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ちょっとした不便さを愛し続けたいので。

4年半ぶりにアメリカという地に降り立つ。
ちょっと甘い香水に、ちょっとした埃の匂いと、日本では違法な草の匂いがブワッと私を迎え入れてくれた。すでに懐かしい匂いだ。
私は結構この匂いが好きだったりする。日本には無いこの不思議な街の香り。

私はすっかりアラサーだというのに、この匂いだけで自分が大学生であるように錯覚してしまう。機内でアメリカ大陸が見えてきたあたりから、胸が高鳴り、国際遠距離をしていた夫に会える嬉しさで機内で涙が込み上げてきたものだった。でも今回は隣に夫がすでにいるものだから、大学生な気持ちになるのに視覚的にはすっかり大人になっていて、ちょっと変な気持ちになった。
ときめきと好きな街の香りで、私はすっかり大学生の気持ちなのに、びっくりするほど時差ぼけするようになった。去年からということも考えると、もしかしたら病気を発症したことで、前より疲れやすくなってしまったのかもしれないなぁ。
どんなことであれ、私はどうやら大学生ではないらしい。

今日も、旅行中だが必要な作業が発生して、1人ローカルカフェで注文をしてどうにか1人で過ごすのも、大学時代とはずいぶん違う景色になった。
夫に引っ付きまわって楽しく過ごしていた時期から「1人でも過ごせるようになりたい」という気持ちも強くなってきている。
現にカフェで1人で行くなんて、考えられなかった。昔の私なら先にカフェに一緒に入って、「じゃあまたね」なんていう注文もろくにしないいいとこ取りしかしなかったに違いない。私はそういう時かなりずるいから、そういうことをしてきた。

アメリカ滞在中、一軒家のAirbnbに泊まっているのだが、地味な不便があったりする。
ちょっと調理器具が大きくて手に馴染むのに時間がかかったり、玄関で靴を脱いだ後にスリッパを履かないとちょっと足裏が汚くなったり、シャワーの温度調整が結構難しくてあっという間に熱湯になったり、曇った鏡にドライヤーを当てても霧が晴れなかったり。ちょっとだけ、ちょっとした不便がある。
こんな不便は昔からちょっと好き。便利でスマートなのは、確かに便利なんだけど、ちょっとスマートすぎると愛せない天邪鬼な自分がいるのを自覚したりしちゃって。
ちょっと不便なくらいの生活のほうが、自分は暮らしを楽しむ工夫ができるから好き。考える対象になるから、愛が込められて愛しいものになっていく。
クーラーがなくて明け方ちょっと肌寒い部屋の中から、素敵な庭を窓越しで眺めながら不便さのある生活をちょっと願った。

このまま順当にいけば、来年の今頃にはすっかり日本を出て、海外での生活が始まっている。来年の私は生きるために必死で語学学校に通っているはず。昨日も通りすがりのワンコと戯れるための会話もできず、ただ注文をしてレシートをもらうだけの会話しかできてない。
これができるようになったのも、夫についていっただけの時代からすると随分と進化したものだけど、まだまだ生きていく、仕事をしていくには全く足らないものだ。

人生まだまだできないことだらけで、楽しいものだな。
言葉までうまくいかないのは、結構フラストレーションが溜まるだろうけど、留学とは違って日本語の分かる夫がいるしある程度はカバー出来そうな気がする。今回は1人で戦うんじゃなくて、2人で戦うから大丈夫。

日本をしっかりと出たい自分を明確に理解できた。
ちょっと不便で、でも自分の成長を感じられて、ちょっと素敵な街並みに囲まれながら、地に足をつけて生きていきたい。
そして私は海外独特の色使いも大好き。そんなこれまで見てこなかったクリエイティブに囲まれた毎日を過ごしたい。

あとに1年もない中で、どこまでやり切れるか自分との勝負になる気がしてきたなぁ…。私は、私たちは、やり切れるだろうか。
やり切るんだけど、しっかり望んだ生活に向かって着実に歩めるかは努力の仕方が重要になると思う。

今日も素敵な晴れ模様のアメリカ。
私たちもこのカラッとした気持ちで日本を出て、良い笑顔で新天地に足を踏み入れたい。

次にわんこに会った時には、ちゃんと「Paw(お手)」を言えるようにしないとね。

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