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大学授業一歩前(第145講)

はじめに

 今回は環境倫理学がご専門の太田和彦先生に記事を寄稿して頂きました。お忙しい中寄稿して頂きありがとうございました。是非、今回もご一読下さいませ。

プロフィール

Q:ご自身のプロフィールを教えてください。

A:太田和彦です。同姓同名の方が居酒屋探訪をなさっていますが、それは別の方です。環境倫理学が専門で、食農倫理学や土壌の人文学、日本酒、シリアスゲームについても研究しています。
 いろいろな分野に手を出しているように見えますが(実際にそうなのですが)、いずれのテーマにおいても、『社会の持続可能性を向上させるための移行(sustainability transition)』という共通項があります。
 1950年代以降、人口や食料生産、エネルギー消費、経済規模、そして生態系の状態は、それまでの人類史の数千年とは比べものにならないスピードで変化しています。そのため、先人の培ってきた"これまでの続き"を単純になぞるだけでは、より望ましい社会を作ることはもちろん、"これまで"を持続することすらできません。そのような世界で、私たちはどうすれば良いのか? というのが大きな問いです。

オススメの過ごし方

Q:大学生にオススメの過ごし方を教えてください。

A:たくさん見たり聞いたり出かけたり読んだりすること、そして、その後によく眠ることをお勧めしたいです。
 図書館、博物館、美術館にいると猛烈に眠くなる人はいませんか? 私はなります。そんなときは無理をせず、隅っこのソファで5分くらい居眠りしてから戻ると、それまで私たちを圧倒するかのようだった本や作品の味わい方の納まりどころがなんとなくわかってきます。

必須の能力

Q:大学生に必須の能力を教えてください。

A:能力というか習慣ですが、日誌を書くこと、または講義ノートや、本への書き込み、アイディアのメモに日付をつけることを挙げたいです。五年後、十年後、自分の状態を知るための日記代わりになります。
 デジタルデバイスは便利そうに見えて、じつはサービスが終わると読めなくなることがあるので、嵩張りますが紙媒体の手帳に書き残しておくのがお勧めです。

学ぶことの意義

Q:ご自身にとっての学ぶことの意義を教えてください。

A:人の話をますます面白く聞けるようになることです。
 さまざまな分野の教科書に載っている専門知の歴史的背景や、人や技術や生態学的条件とのつながりを知ると、人類がこれまで這いずってきた痕跡を辿れるようになります。そうすると、いままさに這いずっている人類の一人として、尽きせぬ滋味を汲むことができるでしょう。
 限られている快の幅が広がることは、学ぶことの意義の一つであるように思います。

オススメの一冊

Q:オススメの一冊を教えてください。

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A:読書猿(2020)『独学大全』ダイヤモンド社。
 読書猿さんのブログは修士の頃からずっと読んでいるのですが、このブログに出会わなければ得られなかった基本的なスキルセットに支えられて、いま研究を続けられています。
 勤務校の学生さんたちの話を聴いてみると、「書籍を読むのが苦手」という方のほとんどが「書籍を1頁目からじっくり読んでいる」らしいこと、そして「それ以外の読み方を知らない」ことに気付きました。
 そこでお勧めしたいのが、本書で紹介されている複数の書籍の読み方を身に着けることです。例えば、以下のような読み方が紹介されています。

・技法34 知らずに使っている最速の読書法「転読」
・技法35 必要なものだけを読み取る「掬読」
・技法36 文献と対話する「問読」
・技法37 決まった時間で読み終える「限読」

 また、「1冊を読み始めたら、その書籍を読み終わるまで読み続ける」という方も多いようなので、思い当たる方には以下の項目がお勧めです。書籍を点ではなく、線あるいは面で読むための足場となります。

・技法28 多くの文献を一望化する「目次マトリクス」
・技法29 文献のネットワークを掌握する「引用マトリクス」
・技法30 文献の群れを貫通して読む「要素マトリクス」

 これらの技法を知ることで、もっと自由に書籍・資料と付き合うことができるようになるのではと考えています。

メッセージ

Q:最後に学生へのメッセージをお願いします。

A:生物個体に必要な、親族や仲間から学ぶ「すぐに使える知識」だけでなく、「使い方はわからないが、何が起こるかわからない状況で、アクセスできるようにしておきたい知識」が、思ってもみない仕方で身を助けることもあります。
 大学時代に、いろいろ味わったり、飲み込んだり、吐き出したりをくり返すのが良いと思います。幸運を!

おわりに

 今回は環境倫理学がご専門の太田和彦先生に記事を寄稿して頂きました。お忙しい中寄稿して頂きありがとうございました。

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  先生の訳書『食農倫理学の長い旅』勁草書房を拝読し、今回寄稿の依頼をしました。私達が生きる上では欠かせない食べること。ですが、地球上の資源は無限ではなく、食料もまた有限なものです。一体、どうすれば私達は食べることを続けることができるのか。食べるという日常の行為から生まれる難解な問いに答えを示してくれる一冊です。オススメの一冊です!!次回もお楽しみに。




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