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1986年に人類は滅びたと思った人

静かにけぶる朝もや。そうだ私は鎌倉にきていたんだっけな。鎌倉プリンスホテル。窓の向こうは浜辺。ビーチ。
そうだ昨日から私はパートナーと鎌倉に来ていたんだったな。そうだっけな?
そうだそうだそうだ、と頭をふりまわす。ふりまわすって言いすぎ。小首をかしげるくらい。小首をかしげるって小さくいいすぎ。なんだろ。なんか、首を振りたくなった? くらいの。
そういえば私は鎌倉にいる親戚たちとは縁を切ったのだった。切ったというか。別にね。別に。
縁を切ったことは、まあどうでもどうしようもなし、どうでもいいんだが、切ったことで損することになっていたら、嫌だなあ、とか思ったりしている。仮に鎌倉の縁の人が、誰かしら、例えば有名フレンチシェフと結婚したとしたのなら、そのおいしいであろうフレンチ料理食べれないし、残念。
まあいい、子供じみたことはもういい。そんなことより、自分の人生だ。誰かになんか、もう、頼らなくていいから。
と思う2024年6月21日20時20分に書く無名人インタビュー811回目のまえがきでした!!!!!
【まえがき:qbc・栗林康弘(作家・無名人インタビュー主宰)】

今回ご参加いただいたのは 得丸久文 さんです!

年齢:60代前半
性別:男
職業:デジタル言語学者


現在:全員間違ってるわけ。全部間違ってる。でもみんなが間違ってるから、それを言い続けても誰も文句言わないわけ。だからみんなそれやってるわけ。むしろ正しいことやろうとした方が潰されるよ。

qbc:
今何をしてる人でしょうか?

得丸久文:
僕は2015年の3月に東京の会社を、55歳で早期退職して、今生まれ故郷の大分に住んでます。それで、人間の言語がいつどこでどうやって始まったか、どうしてこんなに文明が発達したのかとか、脳のどこでどうやって処理してるかとか、そういうのを研究して発表してます。日本の学会はあんまりそういうの発表させてくれないんで、海外の学会に行ってます。

qbc:
他に何かされてることってあります?研究発表以外に。

得丸久文:
あーあとはね、僕は合気道30年ぐらいやってんですけど、大分だと、近くに道場がないので、妻と2人で週に1回ぐらいかな。市民ホールの畳の部屋を借りて、稽古してます。

qbc:
その他、何かやられてることってありますか?

得丸久文:
やられてるっていうのは、ご飯作ってご飯食べて。

qbc:
あ、そうですね、生活以外。

得丸久文:
生活以外?そうね。基本的に今やってる研究は、一言で言うとデジタル言語学と呼んでいるのですけど、それが、ほとんどだね。
あのコロナで3年間ぐらいどこにも海外に行けなかったときは、新たに二つの学会に入って、研究発表はまぁ3年間で100回ぐらいやったかな。なんかそういうことばっかりやってる。

qbc:
研究されてるときの気分というか、どんな気持ちでやられてるんですか?

得丸久文:
気分はね、あの人間っていうのはね、自分が何を知らないかを知らないんですよ。そうだよね。だから、僕はあと何を調べたらいいのかが分かってないわけね。
だからその、例えば、300万年前に言語はなかったわけだよ。7万年前に言語が生まれて、その後5000年前に文字が生まれて、60年前にビットが生まれたりとかそういう流れがあるんだけど。そういう歴史的な事実を追いかけて、一体それがどういう意味があるのかなとか、そういうのをああでもないこうでもないとやるわけ。

それから、脳科学は、パブロフの時代までは実験動物を使った実験やってたんだけど、今は動物実験なしでやってますから。結構間違ってんだよね。大脳皮質で言語処理しているってなんてどう考えても間違ってて、心理学者の人もそれ知ってるけど、もう教科書がそうなってるからみんな間違ったもの習ってるわけ。
で、普通に、普通にやってると、もうみんなが間違ってるから。先生も教科書も間違ってるから、みんな間違ったまま走ってる。僕の場合は1人でやってるから、ここちょっとおかしいなとかいうときに、立ち止まって、いろいろと調べて、あやっぱ間違ってるな、じゃあ違ってるとしたら一体それはどこでやってるんだろうとかまぁ、1人で間違いを直しながらやったりできるわけね。
そのときにさっきちょっと言ったように、自分が何を知らないかはみんな知らないわけね。僕も知らないんだけど。役に立つのは、検索エンジンなんだよね。例えば、僕は人間の言語はデジタルじゃないかなっていうふうに2008年に思ったのね。そしたら、human digital languageっていうふうに、Googleに入れると、これを読みなさいって言われるわけ。
それを読むのに何ヶ月もかかるんだよ、聞いたこともないから。コドンって知ってる?コドンってのはRNAが3個でアミノ酸に変わる、その暗号の事をコドンっていうんだけどさ。聞いたこともないね、そんなの普通に暮らしてるとね。だからコドンって何だろうとか1個1個言葉を調べながらやって、3ヶ月ぐらいかかって、やっと意味がまぁ大体分かったとかね。そういうことをやってる。
だから、何考えながらやってるかっていうと、どうやって自分の知らないものを、知らないものの中で意味があるもの、そしてできれば正しいものを自分の中に取り込む。そのためには、SNってsingnal-to-noise ratioっていう通信の世界で言うSNってまぁ言うよね、SNっていうのは対数だから、60デシベルっていうのは100万、80デシベルって1億だけど。なるべくSNの大きい環境に自分を置いた方がいいわけ。
そうするとちょっと東京なんかよりは、この田舎の大分の方がSNが高いんだね。雑音が少ないし、誘惑も少ないし、友達も少ないし。だからそうすると研究に打ち込めるわけですよ。だから今はそういう環境に身を置いて、いかに自分の知らないことを構築していくかというのをもう15年ぐらいやってる。

qbc:
なるほど。気分としてはどんな気分でやられてるんですか?

