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大学授業一歩前(第149講)

はじめに

 今回は公共哲学がご専門の山脇直司先生にインタビューをお願いしました。大変お忙しい中、お時間を割いて頂きありがとうございました。是非、今回もご一読下さいませ。

プロフィール

Q:ご自身のプロフィールを教えてください。

A:学園紛争の時代に一橋大学経済学部で過ごしました。塩野谷祐一ゼミで経済政策論を勉強しつつ、他方で実存主義哲学の本も読んでいました。修士課程は上智大学大学院哲学研究科に入学し、外国人の先生方から近現代哲学を学びその後、ドイツのミュンヘン大学の哲学部に留学し、哲学博士号を取得しました(博士論文のテーマは「現下の学問論争に関する試論」、口頭試問は政治哲学およびカントとヘーゲル、副専攻は日本学と神学)。詳しくは『私の知的遍歴 哲学・時代・創見』でも書いていますので、良ければそちらもご一読下さい。
 日本に帰国後は東海大学、上智大学を経て東京大学教養学部・総合文化研究科で25年間勤務しました。東大駒場では社会思想史と公共哲学を学部と大学院で担当しました。退官後は通信制で社会人が多く学ぶ星槎大学で2019年3月~2023年3月まで学長を務め、4月以降は特任教授として研究を続けます。

オススメの過ごし方

Q:大学生にオススメの過ごし方を教えてください。

A:それぞれの方の問題関心によって多種多様であるため、一概には言えません。ですが、コロナ禍が収まりつつある現在では、今までなかなかできなかったサークル活動や良き仲間、友人を作る機会を存分に活かし、楽しんで欲しいと思います。ただ、「孤立し過ぎること」や「なれ合いだらけの生活」といったことは避けるべきです。うまく、その折り合いをつけるように。
 また、将来なりたい自分像を思い描いてほしい。そのためには時には悩むことも必要でしょう。刹那的に過ごさず、将来を見据えて役に立つであろうことを身に付けることも大切です。

必須の能力

Q:大学生に必須能力はどのようなものだとお考えになりますか。

A:z世代やスマホ世代の方々に必要なのはやはりメディアリテラシーでしょう。特に、SNSの便利さと危うさを見分ける能力フィルターバブルに陥らずに多様な見解や意見に耳を傾け柔軟に自分の思考を形成する力、そしてChat GPTとの適切な付き合い方といった能力が求められると思います。
 インターネットを使う時には以下の点も気を付けてほしいですね。例えば、ネット上にある情報を見た時、それが嘘か事実かを見分け、記載されている情報のソースを確認するといった行為もインターネットを使う上では怠ってはいけません。
 また、メディアリテラシー以外では、公と私のけじめつけること、カミングアウトとアウティングの違いを理解すること、LGBTQやハラスメントに関する知識の習得、そして学生として最低限のモラルは持つといったところでしょうか。

学ぶことの意義

Q:先生にとっての学ぶことの意義を教えてください。

A:教員は学び続ける存在であるべきです。そのためには「無知の自覚」をわきまえ、古い知識をアップデートし、常に新しい知識と知恵を探求しなければなりません。
 論語の一節である「学びて思わざれば則ち罔し(くらし)、思いて学ばざれば則ち殆し(あやうし)」は私の座右の銘です。自分自身がどのような存在であるかだけでなく、なりたい自分を考え続ける際には、過度な卑下やナルシシズムはもちろんいけませんが、自己肯定感も必要です。
 常に間違いや失敗から学び、それを糧にしています。
専門の思想史に関しては、温故知新のスタンスで学び続けています。

オススメの一冊


 Q:大学生にオススメのの一冊を教えてください。

カント著・宇都宮芳明訳 (1985)『永遠平和のために』岩波文庫。

A:一冊だけを挙げるのは非常に難しいですが、現在の国際情勢を鑑みるとカントの『永遠平和のために』が一番オススメかと思います。カントの描いた平和とはどのようなものなのかを是非読んで、彼の平和論の実現可能性と現実とのギャップなどを考えてみて下さい。

メッセージ

Q:最後に大学生に向けてメッセージをお願いします。

A:様々なことに挑戦し、失敗して落ち込んだ時でもその失敗からよく学びそして立ち直り、悔いの残らない学生生活を送って下さい。まさに、このような生き方こそが「活私開公」へと繋がる一歩なのです。

おわりに

 今回は公共哲学がご専門の山脇直司先生にインタビューをさせていただきました。お忙しい中、お時間を割いて頂きありがとうございました。このnoteでも何度か触れているのですが、そもそも私自身が哲学に興味を持ったきっかけは先生の『公共哲学とは何か』を拝読したことでした。

山脇直司(2004)『公共哲学とは何か』ちくま新書。

 そこから、「コロナ禍で私に何かできることは無いだろうか」と考え、このnoteを始めました。最後の最後に、きっかけとなった一冊の著者である山脇先生にインタビューができたことは本当に光栄です。ありがとうございました。
 次回の第150講で「大学授業一歩前」のマガジンは終了しますが、今後は長い長い社会人大学院への道を少しずつ記事化していきたいと思います。次回の最終講もお楽しみに!!

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