朝日新聞で長年勤務して「吉田調書」事件の当事者となった元朝日記者の自伝。題名は正確に言えば「朝日新聞政治部と特別報道部と「吉田調書」事件」といった感じ。重要な登場人物はすべて実名の内部告発ノンフィクションになっている。
前半では大手新聞社における政治部での仕事が描かれているが、このように「いかにして政治家と親密になり食い込むか」が勝負であれば、必然的にジャーナリズムである政治家批判などは難しくなることが良く理解出来る。
後半では特別報道部で自由に意義のある調査報道を行い高い成果を挙げ、そして例の「吉田調書」事件により危機管理能力に欠けた会社経営陣らに半ば詰め腹を切らされる形で地位を失い、会社に失望して結局50歳くらいで朝日を去る経緯が描かれている。
個人的な感想としては「命令違反」という言葉はニュアンスが強すぎて誤解と非難の入り込む要因になったのではと感じたが、著者の述べるように記事そのものは決して「誤報」などではない。しかし保身に走り正しい判断能力と危機管理能力に欠けた社長以下の会社経営陣らは「記事取り消し」を決め現場の記者の処分してしまう。一連の経緯を通じて「朝日新聞は死んだ」と著者は記すが、この本を読めば今まで権力に煙たがられてきた朝日がいかに凋落して「死んだ」のかが良く解る。
(2023年8月27日)