得丸久文:
いや、その気分はね、良い質問だね。気分はだから、一番最初はわからない。つまり、例えばね、今、あなたは自分の心の中で何か喋るじゃない、今度こう聞こうかなとかね。別のこと考えたりもする。その、その頭の中で言葉にしないで喋る言葉があるでしょ。それって何だろうとか思ったりするわけ。
そんでそれを、どうやったらそれを、今度はその専門用語があるんだろうかとか思うんだけど、これはね、はてな検索エンジンで聞いたんだよね。そしたらインナースピーチ(内言)っていう。ソビエトの心理学者のヴィゴツキーという人がいて、その人が研究してる、その本がある、じゃあ本を読もう、本を買って、アマゾンで古本を買って、当時は安かったよ、2冊で1000円もしなかった。それが届いたら読む。一回じゃわかんないんだよやっぱり。こっちは心理学のしの字も知らない、向こうは心理学の、もうモスクワ大学で心理学教室をやってた人だから。何て言うのそれこそ30デシベル60デシベルってかまぁ、桁違いに知識の量が違うんだよね。だからそれに追いつくことだけを考えるわけ。
まず一個一個言葉を丁寧に覚えて。1回じゃなくてやっぱり、一つの本を十回ぐらい読まないとわかんないわけね。それを、スピードを、読むスピードを変えたり、あるいは飛ばし読みしたり、あるいは通読したり読み方を変えたり、あるいはわざと自分でヴィゴツキーをテーマにして研究会に申し込んだり。そういうことをやりながら、自分に課すわけ、違った読み方を。
そういう中で、ヴィゴツキーが一体どこまでたどり着いて、何が分かっていて何が分かってなかったのか。何が正しくて彼はどこが間違ってたのかっていう、そこのギリギリのところまでいけたら、一応ヴィゴツキーは卒業かな、みたいな。そこまでやろうとしてる。
それを考えてる。だからまぁ、ヴィゴツキーになりきって、彼がやり残したことをやってあげようというような気持ちでやってる。

qbc:
なるほど。気づいた瞬間、自分は何を知らないかを知らないっていうのがある。これ知らないんだって見つかったときっていうのは、喜怒哀楽でいうとどんな感じなんですか?

得丸久文:
いやもうそれはもう宝くじ当たったようなのものだよね。
例えば、とっても大きなGoogle検索で2回、一つはそのhuman digital languageで、僕は1984年のノーベル医学賞をもらったニールス・イェルネって人に出会ったわけ。彼は84年の12月10日に、カロリンスカ研究所で「免疫システムの生成文法」と題された講演をした。生成文法っていう言葉は知ってる?

qbc:
生成文法分からないですね。

得丸久文:
Generative grammarっていうチョムスキーの言葉だ。ヒトは生まれながらに文法の知識をもっている、という感じの学説。イェルネはそれをもじって、「免疫システムの生成文法」という講演をするんだ。だけどそれを誰も読まないわけ。誰も読まないで放置されてた論文なんだよ。
それを僕が、2010年だから、35年ぶりぐらいに手にして、また1から読み始めるわけ。丁寧に丁寧に。だから、なんだ35年のあの歳月を隔てて、彼が言い残した言葉を聞いてあげている。カロリンスカで講演聞くなんてもう、NHKの紅白歌合戦をNHKホールで聞くようなもんだから、みんなそれでわぁって言うんだけど、その後ちゃんとフォローしないわけよ。
だからそういう講演があって、ただで手に、もちろんただで手に入るんだけど、全部自分で翻訳したりして、こういう丁寧に丁寧にやって、彼がどこまで正しくてどこが間違ってたかっていうようなことをわかるのにまぁ5年くらいかかったね。
それが一つね。もう一つは、結局大脳皮質で処理しないとなると、どこでやるんだろうって。免疫システム生成文法の中でイェルネが言ってんのは、Bリンパ球、免疫細胞であるBリンパ球が、それを司ってる。Bリンパ球はどこに入ってるかっていうと、脳室といって、左右の側脳室、第三脳室、第四脳室っていう脳の中にリンパ液が流れていてそこの中に、Bリンパ球はあるんだけども、それが言葉の記憶を司ってるっていうことをノーベル講演の中でほのめかしているわけですね。
今度は、じゃあ耳からどうやってそこへ伝わるんだろうと思うわけ。ある程度自分がそれを理解してくると、ちょっと待ってちょっと待って、全体の絵が描けない絵が描けない。何が足りないんだろう。そうだ。そこに言葉の記憶を司るBリンパ球があるとして、じゃあ耳からそこへはどうやって繋がるんだろう。思うのよ。
そうするとGoogleに入れるのはCSF。CSFっていうのは脳脊髄液ね。cerebrospinal fluid。CSFと、ニューロン。ニューロンって神経細胞っていう意味ね。CSSとニューロンというのをGoogleに入れるでしょ。何が出てきたと思う?
脳脊髄液接触ニューロンという聞いたこともない細胞が、嘘みたいな名前の細胞が存在してるんだよ。これはもうびっくりしちゃう。もうこれ本当驚いてもうね、本当に宝くじに近いよね。その何て言うの、東京ドームの中でたまたま幼なじみに会うぐらいのさ、なんか珍しい出会いなんだよね。そういうぐらいの出会いがあって、へー?!って思うわけ。でそっから調べ始めるわけ。

で、それで誰もそういうの読んでないんだ。これも、論文が発表されてから、30年ぶりか40年ぶりぐらいに出会って、まず日本語の文献が少ないし、ほとんどない。東大の医学部の図書館まで行って、コピーさせてもらって。今の学生さんは、ダウンロードして印刷機でやるからコピーしないんだよね、図書館では。僕らは卒業生だから、部外者だから、コピー機でコピーしなきゃいけないわけね。だからコピー機でコピーさせてもらって読む。
わかんないけだよ、やっぱそれ1回読んだぐらいじゃ。それを何回か、何回も何回も読んで、あ、なるほどと。こういうふうになってんだな。みたいなところまで分かるのはやっぱり何ヶ月もかかる。それをやったのは2012年の8月なんだ。
それも9月の頭に研究会で、あるテーマで、なんだっけな。タイトル忘れたけど(「情報理論における雑音因子-生命体と意識のオートマトンが生まれる環境」)、FIT2012という電子情報通信学会の研究会に出る予定で、その準備をしているときに、ふっとCSFとニューロンというのを入れたら出てきて、慌てて調べたっていうようなことがあるんだけど。
そのときは本当にもう、フィーバーだね。パチンコで言うとフィーバー。僕パチンコ知らないけど、あのいっぺんにバーっと何か球が出てくるんだよね。そんな感じでバー、きたーって感じですよ。

qbc:
先ほどのロシアの研究者のお話で、ギリギリまで追いついたっていうふうな感覚、おっしゃってたんですよね。そのときはどんな気分なんですか?

得丸久文:
どんなっていうのはね。良い質問だと思うんだけど。
僕はね、2018年の10月にモスクワ行ったんだよね。彼はノヴォデヴィチ墓地かな。大体、僕は行くとお墓に呼ばれんだよ。それでね、お墓参りしようと思ってお墓へ行くんだよね。そうすっとね、そこの受付にいた事務員がね、「いいえ。その人の墓はここにはありません」と言うわけ。
ないからしょうがないからね、ショスタコーヴィッチとかね、プロコフィエフとかね、そういう人たちのお墓参りをしてきたんだ。それでね、帰ろうとするとね、GPSが狂うんですよ。なんかね、変だな変だな、GPSが狂うんだ。同じところをグルグル歩かされて、まるでお墓から離れないでくれっていうような感じで、なぜかお墓から遠くに行けなくなったんだ。
でね、日本の商社の駐在員の人に、僕はロシア語が僕できないから、墓地の人に電話してもらって、ヴィゴツキーのお墓はどこに行けばいいんですかと聞いてもらったら、なんか昨日日本人が来たんだけど間違って教えてしまって、実はここにあるんですっていうわけ。だからもう一回翌日お参りしに行ったんだけど。
何が言いたいかというと、だから、その人がやったことに追いついて、何をやってないか分かったっていうことは、師弟関係というか、弟子になったというか、バトンを受け取って、あなたのやってないこと僕がやりますよっていう、リレーの次の選手に、まぁそんな気持ちですね。

qbc:
なるほど。

得丸久文:
向こうも喜んでるわけ。

qbc:
じゃあ、今度は、その追いつこうとしているときの気分って、どんな感じだったんですか?

