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【読書感想文】ライオンのおやつ

あらすじ

男手ひとつで育ててくれた父のもとを離れ、ひとりで暮らしていた雫は病と闘っていたが、ある日医師から余命を告げられる。最後の日々を過ごす場所として、瀬戸内の島にあるホスピスを選んだ雫は、穏やかな島の景色の中で本当にしたかったことを考える。ホスピスでは、毎週日曜日、入居者が生きている間にもう一度食べたい思い出のおやつをリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫は選べずにいた。     ポプラ社HP 引用

感想

主人公の海野雫は、周りに迷惑をかけないよう良い子でいようと努力し、我慢してきた。

そんな雫は癌が見つかり、抗癌剤治療で戦うも克服することが出来なかった。

それも、“癌と戦って克服したよい子”でいようと努力した結果であったのであろう。

彼氏とは次第に疎遠になり、それでもまだ“これで良かったのだ”と良い子であり続けようとしてしまう。

ホスピスに入り、それを家族に伝えていなかったのも、“周りに迷惑をかけたくない”気持ちが強かったのだろう。

先回りして相手の気持ちを推しはかり、相手が喜んでくれるなら自分を犠牲にすることも厭わなかった。相手が笑顔になってくれるなら、それが自分の幸せなんだと信じて生きてきた。                   ーライオンのおやつ P.35引用ー

ありたい自分と今の自分、その差に誰でも葛藤はあるのかも知れない。

最後を迎えようとしている雫には、理想とする最後と心と体が自由にならない現状が、その日その日で波のように押したり引いたりしている。

しかし、ライオンの家代表のマドンナや、島民のタヒチ君、ホスピス仲間と出会い、別れを経験していく中で生まれた感情は、“まだ生きたい”という、雫そのものの素直な願望であった。

今まで、自分を抑えていた部分があった雫が、自分の感情を認め、言葉にすることで、今を受け入れることが出来たのだ。

ただただ今を生きることがこんなに愛おしく、尊いものである。

人が最後を迎える時、生まれたての赤ちゃんへと戻り、ただ食べて、寝る。そして、心地よい感情や欲望に身を任せる。

頭ではわかってはいるけど、実感することが難しいそんな感情を、この本はすんなりと受け入れさせてくれる。

ライオンは敵に襲われる心配がないのです。安心して、食べたり、寝たり、すればいいってことです。                      ーライオンのおやつ  P.136引用ー

自分が最後に食べたいおやつは何だろう。

最後に会いたい人は誰だろう。

最後にやりたいことは何だろう。

人生に終わりはあるが、その余韻はどこまでも響いていくのだ。

だから、今を精一杯、心地よく生きよう。

誰かのためだけではなく、自分を愛する為に。

こちら側からは出口でも、向こうから見れば入り口になります。きっと、生も死も、大きな意味では同じなのでしょう。私たちは、ぐるぐると姿を変えて、ただ回っているだけですから。そこには、始まりも、終わりも基本的にはないものだと思っています。 -ライオンのおやつ P.15引用ー

想いっ切り泣きたい時、自分が愛せなくなった時におすすめの一冊。

#読書の秋2020 #ライオンのおやつ

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