな。もし取れてなかったらもう一回戻るか、京都と東京を往復する感じになってたかもしれないです(笑)
とりあえず場所を変える、ということを決めて、4年生の間で実行しました。

qbc:
一応それで終わる感じですか。

西本紫乃:
そうですね。

qbc:
なるほど。EXITというか、終わらせるっていう考え自体はどこからきたんですかね?

西本紫乃:
キャパオーバーしたから全部辞めるという判断をして、そこからまた動き出す、という経験を前にしていたから。それを経験する前は、組織に所属する目的や明確な理由ってそれほどなかったんですよ。
その一件があってから、「目的や理想像を考えて、その道がなかったら離れるか変える」っていうのを覚えたのかなと思います。
キャパオーバーしてから考えるんじゃなくて、始めるときに「もし辞めるとしたらどのタイミングか?」っていうのを想像しよう、っていう。

qbc:
うん。

西本紫乃:
今の料亭の女将も、それを辞めるとしたら何が起こったときかっていうのは想像していて。
辞めることを考えて始めるっていうのは、そっち側の印象が強くなっちゃうからあまり人には言わないんですけど、「もし離れるとしたら何が起こったら離れるか」っていうのは考えてます。ポジティブなことでもネガティブなことでも。
自分が経営をしていくと決めたときに、それを改めて考え直した感じ。

qbc:
なるほどね。

西本紫乃:
辞めることを考えるというのは、私にとって生き抜くための方法というか。
自分が潰れないために、自分自身を長く保たせるために身につけた方法かもしれない。

qbc:
何で身につけたの?

西本紫乃:
友達の相談に乗ってたりしてたからかな。

qbc:
始めるのは簡単だけど、辞めるのは難しいですよ。
人間は持ったものを手放すのが苦手だし、サンクコストっていうのもあるくらい辞めるっていうのは難しいことだと思う。なんでそれが組み込まれてるんですかね?

西本紫乃:
いくつか挙げるとしたら、一つは福島県の南相馬に関わっていたことですかね。
一度人口がゼロになったりとか、震災が起きて希望が持てない状態になったりしたところでも、また誰かが立ち上がって営みが生まれてくるっていうのを見た。それは少なからず影響してる。

qbc:
へえ。

西本紫乃:
あとは私自身の経験なんですけど、私は何もできない、と思って一回全部の活動を辞めたんです。でも、自分がゼロの状態になったところから、1年もしないうちにまたキャパオーバーするぐらいの活動や人との関係性ができてた。
だから、何かの拍子に失われても、また生み出せるだろうという感覚を色々なところからもらってた気がします。わかりやすいのがその二つですね。

qbc:
継ごうと思ったきっかけは何だったんですか?

西本紫乃:
どうしようかとはずっと考えてたんですけど、、
コロナの影響で、料亭のお客様の予約が向こう1年全てキャンセルになって、この後どうなってくんだろうっていう状況になったんです。宴会の需要ももうなくなるのかなっていう不安もあったりとか。
でも、コロナが明けた先を見据えて両親がクラウドファンディングを行って、資金を集めて改装したりし始めたんです。
それで私もクラファンのサイトに届いた応援コメントを読んだのですが、こんなに支えられて成り立っていたのかっていうのを、涙が出るくらい実感した。

qbc:
うん。

西本紫乃:
そのときは“私のお店”っていうよりは、“自分が生まれた場所”っていう感覚なんですけど。継ごうっていう選択肢が入り始めたのは、それがきっかけでした。
それがあったから、大学を卒業するまでに一回働こうっていう判断になった。
なので継ごうと思ったきっかけとしては、コロナの影響を受けての両親の動きとか、それによって見えた支えてくださる方々の言葉ですね。

qbc:
へえ。

西本紫乃:
ちょっと裏話的なところだと、クラファンってサイトからリターンを選択して支援するんですけど、『気持ちだけ』っていう項目を設定していて。要するに見返りのない支援なんですけど、支援してくださった金額でいうと、その設定が一番多かったんですよ。

