ジャン=リュック・ゴダール「気狂いピエロ」(1965)110分
もうなんと言えばいいのか、それこそ大学時代に見て、圧倒的な「好き」という印象だけがずっと脳裏に残っている作品である。
30年前の仏文科の学生にとって、ヌーベルバーグは「神」であった。ゴダール(1930-2022)、フランソワ・トリュフォー(1932-84)、エリック・ロメール(1920-2010)を語ることは、ソシュール、ドゥルーズ、ガタリと並んで、「知っている」と言わなければならない「記号」そのものだった。みんな亡くなっちゃったけど。この作品を初めて見たのは、お茶の水にあるアテネ・フランセの「ゴダール映画特集」。フランス大好き人間が集う場所だったなあ、懐かしい。
それこそ何度も見返したはずなのに、なぜだろう?今回ほど冷静に見たことはなかった気がする。他人に見せようと意識しただけで、これほど違うのだろうか。
そして恐ろしいことに、まったく断片的にしか覚えていなかったことにも愕然としている。でもおかげさまで110分の作品を、まるで初めて見たかのように楽しむことができた。
全体の印象からいうと、気持ちがいいくらい「カラー映像」が効いている。「8 1/2」とわずか2年しか違わないのに、古さをまったく感じない。ゴダールはこの「色彩」という武器を最大限に生かすことに成功している。
ロケ地の外観、店、部屋のインテリア、車、ファッション、船、ネオンライト、絵画、血液、そしてダイナマイトに至るまで。これでもか!というビビッドな色使いとセンスがもう本当にすばらしい!
ジャン=ポール・ベルモント(1933-2021)とアンナ・カリーナ(1940-2019)だけが高額ギャラだったと思われる役者陣だが、全盛期の2人の破壊力はハンパない。途中で、役者が、観客に話しかけるシーンも出てくる(ヌーベルバーグ!)。これをやられると、役者がカメラ目線になるたびに「何か仕掛けてくる?」と、観客はドキドキしてしまうのだ。2人の衣裳もいつもおしゃれでカラフルで「どのカバンに入れてたの?」と突っ込みたくなるが、まったく気にならない。
「おっ!」と唸ったのは、長回しのカメラワークが多用されていて、強いインパクトを与えていることである。
▶︎ 燃えている車から、2人が離れていく長回し。
▶︎ 川の中を、2人が歩いていく長回し。
極め付けは、上の写真のシーンで、
▶︎ 海辺を走るフェルディナンの映像を、乱暴に短くズームアウトし一度静態した後で、今度はそのままゆ〜っくりズームアウトを再開して海辺全体を見せてから、横にパーンするとベランダにいるマリアンヌと小男が出てくる長回し(写真)。
これは撮影監督ラウール・クーターも研究せねばなるまい。
映像だけでなく音響効果でも、画像と音楽を微妙にずらしてみたり、音のボリュームを急に上げ下げすることで、臨場感を高めているテクニックあり。アンナ・カリーナのちょっと調子っぱずれのシャンソンもすばらしく(CD買ったはずだが、どこに?)やっぱり奇跡のような名作であることを再確認した。
残念だったのは、アマプラで見たせいで、ラストシーンのアルチュール・ランボーの詩「永遠」が聞き取れなかったことである。アマゾン関係者にはぜひ善処して頂きたい。
L'Éternité : Arthur Rimbaud 1872
Elle est retrouvée.
Quoi? - L'Éternité.
C'est la mer allée
Avec le soleil.
見つかったよ
何が? - 永遠が
太陽と一緒に
去ってしまった海が