得丸久文:
追いつこうとしてるときはね、パブロフなんかそうだよ。最初、パブロフの本を読んでて、何言ってんのかなと思うわけ。あの、岩波文庫で2冊出てるけど、読んだらわかるけど、この人、何が言いたいのかなってまず分からないわけ。この人嫌い、ぐらいの感じなんだよ。何言ってるか分かんないみたいに思ってた。
でも、繰り返し繰り返し読む中で、あ、パブロフはこの現象をこういうふうに呼んだんだなとか、この現象をこういうふうに呼んだんだな、うーんって言ってだんだんだんだん分かってくる。
そうすると、あ、パブロフこれについては書いてない。これはもうすぐわかるから、これについては皆さんにもうすぐ紹介できるといいながら、書いてないよね、どこにも、みたいな。そういう粗が見えてくるわけ。で、おかしいよなとか思って、これもおかしいとかあれもおかしいとかいうのが見えてきて。
で、その、何がそういうふうに見えるかっていうと、パブロフは、デカルトの考えを受け継いでいて、条件反射は、大脳皮質上の感覚野から、運動野に新たなシナプス接続ができるっていうふうに仮説を立てて、全てをそれで説明しようとした。
ところが、第7とか第11の中で、それでは説明できない不可解な現象があって。それを、パブロフは、なるべくみんなが気が付かないように、さらっと喋ったり、もうすぐわかるって言いながら、結局わかんないままだったりっていうなところが見えてくるわけ、だんだん。
だから、なんていうんでしょう、追いついたぐらいの感じね。あれ、ちょっと待っておかしいって。で、それぐらいだとまだでもね、パブロフを乗り越えてないわけ。ね、おかしいってそれはある二つの現象。ひとつは「条件抑制」、もうひとつは「負の相互誘導」っていうのね。
まずね条件抑制だけどね。
条件抑制ってのはね、メトロノーム100で、例えば、エサが出ると、チーズが出るっていうふうに条件付けする。メトロノーム100を聞かせて、チーズを出すと。そしたら犬はメトロノーム100を聞くだけでよだれが出て、これそろそろチーズの時間だとか思うわけ。ね、それが条件付け。
条件付けが既に行われた犬に対して、条件抑制っていうのは、メトロノーム95とかを鳴らすんだよ。そうするとね、犬は、お、これチーズかなみたいに思うわけ。ちょっとよだれが出るんだ、ちょっと違ってますけどっていう気持ちがあるから少し量が少ない。このサイクルを繰り返すんだ。100を聞かせてチーズを出して、95を聞かせてチーズを出さないっていうのを繰り返しやってると、最終的には100だとよだれが出るけど95だとよだれが0っていうふうに、犬の反応が安定するわけ。
ところが、パブロフが、これを最大の謎と言ったのは、ある時期、メトロノーム95で餌を出さないのは続けているのだけど、95だけど100と同じだけの分量が出る時期があるんです。最初は50パーぐらい、これチーズかなと思うときにはちょっと半信半疑だから、半分ぐらいよだれが出るんだけど、で、最後はゼロになるんだけど、途中で100%出るわけ。これが分かんなかったんだよね。これをパブロフは、これは謎であると言いながら、みんなが1回や2回読んでもわかんないような感じで、それがどういう現象なのかをちらっと、さらっと書いて逃げてるわけ。

それで、100だとチーズが出るからよだれが出る、95だとチーズが出ないからよだれが出ないっていうふうに、二つの記号に対応する犬がいて、この二つを組み合わせた実験が、第11講に出てくる相互誘導実験なんだ。
相互誘導実験というのは、例えば犬がいて、まず95を聞かせるわけ。あ、チーズ出ないんだよねと思うわけね。で、100を聞かせるわけ。すると、いつもより早くたくさんよだれが出る。そりゃわかるよね。それが正の、ポジティブね、正の相互誘導なわけ。
で、負の相互誘導ってのがあって、100でチーズを出す。95でもチーズを出す。そうすると、犬は何十回もそれを繰り返しても、95の後はよだれが出ないんだよ。チーズが出るのに。これが負の相互誘導実験。これもパブロフにとって謎だった。ね、それで最後には気が狂った犬もいるってわけ。このあたりが最初の段階、5回か6回読んで、パブロフのごまかした部分、分からないから放置してた部分っていうのがわかるわけだね。

でももっとすごいのがある。パブロフの本見てみると面白いんだけど、これ岩波文庫だと2冊分。英語版だったらインターネットでもダウンロードできる。
第19講からパブロフは、犬の大脳皮質を切り取る実験やるんだよ。今もう犬でも猫でも禁止されてますよ、残虐だからね。でも、パブロフはそれをやるわけ。正直言って、23レクチャーある中で、19、20、21の三つのレクチャーにおいてパブロフは脳を取り出す実験を続けるんだよ。僕はね、血を見るの嫌いだから、もう、読めないの。そもそも分厚いし、前半だけでね、研究会ぐらい出れるから、なるべく読まないようにした。
2010年の正月から読み始めたんだけど、2017年の7月にサンクトペテルブルグで学会があったとき、パブロフが住んでいた都市で行われた学会だから、一からもう一回丁寧に全部読み直すことをあえて自分に課すわけ。そうすっとね、見えるんだ。なぜそういう実験やったかが。何かっていうと、結局パブロフは、大脳皮質がなくなっても、条件反射が戻るっていうことをちらっと書いてある。
それはこう書いてある。大脳皮質を取り去ると、全ての犬において、一旦条件反射は止まる。止まった時間はそれぞれで、早ければ数日、長ければ数週間で戻るってことが、長ければ数週間であるって書いてあるわけ。戻るとは書いてない。消失期間は数週間であるとまでしか書いてない。だからよく読まないと戻るっていうことが読めないね。
で、なんと、第1講で、大脳皮質がない犬は、条件反射は当然なくなるってはっきり書いてある。で、その実験がこれだったんだ。本当はだから第2辺りでやる実験なのに都合が悪いから、本当は多分、ボツにするつもりだったんだと思うよ。
だけど、うん。でもパブロフは、僕のnoteの、「パブロフ博士の犬供養」の第1回に出てくんだけど、パブロフは、広瀬武夫と友達だったんだよね。軍神広瀬武夫ね。友達だったわけ。それでね、僕の小説の中では、広瀬武夫はパブロフ博士に、武士はこういうふうに振る舞うべきだみたいなこと言ったから、パブロフは広瀬武夫のことを思い出して、ボツにした原稿をまたやっぱり最後にちょっと喋って、で、最後、ほんとの最後で、皆さん私の実験の中には間違いもいっぱいあるからねって言って終わってんですよ。

qbc:
文学的解釈ですね。

得丸久文:
だから僕の小説は、あれは一応SFだけど、そのパブロフの本をベースに、辻褄合わせただけだから、科学的というか、パブロフに忠実なSFなんですよ。でね、だから、その、よかったよね。そういうとこが見えてきて、パブロフという人がやっぱりその、広瀬武夫の助言があったかどうかは別として、科学者としての誇りというか、責任感というか、やっぱり最後までちゃんと間違った結果であっても、こそっとでいいから、最後に付け加えようと。
隠すことはやめて、正直には、ストレートには言わないけど、条件反射が戻ったことを、今日、犬が出てますね、そこに。unknownな犬がね。

