見出し画像

やりたいことを、全部やる夏に。

夏という概念が好きだ。

海。
浴衣のお出かけ。
手持ち花火に、打ち上げ花火。
お祭りの屋台。アイスクリーム。
暑いねと言い合いながら歩くこと。

これは、「夏」をすべて叶えようとした私の、6月から8月にかけての記録である。

6月:夏に備えよ、梅雨を攻略せよ

6月8日。

夏のはじまりは、文字通りそのまま「初夏」と書くのにふさわしい一日だった。

この日の目的地は、八景島。

水族館という場所が好きなのにこれまで八景島シーパラダイスには行ったことがなくて、ずっと行きたいと思っていた。
おまけに6月の八景島は、あじさい祭りを開催中。
水族館の生き物たちも、海そのものも、紫陽花も、すべてが見れるとあっては行かない理由なんてなかった。

電車で八景島に向かったことがある人は、あの道中のワクワク感に共感してもらえるだろうか。
金沢八景駅からモノレールのシーサイドラインに乗り換え、海のある風景を眼下に見ながら電車に揺られる数分間。八景島駅から大きな橋を渡って、広場と遊園地の横を通り過ぎながらシーパラダイスに行く道のり。
ふつふつと高揚感が沸き上がってくるようで、到着したときから楽しくてしょうがなかった。

そのときの八景島シーパラダイスは「どうぶつの森」コラボの真っ最中。
正面広場にはゲーム内で流れるBGMがゆったりと流れていて、小学生のころにニンテンドーDSでどうぶつの森を毎日プレイしていた夏休みの記憶がよみがえってくる。

チケットを買ったら、いよいよ水族館内に足を踏み入れる。
巨大な水槽を前にしてひたすらぼーっとしてみたり、
人慣れしているのかカメラを向けるとすぐに近くにやってくるペンギンたちを撮影したり、
セイウチのあまりの巨体に驚嘆したり、
しゃがみこんでカピバラが草を食む様子をじっと見つめてみたり。

泳いで向かってきてくれる。かわいい。

水族館にいると、なんとなく何を考えずにいても許されている気がしていて好きだ。
外の世界よりも少しだけ暗くてひんやりしている空間では、水の音や生き物たちの静かな息遣いが生み出している絶え間のない流れのようなものに包まれるような、そんな感覚にだんだんと陥ってくる。

館内をひととおり見終わったら、次の興味の対象は紫陽花へと移っていく。
咲きほころび始めた紫陽花を眺めるため、島をぐるりと一周。
途中でマーチングバンドが練習をしているところに遭遇したり、クローバーとシロツメクサが敷き詰められたように生えている一帯を見つけたり。
紫陽花巡礼を終えて少し汗ばんだ身体を冷やしたくて、ソフトクリームを食べたりもした。

名前が良すぎる紫陽花

水族館も紫陽花も満喫したところで帰路につく。
とはいえまっすぐに帰るようなことはなく、八景島駅の手前で道を逸れる。向かう先はもちろん海。
目の前に海が見える石のベンチに腰掛け、すぐ下の砂浜でボール遊びをする子どもたちや、頭上を幾度も往復している鳥たちに挟まれるようにして、日が沈みゆく海と対峙していた。

私の夏の1日目。
オープニングとして最高の一日だった。

6月23日。

6月下旬の個人目標は、梅雨を楽しんでやること。

梅雨といえば、雨空の下の紫陽花、
紫陽花を見に行くなら鎌倉、
鎌倉を歩くなら和装で。
そういう連想ゲームの末に、"浴衣をレンタルして梅雨の鎌倉で紫陽花を見る"というプランが固められた。

その日の天気予報は曇りのち雨。
いつものお出かけの日だったら少しだけ憂鬱になる天候だろうけど、こちとら「梅雨なんだから雨くらい降ってもらわないとね」と気概充分。
お気に入りの藍色の傘を手に取り、鎌倉へと向かった。

まずは小町通りにある着物レンタルのお店に行き、浴衣を選ぶ。
どんな柄にしようか、どの帯に合わせようかさんざん迷いながらも、白地に薄紫色の花と緑色の葉っぱが散っているような柄に魅かれて着付けてもらう。
帯と髪飾りは、紫色とえんじ色が混じったような深みのあるものを選択。

下駄が鳴らすカタリコトリという足音を聞かせながら、次に向かったのは長谷寺である。
言わずと知れた紫陽花の名所。ここに行かずに梅雨の鎌倉は語れないだろう。
人はたくさんいたけれど、かえってその方が一歩一歩石段を進むごとに紫陽花を鑑賞できた気がしてよかったと思う。
曇天のなかで見る紫陽花の大群は、めいめい色づき、自分たちの声をしずしずと漏らし出しているかのような印象を受ける。

