エッセイも小説も~『そういうふうにできている』『それは誠』『第七官界彷徨』3月前半の読書記録
3月前半に読んだ本を紹介します。
そういうふうにできている(著:さくらももこ)
小学生か中学生の時に、『もものかんづめ』『さるのこしかけ』『たいのおかしら』といったさくらももこエッセイ三部作は、一通り読んでいた私ですが、この作品は読んだことがなかったので読んでみることにしました。
さくらももこさんの、初めての妊娠から出産まで体験を綴ったエッセイ。ものすごく読みやすくて、こんなにわかりやすい文章で、面白く書けることがうらやましい!ウィキペディアによると「平成の清少納言」とも評されたことがあるそうです。
くくくっと思わず笑ってしまう脱力系エッセイもあれば、不思議とどこか達観したような、ほんのり色気のあるエッセイもあります。
日常のことをこんなに愉快に書けることがうらやましい。
それは誠(著:乗代 雄介)
第169回芥川賞にノミネートされた本。
この回で芥川賞を受賞したのは、市川沙央さんの『ハンチバック』でしたし、ノミネート作が発表された時点で『ハンチバック』の注目度が他の候補作よりも頭一つ抜けていた気がするので、それ以外の候補作を読んでいませんでした。
乗代さんは日経新聞の「プロムナード」欄でエッセイを連載されていたのでそちらでお目にかかっていましたが、単行本(小説)を読むのは実は2冊目です。
最初に読んだ『旅する練習』の世界観がすごく良くて(素敵な作品…!)と味わいながらゆっくりゆっくり読み進めていたら、最後の最後で悲しい結末を迎えたのでつらくなってしまいました…。
『旅する練習』も第164回芥川賞にノミネートされていますが、あのラストって、やっぱり賛否わかれたんでしょうかね…。
今回読んだ『それは誠』は、東京に修学旅行に行く男子学生が主人公。
学校に提出した班別の自由行動の旅程を意図的に外れて、日野市に住む叔父さんに会いにいく、というお話。
読み始めは正直「両親がいないとはいえ、そこまでして音信不通になった叔父さんに会いたいかなぁ?」と感情移入しにくい部分があったのですが、主人公の誠を含む同じ班の男子4人が、日野市に着いた後の行動にページをめくる手が止められなく、一気読みしてしまいました。
最後には、計画通りの班別行動をしていた女子3人組も加わっての大団円。
いやぁ、今回は平和に終わって良かった。面白かった。
第七官界彷徨(著:尾崎翠)
やっと読めた、尾崎翠の代表作、『第七官界彷徨』。
読み方は「だいななかんかいほうこう」です。河出文庫のものを購入。儚げな装丁もイメージにピッタリ!
主人公は詩人を目指しているちぢれ毛の少女、小野町子。
町子の一番上の兄であり、精神科(分裂心理学)の医者である小野一助、二番目の兄でありコケの研究者である小野二助、町子たちの従兄弟にあたり、音楽学校の浪人生である佐田三五郎の三人が暮らす家に、町子が炊事係として住むことになったことから始まります。
町子は風変りな兄弟たちに振り回されながらも、人間の五感と第六感を超えた感覚、つまり、第七官に響くような詩を書きたいと願っています。
始めの方は主人公の町子を含む登場人物に関するエピソードが多く「どこからか面白くなるのかな?」と思いつつ読んでいきました。
正直に言うと、この作品が「傑作」と言われていることにあまりピンときていませんでしたが、途中で隣人が引っ越してきてから俄然面白くなります。
この小説にキャッチコピーをつけるなら「登場人物全員失恋」といったところでしょうか。二助が研究している感情を持たないコケだけが恋愛に成功しているのが何とも皮肉です。
『第七官界彷徨』から影響を受けたということを作家の森見登美彦さんがおっしゃっているそうなのですが、そのインタビューを私はどこで見たのか、引用元が見つけられず…でも、なんとなく『夜は短し歩けよ乙女』の世界観に近いものはある気がします。