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散歩のススメ

外の風に触れると思考を覆っていた雲が綺麗に晴れ渡っていく。

太陽光が促すセロトニン分泌。
植物は光合成。
お日様の力は昔からずっと当たり前に偉大だった。


知らない道、雑草に紛れて咲く花、路地裏の猫、おしゃれなポスター、いつのものかわからない落書き。
これまでの自分とは全くかけ離れた解像度で世界が見えていく感覚。

ご飯の匂いがする。魚の匂い。肉の匂い。微かに聞こえるまな板と包丁がぶつかる音。やかんがビーっと音を立てる。
お風呂が沸くときのガスの匂い。入浴剤の強い香りに掻き消されてむわっとした蒸気がもれてくる。
誰かが話す声、テレビの音、ラジオの声、知らない音楽、足音。
それらは全て人が生きている形跡。

エンジン音。クラクションが鳴る。信号機の音。びゅんびゅんと風の擦り切れる音。自転車のベル。ランドセルの中で教科書がぶつかり合う。体操着袋を蹴ってポスッ。蹴った石が電柱に当たって側溝に落ちる。水が跳ねる。藻が張った独特の生臭さ。腐った牛乳の匂い。刈りたての雑草は青臭い。

波が消波ブロックに消されていく。わずかにあがる水しぶき。一瞬の夏と生ぬるい秋の風。潮の匂い。ベタベタ。吸い込んだ空気もベタベタ。肺までしょっぱくなっていく気がする。鴎の泣き声。釣り竿が水面にぶつかる。ピシッ。打ち上げられるペットボトル。ここでも何かが腐った匂い。

全部の刺激が鮮明で、どれを意識しているわけでもないのにすべてが自分の中に流れてくる。
風を掴んで離さない。向かい風で息が止まる。それで変わらずに動き続ける鼓動。
自分の意志なんかないようにまっすぐ進む、歩みは止まらず。

どこまでもどこまでも続いているような気がする一本道。
ずっとずっと歩き続けたらまたこの場所に戻ってこよう。
地球は丸いんだから。どこかにきっと繋がっている。

見えているようで見ていなかったもの。
人の動き。
街の動き。
風の流れ。
川のせせらぎ。
波の鼓動。
五感が街に溶け込んでいく。
自分の輪郭が街に吸収されていく。
すれ違う人並みに溶け込んで、また形を取り戻していく。
社会の歯車は地球の歯車で誰かの歯車。
バタフライエフェクト。
落とし物。小さなハンカチ。飲みかけのコーヒー。ビニール袋。茶色くサビたビニール傘。
誰かのものが時間をかけて社会のごみに姿を変える。

一期一会。
五感のすべてが今とさっきじゃ違うから、今の感覚は二度とない感覚。
違う顔、声、匂い
違くないのかも。
でも、同じものに思えないもの。
日常。毎日。当たり前。生活。人生。
進んでいく。
同じリズムで進む時間。
不可逆的な地球の鼓動。
止められない。
道。街。人。私。あなた。


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