qbc:
うんうん。

西本紫乃:
あとは、クラファンページ見たけどちょっと登録方法がよくわかんなかったから、って言って、直接お店に来て支援いただいた方もいた。
周りの人たちから本当に残ってほしいと思ってもらえていたんだと感じたし、コロナの影響を一番に受けた業界だったと思うけど、そういう温かい場面も見れたんです。それもあるかもしれないですね。

qbc:
へえ。

西本紫乃:
何もないところからまた生み出せる、っていう感覚の話にちょっと戻るんですけど、私が高校を卒業するタイミングでコロナが流行ったので、高校の部活の後輩たちは大会がなくなったんですよ。
これまでは「アメリカの大会で優勝するぞ!」って、めちゃめちゃワクワクする目標を追ってたけど、大会がない、という状態になって、その目標がなくなってしまって。

qbc:
はいはい。

西本紫乃:
そんな中でも、後輩は舞台で踊ってパフォーマンスをしてました。地元の方々に向けたショーみたいな感じで。
アメリカには行けないけど、別の目標を見つけて頑張ってた。それをみて、追うところは一つだけじゃないなっていうことに気づきました。
アメリカの大会で優勝するということだけが、チアの存在意義じゃないなと。私も後輩の演技を動画で見させてもらってたんですけど、その瞬間さえも尊いなと思って。

qbc:
なるほどね。ハーバードビジネススクールが東北に来てるって知ってる?

西本紫乃:
え、知らないです。

qbc:
2012年からフィールドスタディっていう形で、壊滅的な状況からどうやって人が立ち上がってくるんだっていうのを見るっていうのでずっと来てる。
その話と結びつけるのが合ってるかわかんないけど、要素としてそれはあったんですね。
福島がなかったら、出口戦略は取らなかったのかな。

西本紫乃:
その可能性もありますね。色々な選択肢が取れるように考えたりとか、自分自身が変化できるような動きをしたいなと思えたので。
あとは、福島での活動の周りにいた大人たちが、今まで私が関わってきた大人や先輩たちと違ったんですよ。自分の未来について話したときの反応が全然違った。

qbc:
どんな?

西本紫乃:
大学を卒業した後の進路を含めた話で、就職活動して内定をもらうか、今お世話になってるところに就職するか、家業を継ぐかみたいな話をしていて。自分は継ぎたい気持ちが強い状態だと話すと、福島の人たちは「しのちゃんの料亭めっちゃ行きたい」って言ってくれたんです。
これまでそういう話をすると、本当にそれでいいの?みたいな感じでちょっと否定的なコメントをいただくことが多かったんですけど、そこでは、「それをやるためにどうしたらいいかね?」とか「じゃあ大学卒業までの間はどんなことやるの?」とか、そういう前向きな質問を投げてくれました。多分、道のりが大変なのはわかってるけど、実現する方法考えようよ、みたいな。
私自身も、前向きな頭の使い方がめっちゃできたんですよね。

qbc:
うんうん。

西本紫乃:
だから、ただ単にツアーの事業を回したんじゃなくて、そこで行われているコミュニケーションが自分を前に進めてくれていた感覚があります。
それがなかったら今私はここにはいないので、福島でのツアー運営の経験は大きく関わってると思います。

引っ越し「東京での新生活:環境の変化と新たな視点」

qbc:
なるほど。東京に来た理由はなんだったんですか?

西本紫乃:
活動していたインターン先のオフィスが東京だったというのが一番大きいかな。
今まで仕事はリモートだったのですが、ちゃんと現場の人たちと一緒に動きたいという気持ちがあったので。
あとは、福島のツアーも東京でイベントを開催することがあって。
毎回京都から東京に出張してたんですけど、それも結局時間がかかるので東京にいた方がいいかなと。

qbc:
たしかにね。

西本紫乃:
あとは、パートナーが東京にいるからというのも理由ではありますね。ずっと京都と東京の遠距離だったので。

qbc:
ちなみにどこに住んだんですか?

西本紫乃:
学芸大学。

qbc:
どうして?

西本紫乃:
彼の家があったからっていう理由。住む場所は、自分が意図してという感じではないですね。

qbc:
いつまでいたの?

西本紫乃:
3月末までいました。

qbc:
そうなんだ。私は三軒茶屋だから徒歩圏内だ。
学芸大学はどうでしたか?