犬に見える無名人インタビューのアイコン、ZOOMのアイコンもこれですが、実はオオカミです。オオカミだけど犬と間違われる≒周りから本来の自分とは違って理解される≒社会につけられた名前をはぎとれ! というメッセージが。

大脳皮質を取った犬に条件反射が戻ったことをね、やっぱり書いておこうと思って書いたんだよね。それを知ったときにね、あ、パブロフ偉いなと、すごい偉いなと思ってね。
僕はね、そのお墓参りするときね、あの変な話だけど、モスクワのヴィゴツキーにしてもね、サンクトペテルブルグのパブロフにしてもね。――向こうの人は、お墓参りにあまり行かないですよね。だからね汚れてるんだよ、お墓が。落ち葉が積もってたり、鳥のフンがついたままになったり。それでね、僕はパブロフのときに、1時間以上かけてね、落ち葉を掃いて、何度も水くみにいって水かけてお墓を洗って、綺麗にして帰ってきたの、日本に。
そしたらね、これも余談だけどさ、パブロフのサンクトペテルブルグで墓掃除して帰ってきて翌日、島泰三さんに電話しなきゃいけないなって突然思うわけ。島泰三さんというのは『はだかの起源』を書いた人です。講談社学術文庫にでてるけど。
それで彼に電話したわけ。2017年の7月にね、昨日サンクトペテルブルグにいってきてパブロフのお墓参りしてきましたよっていったら、島先生が、――彼は東大の全共闘で安田講堂に最後までいたから、安田講堂にいただけで実刑2年で、福島刑務所にいたんですよ。かわいそうだよ2年間も牢屋に。何もしてないんだよ。今、人を殺したって執行猶予つくのにさ。安田講堂にいただけで、実刑2年。刑務所に2年間いたんだよ。この人たちは。
それで島先生は、刑務所に3冊しか本を持ちこめなかった。で、その中の1冊は、その岩波文庫のパブロフ2冊を表紙を取って、2冊を1冊に貼り付けて持ちこんで、毎日読んでましたって言うわけ。へーっと思って、これってパブロフの縁じゃない? 明日、あのパブロフ博士の犬供養は最終回10回目で最終回なんだけど。

実はね、2018年の10月の学会がモスクワであったときに、4月に僕のアブストラクトっていう論文がね、アクセプトしたかリジェクトしたかの連絡があるはずなのになかったんだよ。
それで、困ったなと思って、そのときに広瀬武夫生誕150周年のイベントがあったから竹田の廣瀬神社行ったら、翌日モスクワから来てくださいっていうメールが入るわけ。うん。
その廣瀬神社もね、18年の5月で150周年だったけど、17年の7月にサンクトペテルブルグ行って、8月に竹田に行ったときに、廣瀬神社の前を僕は通りがかって初めてお参りしたんだ。以前から何回も素通りしてるんですよ。3、4回。
でもその日はね、今日は廣瀬神社に行かなくちゃいけないと思って、廣瀬神社にお参りしたわけ。ね、でお参りして、僕の友達が、ここに何か資料館があるからそこも行きましょうと。200円払って入ったら、なんと、パブロフの写真があったわけ。パブロフは広瀬武夫と付き合ってたから、パブロフからもらった七宝焼きのスプーンとパブロフ一家と記念写真してるやつが、その廣瀬神社の資料館に飾ってるわけ。
これなんかもねびっくりしたよ。へー、やっぱりパブロフって人が今でも生きていて、やっぱり自分のやり残したこととかを誰かが、やってほしいなと思ってるから、この世に未練があるんだと思うんだよね。
だから僕はそういう仕事をしてるわけ。うん。

qbc:
なるほど。これ、ちょっとすいません、えっと。――結局、言語はどこが司ってることになってるんですか?

得丸久文:
言語をどこが司ってるかっていうのは、脳室内における免疫細胞のネットワークです。
脳室の中に、脳室って分かります?左右に側脳室があって、第三脳室第四脳室があって、脳の中に、リンパ液が流れてるんですね。

qbc:
はい。

得丸久文:
それは側脳室と第三脳室、第四脳室に脈絡叢というまぁ、キルトみたいな、タンパク質の組織があって、そこに心臓から脈絡叢動脈という一番太い動脈が脳に血液を送ってるわけ。で、脈絡叢でろ過して、無色透明の脳脊髄液に変わるわけ。
そこは脈絡叢が入口で、出口はくも膜、くも膜顆粒というところでそこでまた、静脈に戻るんですけど、だから四つの脳室でできたやつがずっと流れていて最後くも膜から静脈に戻るという、blood-brain barrierって聞いたことない?血液脳関門って言うんだよね。
血液脳関門といって、要するに脳の中に、脳脊髄液を閉じこめておくエリア(閉鎖空間)があるんですよ。で、入口もすごく狭くて出口も狭いから、でその中に、Bリンパ球がいて、そのBリンパ球が一個一個、言葉一つ一つに対応して言葉の記憶を司ってるわけ。
だから、脳の手術、外科手術とかやっちゃって、失語症になるのはこのBリンパ球を喪失するからなるんだってのが僕の説ですけど。実際に失語症の人もそれを、そうかもねって言ってくれるんだけどね。
ただ、学説と通説とは違うからね。通説はみんな教科書に書いてあることしか興味ないから。言語聴覚士も教科書に書いてあることを覚えないと、僕の言ってること書いても点にならないからね。間違っていても点をとろうと思ったら、教科書に書いてあることを覚えないといけない。やっぱ世の中っていうのはおかしいんだよね。

qbc:
なるほど。この話の延長線上にあるのが、デジタル言語学になるんですかね?