紫陽花を見上げたのって初めてかも。

そのまま高徳院、そして鶴岡八幡宮に行き、小町通りに戻ったところでこの日の鎌倉行脚は終了。
我ながら風流な梅雨の楽しみ方をしてしまったと、大満足の一日を過ごした。

7月:「好き」を再発見せよ

7月12日~7月15日。

この夏、第一弾の旅行先となったのは宮城県。
もともと私は大学院生時代に仙台に住んでいたこともあり、故郷のように愛着がある土地でもある。

1日目のメインの目的は、その大学院時代の恩師や後輩と会うこと。
約束している時間よりもかなり早く到着した私は、久しぶりの仙台を思う存分歩き回ることにした。

お気に入りのブックカフェ「cafe 青山文庫」。
図書館と震災にまつわるアーカイブを有する「せんだいメディアテーク」。
勾当台公園に、定禅寺通り、アーケード街。

本とダークなインテリアに囲まれたブックカフェ

ぶらぶらと歩きながら、思い出が残るそこかしこに立ち寄って時間を過ごしたところで夜になり、ようやく待ち合わせをしていたお店へと向かった。

大学院の人たちと話すと、自分が研究していた学問分野や、アカデミズムそのもの、そして仙台で暮らしていた日々が本当に好きだったんだなぁとあらためて実感することがある。
研究室で修論のための資料をにらみながら悩んでいたことも、日本酒を飲みかわしながら先生や同期と話していた夜も、とても大切な一瞬だった。

そんな久しぶりの邂逅でほろ酔い気分のまま眠りにつき、迎えた2日目。

この日の午前中は、仙台市博物館へ。
ここは今年の春まで改修工事で3年くらい休館になっていて、なんだかんだ仙台に住んでいたときも一度も行けていなかった。

博物館の階段にあった、ありえない背もたれの椅子

そこを見終えて昼過ぎに向かったのは、秋保温泉。
仙台駅から30分ほどバスに揺られ、宿泊先の「篝火の湯 緑水亭」へとたどり着いた。

篝火の湯と銘打っているだけあり、ここの見どころは煌々と灯された篝火がある露天風呂。
温かいお湯と、外の空気と、周りでゆらゆらと燃えている炎に囲まれて、現実離れした気分になれる素敵な温泉だった。

旅行3日目。宿をチェックアウトしてまず向かったのは松島だ。
島めぐりの遊覧船に乗って「やっぱり夏の海といえば船だよね」と思ったり、福浦橋を渡って「橋っていいなぁ」と感じたり、橋を渡った先の福浦島で小さな砂浜を歩いて「やっぱり夏の海といえば砂浜だよなぁ!」とはたまた思ったりしていた。

その後は、この旅行の一大イベントが待ち受ける塩釜へ。
何があったのかといえば、 「塩竈みなと祭」の前夜祭として開催される花火大会である。
東北の夏の始まりを告げるかのように約8000発の花火が打ち上げられるとあって、私が到着した16時前くらいの時点ですでに多くの人と出店で賑わっていた。

お祭りの出店って、どうしてあんなにワクワクしてしまうのだろう。
焼そばやとうもろこしといった定番のメニューや、宮城らしい牛タン串などを出すお店などがズラリと並んでいたのを見たときには思わずテンションが上がってしまった。
ついでに最寄り駅の本塩釜駅にあるイオンに、浴衣を着た地元の中高生らしい子たちが詰めかけていたのも良かった。

夜が近づくにつれて少し雨が降り出して心配したけれど、予定通り無事に花火大会は始まった。
打ち上げ花火を見るたびに、お腹の底から響いてくるような大きい音がすることに驚いてしまう。
今回もそうだったし、それでもじきに花火の美しさと迫力に目を奪われていった。
傘を差しながらの花火って初めてだったけど、これはこれで自分だけの空間を傘で確保しながら花火を見ることができていいなと思えた体験だった。

このタイプの花火って、しだれ桜みたいで好き

ここまでが、宮城旅行の記録である。
最終日はお土産を買ってお昼前に帰っただけだったので記載は省略するが、この3泊4日はあらためて自分の"宮城愛"が強まった期間だった。

7月(そのほか)。

思った以上に長くなってきたので、ちょっと番外編。

私は昔から読書、もっぱら小説を読むのが好きだ。
特に好きな小説家さんとして真っ先に名前を挙げるだろうというのが、辻村深月さんなのだが、7月のある日に私が勤める会社で「辻村深月の良さを語る会」が開催される運びとなった。
これは本当に嬉しくなっちゃって、この会のために自作スライドを用意しておすすめの作品をただひたすら語るオタクとなり果てた。

作ったスライド1枚目

あと、西荻窪駅の周辺で本屋をめぐる一日もあった。
このあたりのエリアは古くから愛されてきたんだろうなという書店や、独自のテーマ性を持つお店がいくつもあって素敵な町だと思う。
例えば「旅の本屋のまど」さんはその名の通り、旅に関する本ばかり集められている。おすすめです。

8月:夏を最大限に謳歌せよ

8月2日。

手持ち花火がやりたいと騒ぎたてていたら、一緒にやってくれるという人が集まってくれて周りにめぐまれているなあと思った。
私を含めた4人で錦糸町に集合する約束をして駅に降り立つと、なんか7人いて目を疑った。
聞くところによれば、別の理由でその日遊びに誘った人が「花火をやるので無理です」と断られ、じゃあ一緒にやりましょうよとなってどんどん声をかけているうちに当初の人数の倍になったらしい。
本当に周りにめぐまれていて嬉しくなった。