西本紫乃:
開拓したとかはないんですけど、自分が抱いていた東京のイメージよりは落ち着いていた。
居酒屋とかお店の雰囲気もかなり大人っぽいというか、上品な感じでした。
京都ともちょっと違うけど、想像していた東京に比べてゆっくりした空気感で、一人ひとりの時間が流れてるな、って感じ。

qbc:
学芸大学に住んでる人はゆったりしてますよね。どこをもって東京というかでかなり違うと思うんですけど、渋谷はセカセカしてるし、三軒茶屋でさえちょっと違いますからね。

西本紫乃:
「東京」というイメージが崩されましたね。エリアごとに全然違うし、エリアを跨ぐ電車の中とかも全然違ったりするから、東京という場所の解像度はめっちゃ上がりました。

qbc:
へえ。

西本紫乃:
オフィスが新橋だったんですけど、新橋内でも人の層が色々あって。
その半年間は可能な限り外食をしようと思っていたので、渋谷とか恵比寿とか、色々なお店に食べに行ったりもしました。

qbc:
うんうん。

西本紫乃:
場所を変えるということに対して、結構ストレスというか、想像以上の負荷はありました。
いけるだろうと思ってたんですけど、意外にこんなにも変わるのかっていう。
パートナーと一緒に住むという状態になったので、一人暮らしから二人で暮らすという変化もあったし、そもそもの場所も変わってるし。
今まで近くにいた親友もいなくなって、何かあったら駆け込めるような存在がいなくなって、一人の時間も気付かぬうちに減っていて、今まで無意識に周りにあったものは私の心を保ってくれてたんだな、というのにも気づけた。

qbc:
なるほどね。
4年間振り返ってきて、どうですか?

西本紫乃:
4年間で、自分の周りの存在とか仕組みとか、自分を知るっていうことを沢山やったんだなって思う。自分の頭も心も、体力も使って、向き合った期間でしたね。
こんなに分かったことが多いのか、って思ったのと同時に、分からないことも増えた。なので、出会ってない経験がまだまだあるなとも思った。

qbc:
うん。

西本紫乃:
高校を卒業したときは、変化していくことが怖いっていうのがあったんです。社会の大きな変化としてコロナもあったし、目の前にある目標が失われたりして、そういう変化自体が怖いというイメージがあった。
でも、今は『自分も周りも常に変化してるよね』っていう感覚になりました。常に変化しているという前提に立って物事が見れるようになった4年間ですね。
きっとこれからもモヤモヤしたり、迷ったり、調子が悪くなったり、ネガティブになったりすることはあると思うんですけど、前よりも強く「何とかなるだろう」とは思ってる。
地に足をつけて、何とかなる!と思えている感覚です。

qbc:
なるほどね。
単純な感想としては、年次が上がってくるにつれて話がすごく綺麗になっていく気がする。

西本紫乃:
本当ですか。

qbc:
4年生はすごいクリアですよね。1年生は混乱してたし、2年生も行かなくてもいい営業に行ってたわけじゃないですか。

西本紫乃:
はい(笑)

qbc:
で、2年生はその傷を癒す、みたいな。
3年生は綺麗に整いすぎてて、そこで広がったものから必要なものだけを取って、4年生になってからはすごい勢いで綺麗に閉じてる。東京に行ったのも、住む場所を変えるっていうのは結構大変だけど乗り越えてるし。

西本紫乃:
うんうん。

qbc:
一つのことに集中した高校時代で得た、「限界まで深くやりたい」という想いもありつつ、
色々なことをしていくっていうコントラストはすごいよね。

西本紫乃:
確かにそうですね。

まとめ「揺らぎながら進む道:未来への確信と柔軟な心構え」

qbc:
なんでそれをやったのかなっていうのが気になる。誰がそれをさせたのかとか、そのアイディアはどこからやってきたのかとか。
紫乃さん自身はやる人だからやるんだろうけど、その発想が気になるよね。

