古本屋で詩いちゃんという女の子に出会った話
夏葉社という一人出版社をご存じだろうか。
島田潤一郎氏が一人で立ち上げ、大手出版社とは一味違うこだわりを見せる美しい本を出版されている会社である。
島田氏が立ち上げたもう一つのレーベルである岬書店から「のどがかわいた」という本が発売されている。
大阿久佳乃(おおあく よしの)さんが高校生の頃、不登校に悩んだ自分をみつめながら、好きな詩について書いた作品で、元々はフリーペーパーとして古書店などを中心に置かれていたものがベースとなっている。
僕は、この作品のことを京都市左京区にある古書善行堂の山本善行さんに教えていただいた。
山本さんは古書ソムリエとしても有名で、不登校に悩む大阿久さんに「詩が好きならプリ―ペーパーを出してみたら」と勧めたのは山本さんだそうである。山本さんは。大阿久さんのことを「詩いちゃん」と呼ばれる。
「のどがかわいた」は全編にわたり、好きな詩や詩人について、高校生らしい瑞々しく、繊細な感性でつづられており、その中に家族や学校への不満や将来への不安などが混ぜ込まれている。
例えば、吉行理恵という詩人については、こんな風に書かれている。
「吉行理恵というのは、はじめ、生理的にいやな感じのする詩を書く人だった。それは作品から感じる気弱さのせいだった。・・・詩全体が躊躇に満ちている。おどおどしている。」
「時間をあけて、再読に至った。そのとき、彼女の詩は私のものになったとはっきり感ぜられた。これこそ私の心だと思った。この寂しさ。戸惑い。恐れ。」
「彼女から感じるのは、「自分は弱い。」、「自信がない」を肯定することにより現れる、ある種の強さだ。」その強さがなんであるかは表現しがたいが、私にはその強さこそ、折れたり失われたりすることのないものに思われる。
僕は、一読して驚いた。
詩を通して、自分の考えや悩みを整理し、魅力的な表現で文章に落とし込んである。高校生とは思えない文章だが、高校生にしか書けない文章でもあると感じた。
中学、高校というのは、いろんなことに悩み、反抗し、傷つく年頃であるが、「自分が弱い」「自信がない」と感じるのは若者だけではない。大人になった僕も日々「自分は弱い」「自信がない」と思いながら、何とか日々を生きている。
そんなとき、「「自分は弱い。」、「自信がない」を肯定することにより現れる、ある種の強さ」という大阿久さんの解釈は、僕に力を与えてくれる。
弱い自分、自信がない自分を受け入れ、肯定することで強くなれる。
この言葉に触れると、「そうだよな。今日もがんばろっ」と素直に思えるのである。