近くのドン・キホーテで手持ち花火を物色し、「8人いるなら300本くらいはできるでしょ」と山盛りの花火を買い込んだ。

20時半過ぎくらいに公園について花火を始める準備をしていたら、公園の見回りをしているらしきおじさまに「この公園は花火21時までなんでね~」と声をかけられ、手持ち花火RTAのゴングが切って落とされた。

片手で3本の花火という贅沢

1人で4本ずつくらい花火を持って一斉にシューシューと輝かせたり、途中でチャッカマンが全然つかなくなるトラブルに見舞われ追加チャッカマンを急いで調達することになったり、線香花火も終えてひと段落と思っていたところで袋の裏にまだ大量の花火の残りが隠されていることに気付いて慌てたりと、なんだかずっと焦っていたのにこの上なく楽しい夜だった。

8月4日。

ディズニーのバズライトイヤーのアトラクションが近々閉鎖されるらしいという話を聞きつけたことをきっかけに、ディズニーランドへ。

夏真っ盛りということもあってすごく暑かったものの、その猛暑のせいか全然アトラクションに並ばずに入れてしまうくらい人が少なくて、思った以上に楽しみつくしてしまった。

夏というのは水に魅かれてしまうものらしく、カリブの海賊やジャングルクルーズ、トムソーヤ島など、行きたい場所をめぐっているうちにありとあらゆるランドの水場を制覇することとなった。

トムソーヤ島の橋、すごく好きです

なかでもこの期間は”びしょ濡れマックス"というイベントをやっていて、スプラッシュマウンテンでは顔面から水を受けることになったりした。

ぬれたらごめんどころの騒ぎではない

当初の目的だったバズライトイヤーではおそらく自身の過去最高得点を獲得したし、ジャンボリミッキーのショーではしゃいだり、エレクトリカルパレードもしっかり最初から最後まで観賞したりして、夏のディズニーランドの正解をたたき出してしまったような一日になった。

8月13日~8月14日。

夏の旅行、第二弾。
行先は「篠島」である。

篠島というところは、おそらく観光地としてはマイナーではないかと思う。
愛知県にある離島で、名古屋駅から電車と船を乗り継いで1時間半くらいで着く場所にある。

私もこの島を知ったのは旅行先を調べ始めてからなのだが、旅行の動機というのが「夜の海に行きたい」「静かに海を眺めたい」「月明かりの下で砂浜を歩きたい」と私がここ数年喚いていたのを、いい加減実現させるつもりになったためである。
夜まで静かに海を見るなら、海に囲まれた離島に旅行をするのが最適解なのではないかと思い、比較的行きやすいであろう日本の島々を調べていたら偶然たどり着いた。

結論から言うと、この選択は本当に大正解だった。

これぞビーチと太鼓判を押したくなるほどに綺麗な海と砂があり、裸足で砂浜を歩いているだけで自分が夏の1ページに取り込まれたような、美しい景色が広がっていた。

「夏」そのままの景色みたい

砂浜の散歩をしてから宿の夕食まで時間があったので、展望台などがあるという島の山側を散策してみることにした。
遊歩道があるというのでふらふら歩いているだけでいいかなと思っていたら、ところがどっこいこれが険しい道のりでびっくりした。
まったく「遊歩」どころではなく、途中から「冒険に立ち向かっているんだ」と頭を切り替えないといけなくなった。

山道で唐突に現れる「キラキラ展望台」の標識

とはいえ途中途中で見える景色は、どれも海であるはずなのに違った魅力があって、素敵な島にいることがどうしようもなく喜ばしかった。

宿に戻ってたくさんの量の海鮮料理でもてなされたところで、もう一度目の前の海辺へと向かった。

地元の人が手持ち花火を持ってきているのを少しうらやましく横目で見ながら、サンダルを脱いで再び砂浜を歩いた。
昼間とは違って水が冷たくて、満潮の時間が近づいているせいか波も強くなっているような気がするなかで歩くのは、とっても嬉しいのにほんのちょっとだけ寂しいような感覚があって、その感情もすべてが愛おしい気がした。

本当に、こういう海を歩きたかった

そうして砂浜の端まで到達したら、遠くの方に何かが光っているのが見えた。
じっと目を凝らしていると、それは対岸で開催されている花火大会の光だったようで、打ち上げ花火が小さくも鮮やかに咲きあがっていたのだった。
あまりにも美しくて、こんな夜を過ごしたことを、ずっと忘れないでいたいと強く思う。


以上が、やりたいことを全部やろうとした、2024年夏の私の記録である。
細かいことはもっとたくさんあったし、ひと夏を過ごしたなかで出てきた新たな楽しみもある。
またたくさんの楽しさと美しさを追い求めて、次の素敵な日々を記録する機会を作ろうと思う。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集