西本紫乃:
要所要所で出会った人から考えをもらってるっていうのもあるんですけど、大学に入ってからの友人ですかね。
コロナで会いたい人にも簡単に会えないという状況の中で、お互いのことを知ろうって思ったり、短い時間の中でも深く話そうとしたり、そういう意識をお互いに持って接した人たちが多かったと思う。

qbc:
うん。

西本紫乃:
でも、難しい質問ですね。誰かとかでもないし、特定の一つの環境とかではないから。
強いて言葉にするなら、あらゆる対象の関係性から得たのかな。
抽象度が高すぎて、自分でもわからなくてうまく言えないんですけど。

qbc:
まぁでも、それが正解なんじゃないですかね。動き続けてることっていうことから変化が生まれて、その過程で結局は一つの方向性には向かっていたとは思うんですよ。

西本紫乃:
うん。

qbc:
それは家業のこともあるだろうし、知らないことを知ろうとしたとか、なるべく経営に近いことをやろうと思ったとか。
そういう大きい方向性っていうのはあって、それは徐々に言語化されていくんだろうけど。
まぁ、生まれたのが商売の家だったっていうのが多くて、それ以外に何かあるんだったらこれから見つかるかもしれないし。

西本紫乃:
うん。辿るとそうですね。

qbc:
そうじゃなかったら、そうならないよね。

西本紫乃:
そうですね。どこで出会う人も料亭のお客様になりうるっていうのが小さいときからあったから、この家に生まれたということ自体が大きいのかなと思ってて。
相手がどう思ってるかわからないけど、自分の心の中では「今目の前にいる人は一度限りの関係性じゃない」というマインドセットが根底にあるんですよ。
この人とこんな出会いがあったということは、今後越前という地で一緒に時間を過ごすことになるかもしれない、っていうのがベースにあった。

qbc:
うん。

西本紫乃:
だから、目の前の人に対して、できるだけ良い関係性を築きたいなというのはありました。
そういう家業の中で育ったし、それを仕事にしている両親や祖父母のもとで育ったので。
中にいる従業員との関係性も良くないとないといけないというのもあったので、経営とか、内部のことをもっと知りたいなという欲や好奇心も生まれたのかなと思います。

qbc:
なるほど。最後に、何か言い残したことはありますか?

西本紫乃:
4年生の話をしていて、想像以上にすっきり話してきたんですけど、「すっきりと話せてしまったな」という感覚はありますね。
4年生になって新たに出会った人や活動もあった中で、自分自身が決断をしたからこそ自分にとって必要な情報が強く記憶に残りやすいんだなと話してて思いました。

qbc:
うん。

西本紫乃:
もちろんマイナスになったこともあるし、完璧ではない不完全な状態なのでうまくいかなかった関係性やコミュニケーションがあったりはしたんですけど、それは自分の中で良くも悪くも忘れることができてる。記憶から消されてるわけじゃないけど、必要になったときに思い出せば良いという状態になってます。
動き続けてる状態のときは、そういうネガティブな記憶は頭の中に残ってなくて、逆に原動力になることが頭の中に浮かぶようになってるんだなって思いました。

qbc:
うん。

西本紫乃:
頭の中がどう動いてるかとか、自分の中のどういうところに情報が置かれているのかっていうのも、インタビューを通じて見えた感じがしましたね。

qbc:
ありがとうございます。面白かったです。

西本紫乃:
本当ですか。それは嬉しいです。

qbc:
一人ひとり人生は違うものですけど、この密度はすごいよね。8年間くらい通ってたんじゃないかと思うくらい。

西本紫乃:
たしかに(笑)

qbc:
1個聞くとすれば、若い人たちの多くの失敗は、そのステージに上がったっていうことに浮かれてる奴らに多いと思ってて。
紫乃さんがなんで浮かれなかったのかというと、やっぱり高校時代の経験だよね。

西本紫乃:
そうですね。

qbc:
周りの大学生はどう見えてた?