得丸久文:
あのね、デジタルって何だか知ってる?あなた。

qbc:
えっと、0とか1とか、区切りがあるやつですよね。

得丸久文:
うん、そうそう。あのね、コンピューターネットワークは0と1のバイナリーのデジタルをやってますけど。遺伝子情報は、4元デジタルだよね。アデニン・グアニン・シトシン・ウラシルっていうね。4つの核酸でやってるわけね。
共通してるのは、離散、有限、1次元。デジタル信号の特徴、デジタル信号に求められている特徴は、離散、有限、1次元。つまり、離散というのは、0と1ではっきり違う。アデニン・グアニン・シトシン・ウラシルではっきりとタンパク質の構造が違ってる。
有限というのは01だったら2個しかない、遺伝子だったら4個しかない。ね、それから1次元というのは、メッセンジャーRNAとかパケットみたいに、1次元上に01が並んでいる、1次元上に核酸が並んでいると。これが条件なんですよ。
で、人間の場合は、音節がデジタル信号なんだよ。音節っていうのは、音節ってなんだかって言える?

qbc:
えー、音節?

得丸久文:
単語は知ってるけど、何かって言われたら困るでしょ?

qbc:
はい。

得丸久文:
難しいんだよ。音節の定義は、母音を一つだけ持つ、音韻単位なんだよ。母音1個に、前後に子音があるやつが音節なんだよ。英語、英語のstrangeなんて1音節なんだよね。strangeで、もう子音だから前後は。
日本語ってのは必ず母音で終わるという規則があるし、母音の数が少ないから、110とか、112とかそんなしかないわけ。で、日本語はさらにそれが全部ひらがなカタカナで表わせるっていう、ものすごいスーパー言語なんだけど。この音節がデジタル信号なんです。
それは、オトガイっていう下の顎ね、みんなこの下の顎が伸びてる、これが人類の特徴なんですよ。この下の顎が伸びてると、顎に空間ができるわけ。で、肺の空気の出口がここまで下がるわけ。で、水平と垂直が同じ長さで直交する声道があって、それで母音の共鳴が生まれてるわけ。第一フォルマント、第二フォルマント、第三フォルマントって、フォルマント周波数が生まれることによって母音ができるわけ。だからデジタルっていう、人間のデジタルっていうのは、音節が生まれたときにデジタル化したの。それは6万6000年前に南アフリカのクラシーズリバーマウスという洞窟で起きてるわけ。
クラシーズリバーマウスっていうのは、人類学の教科書には最古の現生人類動物って言われてるけど、そこで、この発達した顎と発達してない顎の両方が出るから、そこで顎が伸びたっていうのがわかるわけ。なぜこれが伸びたかっていうと、それはデジタル化するために、母音の共鳴が生まれるように顎が伸びたんだね。
僕たちの記憶の中には、メッセンジャーRNAなんていうものが昔からある。メッセンジャーRNAが生まれたのは20億年前だから、真核生物が生まれたときに生まれてるわけですから、もう20億年の記憶があるからね。その前に、あの、ブッシュマンのクリックってコイサン語。舌をこう鳴らして口の中で、あるでしょ。あれは肺の空気が出ないわけで、母音がないわけね。
母音がないと、パパ・会社とかね、ママ・台所とかね、二語文しかできない。それが母音があるおかげでこうやって文法を使いながら、長い文を紡ぎながら喋れてるから、こういうZoomのようなことができるわけですよ。電話でも一緒だけどね。
電話は、片耳しか使わないでしょ。両耳につけるヘッドホンで、電話する人いないでしょ。電話は片耳でいいんだよ。なんでかっていうと、僕たちは母語を聞くときには片方の耳でしか聞かないっていうふうに脳ができてるわけ。
だから、例えば、電車の中で、車内放送やって、スピーカーはいくつもたくさんあるのに、全然違和感ないでしょ。あっちのスピーカーとこっちのスピーカーで何か耳がおかしくなったりしないで、一つの音しかないと。だから、それは文法を処理するために、母語にかぎって脳の中で片耳できくようにスイッチしてるわけね。
日本語を聞くときだけ、片耳で聞くの。これがイタリア語とかになったら、パーティーとかで、ダイニングテーブルに10人ぐらい並んでて、食事してて全員イタリア人だったら、目つぶれば女、男、おじいさん、女、あ、子供がいるとか順番に左から誰が座ってるかわかるわけね。両耳で聞くから。ね。
ところが、母語の場合は片耳で聞くから、待合室とか喫茶店とか、そういうところで目をつぶったら、判断できない。僕たちは、脳の中に方向定位ってね、音がどこから聞こえてくるかっていうのを、物音とか鳥の鳴き声とかは、どっから聞こえるかはわかるんだけど、蚊がどこを飛んでるか、蚊の音とかもね、わかるんだけど、日本語の場合はそれがどっからかわかんないわけよ。前からなのか後ろなのか、横なのかもわかんない。文法のためにその能力を犠牲にしてるわけですね。
何が言いたいかというと、デジタル言語学っていうのは、その母音が、「あいうえお」とかの母音がcareerで搬送波になっていて子音を送っていて、母音自体が切り替わっているわけね。あ、い、う、え、おってスイッチングしながら喋ってて、そういう非常に高度なデジタル通信をやってんだけど。問題は、最初に信号の進化が起きたから、脳としては、それに対応するデジタルプロセッサーができてないわけ。
デジタルシグナルプロセッサーがなくて、条件反射と同じ脊髄反射回路で言語を処理してるわけ。それが我々の原罪というか、我々が、なかなかホモ・サピエンスになれないのはそれです。最大の理由は、脊髄反射で言語処理してるから。

qbc:
ホモ・サピエンス、賢い人になれないってことですか。
本来だったら、脊髄反射ではなく、言語は脳で処理するべきだってことですよね。

得丸久文:
脊髄反射ってどこだか知ってる?

qbc:
あー、脊髄のどこで起こってるかはわからないですね。

得丸久文:
脊髄反射は脳の中だよ。それで、脊髄反射をどこでやってるかっていうのも、誰もやってないんだよ、研究。

qbc:
脊髄って、脳の中央にがばって入りこんでるところですよね。

得丸久文:
そうだけど。誰も研究してないからわかんない。
もう、みんな、すごい難しいことやらないわけ。難しいことだと論文書けないし、先生も困るし、実験もできない。今、実験も不自由だから、実験で証明しろって言った時に困るわけ。だからなるべく難しいことは研究しないから、さっきの脳脊髄液接触ニューロンの研究は、ハンガリー人のビグ(Vigh)っていう人がやってんだけど、脳神経学でもない免疫学でもない、組織学っていう部門で論文が出てるわけ。
そういう組織があるっていうから研究しましょうぐらいで。だからみんなそういう細胞があることは知ってんだけど、脳科学の人は、いやもうそんなことやってる暇ないよ、僕忙しいからっていう。免疫学の人は僕は関係ないよって言って、みんなやらないから組織学をやってるわけ。
脊髄反射も、脊髄反射こそ脊髄接触ニューロンとBリンパ球とか、あるいは介在ニューロン、インターニューロンっていう反射を起こすためのニューロンがあるんだけど、それで脊髄、脳脊髄液の中でやってるんだけど、そういうのも、どこにもないんだよ教科書が。知らなくていいってわけ。教科書がないから試験にも出ないし、やらないわけ、みんな。

qbc:
よく分かってないんだっていうのが結論なんですかね?

