大学授業一歩前(第105講)
はじめに
今回は書籍を編集してらっしゃる杉本健太郎様に記事を寄稿して頂きました。お忙しい中作成して頂きありがとうございました。是非、ご一読下さいませ。
プロフィール
Q:ご自身のプロフィールを教えてください。
A:高円寺在住の書籍編集者です。フリーであれこれやってます。思想・哲学研究書や戦後のサブカル論など、主に学術系の書籍を作っています。
例を挙げると、第104講に登場した石浦昌之君の『哲学するタネ』全3巻。3巻完結で1000ページを超えるボリュームで、ちょっとどうかしてるんじゃないか?というぐらいの勢いで作った本です。現在は、「哲学芸人」のマザー・テラサワさんの読書会パンフレットの制作などに重点的に関わっています。
オススメの過ごし方
Q:大学生にオススメの過ごし方を教えてください。
A:10〜20代の頃に関心を持った対象から人は一生逃れられませんので、興味のある人や事柄には遠巻きにでもにじり寄るといいです。1990年代末に私が大学生だった頃は、渋谷ジァン・ジァンの加奈崎芳太郎さん(ex.古井戸)のソロライブに足繁く通いました。しかし、加奈崎さん自身がただごとじゃなく雰囲気が怖かったので恐る恐る接近しました。それから20年の時を経て様々な機が熟し、2019年に加奈崎さんの自伝本を編集する機会を得ました。
必須の能力
Q:大学生に必須の能力をどのようなものだとお考えになりますか。
A:まず「能力」と「才能」の違いを明確に意識したほうがいいと思います。たとえば、コミュニケーション能力だとか企画力だとかリスクを管理するスキルだとか、そういう能力だったら社会の動向にひきずられながらであっても、程度の差はあれたいていのことは身につきます。しかし「才能」は「能力」とは違う。自らの才能を問う瞬間から否応なく人生観が問われますから、まずそのことをよく考えたほうがよいでしょう。
学ぶ意義
Q:ご自身にとっての学ぶ意義を教えてください。
A:学びに意義があるとすれば、歴史に責任を持つことだと思います。その気になればあらゆる情報を個人の力で精査して読み解くことすら可能な時代ではありますが、しかし昨年来、世界の状況が急激に変わる歴史的な変動の途上にわれわれは生きています。何をどう学ぶのか嗅覚が問われています。
「過去とはすべて他人の国である」という言い方もあるように、現在を読み解き未来を見通すためには、他者に開かれた歴史感覚を持つことが大事だと思います。
オススメの一冊
Q: オススメの一冊を教えてください。
A:ワクサカソウヘイさんの『ふざける力』(コア新書、2015年)をなるべく早めに読んでください。「構図からの逸脱」を説く独自の実践哲学が語られています。タイトルの通りふざけた本なので一読してなんのことだかわからないかもしれないです。しかし、わからなくてもいい。そこに価値があります。「ふざけ」あるいは「遊び」が人間にもたらす作用とその価値がわかると、ふだんの暮らしの光景すら違って見えてくるでしょう。
メッセージ
Q:大学生へのメッセージを最後にお願いします。
A:私は今年43歳になりましたが、40代は人生観が問われます。そこで私は40歳を過ぎたとき「もう努力はしない」と決めました。これからは才能だけですべてを解決する。ただ、30代までは努力したほうがいい。人生時間は有限ですし、人間も社会も脆いものです。「昨日まであたりまえのようにできたことが今日からできない」という不条理をパンデミック以降、誰もが肌身で感じたはずです。今の時代にできることを最大限にやってください。
おわりに
今回は書籍編集者の杉本様に寄稿して頂きました。
実は、前回の第104講の石浦先生の『哲学するタネ』を編集してらっしゃった方で、連続の投稿をさせて頂きました。本は作り、編む多くの方々による営みだと私も改めて実感しました。次回もお楽しみに!!