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大学授業一歩前(第114講)

はじめに

今回は哲学などを研究してらっしゃる小林卓也先生に記事を書いて頂きました。お忙しい中作成して頂きありがとうございました。是非、今回もご一読下さいませ。

プロフィール

Q:ご自身のプロフィールを教えてください。

A:1981年京都に生まれました。大阪大学大学院に進学し、現代フランスの哲学者ジル・ドゥルーズの自然哲学に関する研究で博士号を取得(人間科学)しました。現在は、大阪大学人間科学研究科にて招へい研究員をしつつ、いくつかの大学で哲学を教えています。加えて、2021年5月より、社会人や主婦(主夫)の方々、定年退職された方々など一般の方々を対象に、学びの場を提供する「ソトのガクエン」を設立し、代表を務めています。

オススメの過ごし方

Q:大学生にオススメの過ごし方を教えてください。

A:自分の学部時代を振り返ったとき、講義をサボって賀茂川沿いでマルクスの『資本論』を読んだこと、京大で開催される浅田彰の新入学生向け講演会に潜り込んだこと、放課後や休み期間中に、恩師と友人の三人で様々な哲学書を読みあったことが思い出されます。大学の講義や単位、友人関係ももちろん大切ですが、一度「大学の外」に目を向けてみてください。講義や単位の外、大学の友人関係の外へ積極的に出向きそこで得た経験は、必ずいつかの皆さんの血肉となるはずです。「大学生は、社会人までのモラトリアムな(猶予)期間だ」と言われることがありますが、これを逆手に取れば、失敗しても(ある程度は)許されるのが大学生の特権なわけですから、やりたいことをなんでもやりましょう。

必須の能力

Q:大学生に必須の能力はどのようなものだとお考えになりますか。

A:高校教育の賜物でしょうか、これまでさまざまな学生に出会ってきましたが、大学生に必要な能力、読み(メール、ライン)、書き(ワード、パワポ)、そろばん(パソコン、スマホ)については、十分に高い能力をお持ちだと思います。なので、敢えて言えば、ひとりで過ごすこと、ひとりで行動することを恥じない姿勢でしょうか。単位に関係なくありとあらゆる講義やゼミに出席し、空き時間にはひとり図書館に籠って本を読み、休日は映画館や美術館に通う。何をきっかけに開眼するか、何が自分の糧となるのかは本当に分かりません。世界のすべてを知りつくす気持ちで、あらゆる分野・人間関係に飛び込む気概をつねに持つことができれば良いですね。

学ぶ意義

Q:ご自身にとっての学びの意義を教えてください。

A:例えば、ダイエットに成功したならば、激しい運動や過酷な食事制限にも意味があった、意義があったと言えます。つまり、意義や意味というものは、何かを成し遂げて(あるいは失敗して)初めてその有無が明確になるものだということです。残念なことに(あるいは幸いながら)、学ぶことに終わりはありません。何かのため、何かの手段として学ぶことも大切ですが、なによりも、学ぶことそのものを楽しみましょう。

オススメの一冊

Q:オススメの一冊を教えてください。

A:哲学の講義をしていると、「何が正解なのですか」「どちらの哲学者の言うことが正しいのですか」と質問されます。哲学者は自分の主張に命を賭しているかもしれませんが、私たちがそれと心中する必要はもちろんありません。哲学もまた時代によって変化するのは当然で、さまざまなヴァリエーションがあって良いわけです。

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デカルトの『省察』は、普遍的な真理を探究する古典的な哲学の典型であり、なおかつ、ひとりで面白く読み通せるものとしておすすめです。(画像はルネ・デカルト著・ 山田 弘明訳(2006)『省察』ちくま学芸文庫になります)

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これに対し、哲学といえども固有の牙城に閉じこもるのではなく、隣接する自然科学や社会科学と連携すべしとする戸田山和久『哲学入門』(ちくま新書)は、アップデートされた現代版の哲学としておすすめです(結局、オススメの二冊になってしまいました)。

メッセージ

Q:最後に大学生へのメッセージをお願いします。

A:そもそも大学時代は、自分が未だ何者でもないことに思い悩みます。加えて、日々変化する感染状況や政府判断に振り回されるこのコロナ禍ですから、まったく先行きが見通せず、大変困惑されていると思います。今後はこれまで以上に、世間に惑わされずに情報の真偽を見極め、合理的(科学的)な基準に基づき、なおかつ倫理的な判断をすることが求められます。そのとき、最終的に身を守るのは、学問(哲学、科学、倫理)だと僕個人としては確信しています。世間や社会の雰囲気に決して屈することなく、自分の糧となるものを拾い集め蓄え、来るべき春に備えておきましょう。

おわりに

今回は哲学などを研究してらっしゃる小林卓也先生に記事を書いて頂きました。お忙しい中作成して頂きありがとうございました。先生が運営なさっているサイト「ソトのガクエン」も是非ご覧ください。勝手ながら、大学の勉強を外に発信するコンセプトは非常に近いものだと私自身は考えております。学びは大学だけじゃない!「一歩前」へ踏み出すきっかけになれば幸いです。次回もの楽しみに!!


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