得丸久文:
何が?

qbc:
どうやって言語が処理されてるかってことに関して。

得丸久文:
だから最初はそうだったんだよ。デジタル言語学は、それを分子・細胞レベルの仮説にしたわけ。
だから、大変なんだよ。だから最初、もう僕も最初はブローカ野、ウェルニッケっていうところから入るわけだよ。ところがブローカもウェルニッケも論文書いてないんだよ。だから誰かがでっち上げてるわけ。ブローカさんがやりました、ウェルニッケさんがやりましたって言うんだけど、どこにも証拠がないんだ。
大体ね、スコットランドでそういうのが起きるんだよね。スコットランド人って酒飲みながらそういう科学談義が好きでさ。
こういう人たちが何かでっち上げてさ、ブロードマンマップなんかも、ブロードマン何にもそんなこと言ってないのに、ブロードマンが研究してそうなった。第27野、第45野、何とかっていうけど、それはね、スコットランドの人がでっち上げたんですよ。
でもそれが教科書になるともう1人歩きしちゃうわけ。試験問題にも出るし。それでみんながもう完全に間違ってる。全員間違ってるわけ。全部間違ってる。でもみんなが間違ってるから、それを言い続けても誰も文句言わないわけ。だからみんなそれやってるわけ。むしろ正しいことやろうとした方が潰されるよ。

qbc:
なるほど。ところで、いつ頃から脳の研究っていうのは、停滞しちゃっちゃったんですかね? パブロフ以降?

得丸久文:
複雑なことっていうのはね、一つの分野ではね、答えが出ないんですよ。科学ってのは大体。今なんとか学のなんとか学会の会長がいて、研究室があって、ていう感じで、中でまとまってるわけ、小さく。
いわゆるインターディシプリナリー、学際的なことっていうのは、20世紀で一番学際的なものが栄えたのはいつだか知ってる?いつだと思う?

qbc:
初期ですよね。20世紀の。

得丸久文:
20世紀初期ってのはあれだよね。マックスプランクの黒体放射で始まるわけだね。量子力学で始まるわけだけど。おそらくね、第2世界大戦です。あのときに、どうやって水爆、水爆じゃない、原爆を正しく落としてたくさん殺すだとか、どうやってレーダーで相手の飛行機の場所を見つけるかとか、そのために、電波の専門家、電気の専門家、数学者、もういろんな人が協力し合うわけ。数学者ってのは本当に協力しないからね、普段は。

もう数学はひどいよあれ、数学の学会も何回か行ったけど、1人で黒板にバーっと書いてそのまま帰っちゃったりね、学会発表。何しに来たのかなみたいな(笑)黒板書いて帰っちゃって何もない。あんなひどい学問ないね。
東大の駒場に数学の理学部数学科っていうのは、東大の本郷から駒場に移っちゃって3年4年が駒場なんだけど、そこの図書館行ってごらんよ。本が著者のアルファベット順か何かなんだよね。だからもう分野も何も関係なしよ。バラバラなんだよ。数学は、あんなバラバラな学問ないね。
それが戦争になると協力して、やっぱりちゃんとミサイルが当たるように、人がたくさん死ぬような計算する必要があるから、協力し合うわけです。そのときに協力しあったから、DNAの発見なんか、戦後すぐですよね。1940年代の終わりかぐらいで。
あのときに、ジョン・フォン・ノイマンが生物学に入ってくるんですよ。オートマトン理論と言って、知ってる?中央公論社『世界の名著 現代科学II』の中にジョン・フォン・ノイマンの論文が30ページぐらいのやつがあるけど、1948年にパサデナでやった講演を51年に、ノイマンが加筆して印刷されたものがあるんだけど、それが『人工頭脳と自己増殖』というタイトルで、オートマトン理論なんですね。これは人類の知能の複雑さを説明しようとしているのだけど、これまで誰も引き継いでいなかったから、これを超えるものがないんです。
学際的な総合力が求められてるわけね。でもそれは何の得にもならない訳。学会で偉くなるわけでもないし、研究室もらえるわけでもないし。損得勘定から言ったら絶対損なんだよ、やるだけ。

qbc:
なるほど。それで研究が伸びない。

得丸久文:
そう。みんないいじゃないですかいいじゃないですかと、今教科書でみんなOKなんだからそれでやりましょうよって。教科書も嘘だらけだよ、今の教科書はみんな。
例えばエントロピーね。エントロピーっていう言葉知ってる?

qbc:
はい。

得丸久文:
多い方がいいと思う、少ない方がいいと思う?

qbc:
平衡がどうのこうのってやつですよね。

得丸久文:
大きい方がいいの小さい方がいいの、エントロピー?

qbc:
どっちでもいいんじゃないんですか?

得丸久文:
いやいや、違う。エントロピーは熱力学においては、小さいほどいいんです。エントロピーっていうのは目に見えない揺らぎだから、揺らぎってない方がいいんだよ、通信やる間は。夏になるとラジオが聞こえにくかったりするのはそういうことです、エントロピーが上がっちゃうからね。
ところが、情報理論のエントロピーは大きいほどいいんだよ。どうしてそうなるの?これも学会で発表してるけど、それを正さないんだよ。
どうして情報理論のエントロピーは大きいほどいいかという間違いを犯したかというと、僕はアメリカの議会図書館に所蔵されているジョン・フォン・ノイマンが1949年にイリノイ大学で行った講演の、速記録をタイプ打ちにした原稿を見てきて、なんとフォン・ノイマンがそこのところを間違って講演した事実を発見したんだ。これ取ってきましたよって言って学会の人に伝えるのだけど、誰も興味示さないわけ、学会の人が。私達は私達で満足してますとか言うわけ。
電子情報通信学会の情報理論研究会は、東大の先生とか京大の先生なんか情報理論に絶対行かない。どちらかというとマイナーな高専とかその辺の先生が委員長をやってるわけ。東大の先生とか京大の先生とか情報理論は得にならないから、得丸がなんか文句言ってきて面倒くさいから行かない方がいいとか言って、みんな敬遠してるわけね。
僕も研究専門委員会には、もう何年も言うだけ言ってきてだめだったから、学会に、これ絶対おかしいから何とかしませんかと学会に言ったところ、いや、研究会の意向を尊重しますっていうから学会やめたんだ。そこまで言われてしまったら、学会にいる意味ないですよ。

過去:人類はもう鼻切れてるわけね。滅亡という。

qbc:
ちなみに、今やられてること自体はなんで始められたんですか?