西本紫乃:
自分もそうだったんですけど、SNSを見たり話を聞いたりすると「こんだけやったんだぞ」という自己顕示欲や承認欲求を満たすことばかりをしていて、そこから視点が上がっていないなと感じてて。
あと、そういう投稿や発言を見ると、敢えて目を引くために戦略的にやってる人と、そうじゃない人とでは少し違いがあるなっていうのも思う。
で、そういう若者の承認欲求につけ込む大人もいるなっていうのもめっちゃ感じました。
自分がそういう人と仕事をしたというのもあるし、実際にそこから離れたのもあって、なおさら思いました。

qbc:
ふうん。

西本紫乃:
久しぶりに元々いた環境の人に会ったり、同じ場所にいた友達と話したりすると、そういうのは結構思いますね。
同じ動機で物事を始めたりやめたりすることが多くて、そこがなんか深まっていかないというか。その経験を1回振り返るっていうことをしないし、周りがさせないんですよね。

qbc:
うん。

西本紫乃:
もっとしっかり考えて動けば、本当は今目の前にぶつかってるところで悩む必要がないこともあると思ったりするんですけど、本人はそれに気づけないし、気づきやすい環境も提供されてない。気づかないまま、同じようにその環境で年月を過ごすから。

qbc:
うん。

西本紫乃:
それに対して私が物申すことはしないですけど。
違うんじゃないかなって心の中では思うけど、それを直接伝えることは根本的な解決にはならない気がするので。
その人との関係性を築くことに自分の重きが置かれてしまうのもあり、直接的には言わないけど、それに対して違和感を覚えたことは事実なので、私は女将として生きると決めた選択でその違和感に対する応答のメッセージを伝えたいなとはちょっとだけ思ってる。

qbc:
伝えたいと思ってる?

西本紫乃:
伝わることも、もしかしたらあるかなと思ってます。

qbc:
誰に対してのメッセージ?

西本紫乃:
流されて行く同年代の人たち。

qbc:
高校時代の子とかも?

西本紫乃:
高校時代の友人は、卒業してから深く話せた人が数人なので分からないのが正直なところなんですけど、一人ひとりと話をしていると自分の軸みたいなものがあって、私とはまた別というか今は緩くというか……何て表現したらいいかな。
自分の生活が保たれればそれでいいというか、みんながいいなと思うようなものをいいと思う、身の程を知ってしまった、という人が多いかなと個人的には思ってる。自分もそういう一面を持ってて、高校時代の友人と話すときはそれを出すことが多いので。

qbc:
なるほど。ありがとうございます。
若者を利用するっていうのは典型的ですよね。じゃないとキラキラベンチャーって生まれないですよ。

西本紫乃:
そうですね。そこともう一つ別の環境を持っている人だと、私の話はわかってもらえるというか、理解されやすいんですけど。
なかなか二つ以上の異なる場所に身を置くっていう選択をする理由は、基本的にはないから。

qbc:
でも重要なことですよね。留学することが重要なのと同じで、一つの場所だけを基準として考えるよりも幅が広がるからね。それがいくつもありすぎると、理解するっていう側面が追いつかなくなっちゃうから違う話ではあるけど。

西本紫乃:
はい。

qbc:
では、これにて終了ですね。今後のインタビューはどうしますか。

西本紫乃:
迷いますね。

qbc:
ポッドキャストも自分でやられてるしね。

西本紫乃:
やろうと思って頓挫してるので、ちょっと先になりそうなんですけど。喋ってはいます。

qbc:
アップしてるの?

西本紫乃:
アップはしてなくて、自分のメモとして記録用に残してるだけですね。
今後のインタビューは1ヶ月に1回とか?

qbc:
まぁでもボリューム的には、現在の部分は30分で終わってるからね。
じゃあ来月またやりましょう。

西本紫乃:
ありがとうございます。
今までは学生時代を聞かれるというスタンスだったので、現在の部分はギュッと喋ってる感じなので。
福井に戻ってきて女将修行しているときの方が動きは多いし、起きていることも多いので、喋れることは多いと思う。

qbc:
今の方が?じゃあ、まだまだ全然喋ってないってこと?

西本紫乃:
そうですね、よく思われるようにまとめちゃう癖があって。
今の印象を気にしてしまう自分のフィルターがかかってるから、時間が経たないと実はこうでしたみたいなこと言えないっていう。

qbc:
うんうん。
じゃあ、新米女将さんバージョンっていうので大河ドラマになれるように頑張りましょう。

西本紫乃:
はい、頑張りましょう(笑)

西本紫乃さんの過去インタビューはこちらから!

終わりに

最後に東京でお休みいれる感覚すごいよね。なんか、人間の可能性感じましたわ。

制作:qbc(無名人インタビュー主催・作家)

編集:misato(ライター)

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