得丸久文:
良い質問だね。僕はね、子どもの頃から地球環境問題に興味持ってたわけ。それで、会社入って、28歳か7歳の誕生日、1987年の10月27日の誕生日にサインした(契約した)、代理店契約があるんだけど、人工衛星、地球観測の仕事をやるようになったわけ。誕プレだね。
僕はそういうのをやりたかったというか、それに非常に興味持って、それでアメリカで研修とか受けて、1人でね。1人で1ヶ月アメリカ横断して、いろんなとこ行って専門家の話を聞いてきて、そうすると日本の中でもいきなり専門家になっちゃうんだよね。その縁でユネスコに2年いたし、それから、地球科学の専門家とも付き合ったし。で2000年から3年間は環境省の財団で地球規模海洋汚染のセンターで地球観測衛星をつかったシステム設計をやったんです。システム設計は3年間の任期だったんだけど、2年間でもうできちゃったわけ。2年間で導入しちゃったんだよ。
基本設計、概念設計、詳細設計、それから実地の製作までやって、全部込み込みで、2年かからなかったのね。それで、1年間空いちゃったわけですよ。仕事が。何にもない時期があったわけ。それが2002年。で、そのときにたまたま南アフリカのヨハネスブルグで環境サミットがあったわけ、WSSD。国連・持続可能な開発のための世界サミットっていうのがあって、たまたま人に、得丸さんよかったらNGOの人がいっぱい行くからちょっと来ませんかっつって誘われて、まぁじゃあ僕は行きますよ、手伝ってあげますよとか言って、そして渡航説明会に行ったら、外務省の局長さんが、「南アフリカは、4歳以上84歳以下の女性は全員レイプされますから、ホテルから一歩も出ないでください」と言ったんだよ。僕はそんなことはないですよ、僕が下見に行きますと申し出たんだ。暇だったから。
もちろん旅費をちゃんと出してもらったけど、公務員だったから行けたんだ。公務員って職専免って職務専念義務免除といって、要するに追加の有給休暇もらって6月に2週間ほど南アフリカに行って見てきたのね。そして8月下旬からの本番も3週間近く行ってきた。ヨハネスブルグサミットに専念できたんだ。

で何がわかったかというと、もう人類は滅びてると。
あなたね、競馬でね、馬がゴールを切るときってのは、鼻が切るときだよね。尻尾じゃないよね。鼻がいつゴールラインを切るかが勝負。人類はもう鼻切れてるわけね。滅亡という。で1馬身がね50年。
いつ切れたかっていうと1986年の人口50億超えて、1月にチャレンジャーが爆発して4月にチェルノブイリの爆発した1986年が、人類の滅びのファンファーレがチェルノブイリだったと思うんですけど。だからもうね、やばいと、もう滅びてるっていうことに気がついたわけ。あのときに。
みんなだってね、もう環境サミットとか言いながらNGOが日本からばあっと行くじゃん。
何したと思う?ゾウ見たんだよ。アフリカに行ったんだから、そんな他の国のNGOと話す時間もったいないと。まずゾウを見よう。ライオンを見よう。エコツーリズムってことも大事ですよって言われた。みんなね、自分のことしか考えないんだよ。NGOってネットワーク地球村なんかもね、みんな1日か2日はNGO会場にいて記念写真撮ってそれからサファリに行くんだよ。
もうひどいもんですよ。だからそれを見て、やばいと。ね。どこが間違って、——人類って何が間違ったんだろうって思ったわけ。言語が悪いのかって。それで人類学と言語学に入ってきた。それが2002年。

qbc:
性格って、人から何て言われます?

得丸久文:
変わり者って言われてる。

qbc:
自分ではなんて思ってますか?

得丸久文:
僕はね、あのね、嫌なことをしないんだよね。いやいや何かやったりするじゃん、日本人って割と。僕はできません。声がでかいから、そういうことをさせられると皆さんに迷惑かかるから。それでね、どこの会社か言えないけど会社でね、11年何ヶ月がいたんだけど、割とすぐ干されて。何もしなくていいと。それで、だから研究が進んだんだよねあれ。会社に行く前に図書館に行って、会社帰りに図書館行ってたから。

qbc:
すごい身近な人、家族、パートナー、親友。距離の近い人から言われる意外な一面とかってありますか?

得丸久文:
意外な一面ね。意外って何だろうね。意外。パートナー(妻)が今一緒に住んでますけど。意外。

qbc:
あ、ごめんなさい、意外性はなくても大丈夫です。

得丸久文:
今非常に気が合うパートナーと一緒に暮らしてるから。でもその、彼女がミュージシャンなんだけど、トランペット吹いてんだけど。僕がいろいろこう音楽についていろいろ言ったらさ、最初の頃だけどね、あんたに言われたくないって言われたんだよ。
音楽、僕何も知らないよ。だけど、これはおかしいんじゃないのとか言ったら、いやあんたに言われたくないって言われたんだけど。結構当たってたからね。その辺でなんていうか、僕はちゃんとした音楽の教育あんまり受けてない、塾とかも行ってないし、習い事とかもやってないし。なんていうの。
自然児じゃないけど自分の好きなことしかしないからね。好きなことはのめりこむわけですよ。嫌な事はしない。片付けが苦手だけど、例えばね、それは、妻が自分のできるとこまでやって、はいあとはこんだけやって、みたいになってるからうまくいってるわけで、人間みんな嫌いやなことしない方がいいよね。好きなことやってるのが一番いいから。

未来:もっともっと人類は楽しく生きれるし、もっともっと進化できるんです。脊髄反射の制約を乗り越えて。

qbc:
未来についてお伺いしたいんですけども、5年10年20年30年、最後ご自身が死ぬっていうところまでイメージして、どんな未来をイメージされますかね?

得丸久文:
あんまり考えてないんだけど、僕が先に死んだらパートナーは後追い自殺するって言ってるから、なるべく長く生きなくちゃいけないと思ってるわけね。
それで、もう一つは子どもの頃に見た夢で、スウェーデンでノーベル賞もらってる夢があるんだよね。それを、妻も僕と暮らすようになって見たって言うから。で、実際にスウェーデンに行ったときにデジャブだった。あ、ここ来たことあるって思ったんだよ。
だから、それがもしかしたら、実現したら、今のノーベル賞の仕組みでもらうかどうかわかんないけど、今やってる研究自体は、少なくともその価値があることは間違いない。
なんていうの、僕は道元の本出してるけど、道元のレベルのものを考える人たちってのは、やっぱり脊髄反射の制約をどうやって乗り越えるかっていうことを考えてるわけ。それから、荒川修作は知ってる?

qbc:
いや、知らないですね。

得丸久文:
初めてレオナルド・ダ・ヴィンチを超えたアーティストっていうふうに僕は呼んでるけど。
荒川修作っていう、日本人のアーティストがいるんだよ。岐阜に養老天命反転地ってあるけどね。

qbc:
あー!東京にもありますよね。

得丸久文:
三鷹天命反転住宅ね。

qbc:
あー!わかりました。知ってます。

得丸久文:
あれはね、何をやってるかって、それこそ人間の能力を高める、つまり脊髄反射の制約を取り去って、そのバーって、研究に燃えるように。僕もそこに1ヶ月ぐらい住んでたんだよ。そしたらね、クリックから始まって、母音が出るようになったとかがね、体の中で記憶が蘇ってきてね、1人でそれをやってたわけ。体の中に記憶があるんだよ。そういうのが出てきたり。
目が急にね、なんか、バーンってね、目がレンブラントの目みたいにね、光がバーっと見えてくるんだ。わー美しいって。世界は美しい! わー、この光、あっちからも光、こっちからも光、わー、影が美しい、光が美しい、みたいに目が変わったりとかね。そういうことを経験してるんです。
だからみんながそういうものをわかるようになってくると、もっともっと、オモシロイ。人類はもっともっとやることあるわけ。もっともっと人類は楽しく生きれるし、もっともっと進化できるんです。脊髄反射の制約を乗り越えて。もっともっと、もう勉強が楽しくてしょうがない。もう生きていくのが楽しいっていうな風になれるんですよ人間は。それが僕の夢だね。
もう、そういうふうに気が付けば、好きなことだけやって楽しい、もうみんながみんな、わー楽しい、僕は今日もこんな発見があった楽しい、あなたは?僕も楽しい。みたいな、そういうふうに人類が変わればね、いいよ。そしたらもう人類はもうまっすぐ生きていけるよ。

qbc:
もしもの未来の質問というのをしていまして。もしもヨハネスブルグで、人類の滅亡に気づかなかったとしたら、どういうふうな人生になったと思いますか?

得丸久文:
僕は、3年間、県の役人、公務員をやったわけだけど。「地方公務員法第1条 仕事に心を込めてはいけない」って書いてあるなんていうジョークを使ってたんだけど。
みんなそこそこしかしないんだよね。なんでかっていったら、上司に嫌われないようにだけやってるわけ、みんな、なんかもう細々と一生懸命やってる。休まず遅れず働かずってね、休まず遅れず働かず、休まず遅れず働かずって毎日生きてるわけ。そういう中で、ある意味では、仕事が全然暇だったから、そこまで思いついたわけです。
何が言いたいかっていうと、もしも気がつかなかったからって言うけど、やっぱね、みんな忙しすぎるんだよ。忙しいと気がつかない。
僕も商社マンもやってたけど、4年間ロンドンで駐在員やってるときなんか、週に1回出張行って、あとは事務所で事務作業しかやってなかったから、結構楽だったんだけど。なるべくみんなね、楽をしようと。ほら、日本人って何か頑張ってます、僕頑張ってます大変なんですって言って、周りから認められようとするようなとこあるじゃない。

qbc:
はい。

得丸久文:
そういうのやめようよ。その一方で人を後ろ指したりさ、そういうのやめて、一人一人みんなね、好きなことをやろう、楽しくやろう。のんびりやろう。ね。
もううちテレビないですよ。もう何十年もテレビない、僕んとこに。テレビは邪魔。今、新聞も邪魔ね。必要なものはね、入ってくるから。もうテレビは音がするだけで、僕はイライラしてね、やめてくれない?消してくれない?って言うんだ。それがあるとこに行くとね、うちにはないけどね。
とにかくみんなね、静かに生きましょう。そしたらね、人間性が豊かになりますよ。そういう生き方をしようよって。そうしたら気がつく。そうじゃなかったら気がつかなかったと思う。
僕はね、株で大儲けするチャンスもあったんだよね。だけどね、何十億円儲かるような話があったんだけど、迷ったんだよ。ここで買ったら、どうなるかって。手元に金はあったし、電話1本で買えるだけの関係が株屋とあったから、ね。大銀行の株が10円切ったときあるからね、全部ね、それを何万株っていうか、何十万株買おうってしたら買えたんだけど。買わなかったんだよね。
君たちの世代はみんな貧しいさ。就職氷河期の世代なんかもいるわけでさ。僕どっちかと言ったら若い人たちの近くにいた方がいいなと思った。その方が楽しいと思う。お金がない方が楽しい。金より時間。

qbc:
最後の質問は、最後に言い残した言葉っていうので、遺言でもいいですし、読者向けメッセージでも、インタビューの感想みたいなものでも大丈夫です。最後に言い残したことがあればお伺いしております。

得丸久文:
もう結構、ヴィゴツキーやパブロフのことも話させてもらったし、荒川修作も出てきたから、言うべきことは言ったよな。一時間でこんだけ喋れたってのは、それはなかなか良いインタビューだったと思いますよ。

qbc:
ありがとうございます。

得丸久文::
こちらこそありがとうございます。言い残したことって。あのね、じゃあ一つ言うとしたらね。
僕は今、研究やっててね、一昨日研究会行って、あなたの研究はどうやって認められるんですかっていう質問が出てきたんだけど、認められてない理由は、まぁ教科書に嘘が書いてあるって一つ言ったけど、もう一つはね、やっぱりね、キリスト教の問題ですよ。
キリスト教の人たちはいいんだけど、やっぱりね、人間中心主義だし、自分が偉くて他の人を蹴落としてもいいと思ってるし、聖書に書いてあることが絶対であると思ってるんだよね。だから、人類の知能の問題とか、例えば文法がどうやって処理されてるか、そのしくみはちらっと言ったけど、デカルトは、人間は文法が使えて動物は使えないから、どんなに馬鹿な人間も文法が使えて、どんなに賢い動物も文法を使わないから、人間には理性があって、動物には理性がないんだっていうようなことを、デカルトは言ってるわけですよ。
間違ってるよ、デカルトは。そもそも人間は動物だし、理性とは何かも定義していない。
だけど、そういう間違いに切りこんでるから、僕の研究は、発表する場はどんどん減ってるわけ。もう来ないでくれって言われるわけ。
で、それはしょうがないんだけど、だから日本人の人とかそういう人たちがもっともっと勉強して、僕の本を読んでくれたり一緒に考えることで、戦うしかないのね。
アメリカなんてだってね、進化論を教えないような国でしょ。その人たちが牛耳ってるわけだ、学会を。ね、チョムスキーなんかもそういうとこあるわけですよ。チョムスキーの言語学ってのは大事なことを考えないための言語学だから。どれだけの人が、チョムスキーによって潰されたか。
そういうとこがあるんで、だから皆様の力が必要なんですよ。読者の方に対して言えば。もっとみんな頭を冷やして、一緒に人間を、人間を進歩させるために、自分が楽しく生きるために頑張りましょう。本を読んで、丁寧に読むと面白いことに出会えるから、もっと勉強しましょうって。人間は勉強するために生まれてきた動物だと僕は思ってるから。好きな勉強すればいい。

「チョムスキーによって潰されたか」の部分については、
また別に細かくお伺いしました!!!!!


あとがき

つ、疲れた。
インタビューというのは、
1,もやもや頭の中のイメージ
2,(これが言いたかったことかも?!)
3,これがいいたかったことだ!
という段階があったとして、
1から2へ、2から3へ、を促進する環境全体のことを指すのでは? と思った。

【インタビュー・あとがき:qbc】

【編集:本州】

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